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第7話

 そう言う訳で、真太はみんなを瞬間移動させてアマズンに戻ろうとしたその時である。

 目前に、どこからやって来たのか、でかい体躯のなんだか禍々しい気配をさせる奴が表れた。それにしても真太には、そいつはなんだか覚えのある気配な気がする。

「変なヤツ。ここは魔界じゃないんだから、魔物のはずはないけど、魔物っぽい気配をさせているような感じだな。それになんだか覚えがある奴なんだけど、誰だったかな。イデはこいつ知っているか」

 真太は思案したが、分からず、イデに訊いてみた。

「ははっ、真太はもう忘れたのか。アバの気配に似ているな。親子だからじゃないかな。こいつ、本物のアビの魂だぞ」

「ええっ、ホント。どういう事?」

 事情を知らない千佳由佳は思わずイデに疑問をぶつけた。

「あ、後で説明しよう」

 イデは元アビを注意深く観察していた。行く手を遮った元アビは自分を無視して、色々話し合う彼らにすっかり腹を立てていた。

「お前たち、何ごちゃごちゃ言っている。俺を放っておくとはいい度胸しているじゃないか」

「度胸も何も、そういう話じゃないんだ。お前って、自分の出目とか分かっているのかな。魂だけの世界にいたんじゃ、ちょっと分かりっこない気もするけど」

 真太のいささか具体的とは言えない言い草に、もっと腹を立てた元アビの魂、信じられないことに、ちょっと懐かしいともいえる「ばうおぉん攻撃」を始めた。

「あれっ、これって魔王とかの技じゃないのか」

 真太は驚く。

 イデ、また笑いだす。

「魔王の技をマネする地獄育ちの龍神ってか。驚いたな」

「ねぇねぇ、イデったら笑いすぎー、どういう事?」

 千佳由佳は騒ぎ出す

 わりと真面目に攻撃している元アビの魂は、全然相手をしてくれない皆にいっそう憤るのだった。

「おのれ、これでもくらえ」

 精一杯、ばうおぉおん攻撃を終え、力尽きて倒れそうになる元アビの魂であった。

 ぜいぜい言いながら皆を睨みつける。

 彼にとっては残念なことだが、イデは攻撃される前にさっさと攻撃を受け付けない結界を張っていた。それで千佳由佳も、真太も平気なのである。今までこのような技を使う龍神は周りにはいなかったので、真太及び千佳由佳は内心感心する。

 そんな時、千佳は気づいた。

「あっ、そう言えばこの人、ホントにアビなのかも。アバさんにだって似ているかも。アバさんが、へなへなするとか、へらへらするとこんな風になりそうよ。どういう事?」

 真太は教えてやった。

「こいつはアビの本当の魂だよ。今アビに入っている魂は、多分魔界の魔物の内の誰かだろうな」

「ええっ、うっそう。信じられない」

 千佳に言われた真太は、

「イデの言う事は信じるくせに、俺の言う事は疑うんだな。くそー」

「千佳。この人、と言うか、この龍はアビで間違いないと思う」

 真太が憤っているのに気付いた由佳に言われて、千佳はイデの話も本当は疑問に思っていたのだが、今は由佳の言う事だからと納得してきている。

 と言うことで、この場で納得していないのは、本人と言うか本龍だけとなった。

「お前ら、言わせておけば俺の事をごちゃごちゃと。こんな不愉快な気分にさせて、タダじゃ置かないからな」

「では、どうするのかな。だが出来はしないだろう。今まで龍神に育てられてはいないから能力は無いな。こんな所うろついていないで、自分の体に戻りなよ。どうやらもう、拘束されていないようじゃないか」

 イデはそう言って、現世の方向にアビを蹴った。

「うわーっ、何しやがる。俺はどこへ行くんだー」

 叫びながらアビは飛んで行った。

 真太はそれを見て、自分の生まれる前の出来事に似ていると思った。

「へぇー、蹴れば現世に行けるのかな」

 由佳が言った。

「今、真太が蹴ったって無理だよ。何かコツがあったみたい。イデ、何したの」

「由佳ちゃん、何か感じたのかな。勘が良いね。でもちょっと説明は難しいな」

 千佳がそれを聞いて、

「もう、由佳とイデったら、訳の分からないことばかり話して。ちょっと妬けるね」

 真太は、

「何だってっ、二人ともイデにばっかりお愛想して。俺も助けに来たんだからな、言っておくけど。それにしても、あんなふうに蹴って、魂を体に戻したとして、今あいつの体にいる奴はどうなるんだ」

 真太は分からないことだらけだが、一応、一番の疑問の点をイデに訊いておく。

「ははは、お前ら姉弟、面白いな。それにしても、真太の懸念には『確かに』、と言っておこうかな。どうやら、今までの魂は入っていた期間が長かったから、出て行かなかったみたいだ。二つ魂が入っているのは不味いから、帰って何とかしないと」

「じゃ、俺がまとめて瞬間移動しよう。イデは能力を温存しとけ」



 戻ってみると、まだ日も暮れておらず、割と早いご帰還となった。

「パパーッ、ママーッ。怖かったよぅ」

「あー、みんな無事だったのね。早く戻れて良かった。ちゃんと取り戻してくれて、良かったわ。真太、ありがとう」

 ママは千佳由佳の早いお帰りで大喜びだし、パパも、

「割と早く片付いたな」

 と含みを帯びた言いようである。

 何かあったかなと、真太は少し違和感を覚えたが、それでも先にママには言っておく、

「ママ、またさらわれない様に結界を張ってよ」

「そうよね、さっきはうっかりしていた」

「さっきはママも疲れていただろう、今から張ればちょうど良いよ」

 アボパパは、さっき作り終えたばかりらしいアマズンの現地風の家を指して、ここに張ってと言っている。

 真太は自分の家に入ろうとしていたイデに、

「イデ、付いて来てくれて、ありがとう。助かったよ」

 と言っておいた。パパとママも思い出したように、

「イデ、ありがとう」

 と言った。イデはにやりとしたが、さっさと家に入った。

 由佳が、

「アビが来ているからね」

 と報告した。そこで、真太もさっきの話をパパとママに報告した。

 アボパパは、難しい顔をした。

「あのあほう、不味い魂までアビの中に入れやがって、これじゃあ、もっとアビが危険な奴になったじゃないか。そう思わないか、真太。イデは一体、何を考えているんだ」

「うーん、そういうものかな。でも、本物のアビの魂なんだから、アビの体に入るべきじゃないかと思ったけど」

「だが、魔王の技を知っていたじゃないか。もう魂が魔界寄りに変化してしまったのでは・・・」

「あ、イヅが言ったの?パパが?ここからでも様子が分かったんだね。」

 すると、アボパパはすまして、『えへん』などと咳払いしている。

 香奈ママが、真太をちょちょっとつつき、小声で、

「パパ、氷漬けのショックで割と色々回復したんだってよ」

 真太も思わず小声で、

「ここから龍神の黄泉まで見えたって、透視能力半端なくない?イヅ並なんじゃないか」

「えへん、そういう事だ」

 アボは自分の子の真太にまで、得意げな顔をした。

 真太は『氷漬けショック療法なんかで回復するとは、アボの生命力は底なしのようだな』と思った。


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