勇者連合軍総督となる
翌日。
俺達はエルフの里を後にした。
だが、近いうちにまたエルフの里に顔を出すことになるだろう。
今回の件で七つの大罪である嫉妬の王インウィディアに里の場所を知られてしまった。
通行証も恐らく持っているだろう。
なのでこの里にも魔族避けの結界を張る事にしたのだ。
エルザ伝いでアルメイダ公国公王のザダに通話のピアスで連絡をし、魔道具の作成を依頼した。
魔道具が完成次第転移でこの里を訪れる事になるだろう。
ともあれ、ひとまずエルフの里とはお別れである。
リーラはといえば、あの長かった髪の毛をばっさり切って肩口あたりで揃えていた。
その髪と同様、その表情はすっきりとした様子であった。
リーラは朝、俺とともにエルフの里を隅から隅まで歩き回り、里の様子を目に焼き付けていた。
辛い時にはこの里を思い出し、励みにするのだとか。
心の支えは大事であるので、俺もそれに付き合った。
行きとは違い帰りは簡単なもので、直接屋敷の地下に転移した。
リーラは初めての転移魔法に大層興奮していた。
リーラをリシルとシスの従者組に紹介し、リーラに屋敷を案内する。
リーラの私室を決め、番犬のケルベロと番竜のガゼルという俺の使い魔コンビをリーラに紹介した。
ケルベロの毛並みにリーラは早くも虜になっていた。
サタン邸の案内が一通り終わると、今度は王城へ向かう。
今回の件の報告だ。
大体の内容はエミリアが報告しているが、それでも改めて報告しなければならない。
今回お告げの内容であった聖樹ユグドラシルを守るという事は、結果的には成功した。
だが、敵はユグドラシルの魔力を奪って逃走した。
奴らがユグドラシルの莫大な魔力を使って何をするつもりなのかは知らないが、碌なことではないだろう。
王城へ着くと、すぐに謁見の間に通された。
謁見の間にいたのはルーガート王に宰相ノーチス、軍部総司令のカーチスに近衛騎士団長のルークといういつもの面々に、文官達も何人か姿が見えた。
「ご苦労だったなディスアスターよ。よくぞ聖樹ユグドラシルを守ってくれた」
「ユグドラシルの魔力は奪われてしまったがな」
「それでもだ。そなたは魔力欠乏症になってまで聖樹に魔力を送ったと聞いておるぞ」
ルーガート王は俺の白い髪に視線を送りながら笑みを浮かべた。
「それより問題は"ゴエティアの悪魔"が敵に回っている事でしょうな」
宰相ノーチスが顎髭を撫でながら言った。
ノーチスの言う通り、"ゴエティアの悪魔"達は72人それぞれが悪魔の軍隊を所持している。
それに"ゴエティアの悪魔"の戦闘能力も脅威だ。
「うむ。他の71人も敵に回っていると仮定すると、我が国の軍だけではとても太刀打ちできまい」
そうだろうな。
アルメイダ公国の軍を入れてもまだ厳しいだろう。
「そこでな。"アルカディア連合軍"を結成する事に決めた」
「"アルカディア連合軍"?」
なんだそれは。
「創造神アルカディア様の名の下、国境を越えて魔族を討伐するための軍を編成するのだ」
要するに各国の連合軍という事か。
「更に"アルカディア連合軍"編成にあたってこの王都で大闘技大会を開催する」
なるほど。
その闘技大会で"アルカディア連合軍"に入る者を選抜するわけか。
「大闘技大会の成績優秀者は連合軍での地位を約束するわけですな」
「そして、ディスアスター。そなたにはこの"アルカディア連合軍"の旗印になって貰いたい」
「旗印?俺は何をすれば良いんだ」
「なに、今までと変わらんよ。ただその名前を貸してくれれば良い」
なら構わないか。
「ああ、いいぞ」
「よし。それでは勇者ディスアスター・サタン・ヤマトを"総督"として"アルカディア連合軍"を発足するぞ!」
気付けば俺は連合軍の"総督"になっていた。
まぁ名ばかりの"総督"だが。
その後いくつか話をした後、俺達は謁見の間をあとにした。
「安請け合いしちゃって良かったの?」
エミリアは俺の安請け合いに呆れた様子であった。
別に考えなしに受けたわけではないがな。
「俺の名前を使う事で少しでも士気が上がるなら構わないさ」
それに、俺が戦闘以外には基本的には実務をしない事はルーガート王も知るところである。
俺にそういった仕事のある役回りは押し付けないだろう。
それにしても、大闘技大会か。
中々面白そうな催しだ。
ぜひ俺も参加したいところであるが、俺の参加は止められてしまった。
だが、その代わりに優勝者とエキシビションマッチとして戦える事になったので、良しとしよう。
面白そうな人材は目星を付けておかねばならない。
当日は全試合見るつもりでいよう。
珍しく心踊る俺であった。