結婚初夜〜リーラ〜
その後。
俺はリーラを連れていつもの貴族御用達のアクセサリー屋を訪れた。
リーラに婚約指輪を渡すためだ。
障壁のペンダントは既に緑色の魔石を使ったものを渡している。
出来れば指輪も緑色のものがあると良いのだが。
「ちょうどお求めの商品がございますよ」
店主は綺麗な緑色の魔石を使ったミスリル銀製の指輪を持ってきてくれた。
魔石の指輪は高価な上にあまり買い手もつかないと聞く。
どうしてこんなに品揃えがあるのか聞いてみると。
「勇者様はミスリル銀製の、魔石を使った指輪をお求めになられますので。こちらの指輪は各色仕入れているのです」
とのことだった。
俺も既にこの店のお得意様である。
こういった細やかな気配りが貴族御用達商人である所以なのだろう。
ならばせっかくなので礼がわりに俺がこの指輪を買う理由を見せてやろう。
俺はこの場で購入した指輪に魔法陣を刻み込んだ。
精神系統防護と耐毒の魔法陣だ。
そしてリーラの左の薬指に指輪をはめてやる。
リーラはうっとりとその指輪を眺めていた。
この魔法陣を刻み込む技術は既に魔道具ギルドに教えている事を店主に伝えると、店主は大層喜んでいた。
これで魔石やミスリル銀を使った指輪に新しい需要が生まれることだろう。
俺たちは満足しながらアクセサリー屋を出た。
家に戻ると、夕食の用意が出来ていた。
従者組も含めて全員が席に着き、食事を始める。
「え、ちょっと待って。なにその量」
リーラは俺のところに用意された食事の量に驚いていた。
俺の食事の量はリーラのおよそ4倍ほどだ。
「ああ、そういえばエルフの里では普通の量しか食べてなかったものね」
エミリアは思い出したように言った。
エミリアの言う通り、俺はエルフの里では遠慮して普通の量しか食べていなかった。
まぁ、人が見ていない時に無限収納から食料を取り出し食べていたりしていたのだが、リーラはそれを知るまい。
「これがディスター様の普段の食事量ですよ」
リーラは口をあんぐりあけて驚いていた。
「信じられない。1人でこんなに食べるの?」
「ああ、そうだ」
俺は驚くリーラを横目に食事を始めた。
やはりリシルとシスの作る食事は美味い。
いくらでも食べられそうだ。比喩ではなく。
「まぁすぐ見慣れるわよ」
リーラ以外の面々は既に見慣れているので、気にせず食事を始めていた。
「早く食べないと冷めるぞ」
「そ、そうね」
リーラもまだ俺の方を、正確にはその食事量を気にした様子だったが、他の面々の反応を見てそういうものなのだと理解したのだろう、食事を始めた。
食事が終わると、風呂の時間だ。
今日はリーラの日と決まっているので、リーラと共に入る。
俺はさっさと服を脱いでしまったが、リーラは恥ずかしがっているようで、顔を耳まで真っ赤にして一向に服を脱ぐ気配がなかった。
「どうした?」
「ちょ、ちょっと先に行ってて!」
という事なので、俺は先に行くことにした。
掛け湯をして湯船に入る。
至福の時間だ。
エルフの里にいる時は温泉に入らなかったからな。
念入りに湯を体に染み込ませるように浸かる。
やはりアルメイダ公国のウルグ火山温泉には敵わないが、この人口温泉も捨てたものではない。
日頃の疲れが湯に溶け込むようだ。
特にエルフの里ではずっと気を張っていたからな。
ここで疲れを癒そう。
しばらく湯に浸かっていると、浴室の扉が開き、バスタオルを体に巻いたリーラが浴室に入ってきた。
「貴方ってそんな顔もするのね」
リーラは少し意外そうな表情をしていた。
「この温泉がそんなに気持ちいいの?」
「ああ。最高だ」
エルフの里には湯浴みという文化がなかったらしい。
定期的に水浴びをしていたのだそうだ。
リーラは恐る恐るといった様子で湯に足をつけると、そのままゆっくりと湯船に入ってきた。
そして、そのまま俺の隣に腰を下ろした。
「どうだ?温泉は」
「・・ちょっと熱いけれど、悪くはないわね」
その言葉通り、リーラは蕩けた表情をしていた。
彼女も我が家の温泉を気に入ったようだ。
「ここは素敵な家ね」
しばらくして。
リーラがぽつりと言った。
「里の家も好きだったけど。この家も好きになれそう」
「そうだろうとも」
自慢の家だ。
特に温泉が。
相当こだわったからな、風呂には。
我が家の浴槽には普通は石であるというのに、わざわざ香りの為に木を使っているのだ。
それがさらに温泉の入り心地を良くしている。
温泉を堪能し尽くした後は、2人で寝室に向かう。
風呂を出たあたりから、リーラはずっと顔を赤くして無言になってしまっていた。
寝室のベッドは従者組によって綺麗に整えられている。
魔力灯を薄く点け、寝室を薄暗い状態にした。
「緊張しているのか?」
「うん。すっごく緊張してる」
リーラはすーはーと深呼吸をした。
そして覚悟を決めたような表情になると、俺に勢いよくキスをしてきた。
勢いが強過ぎてお互いの歯が当たる。
「ご、ごめん」
「構わないさ」
俺は今度は優しくリーラにキスを落とした。
「慣れているのね」
リーラはぷくりと頰を膨らませた。
彼女は拗ねた表情も可愛く思える。
俺はその膨らんだ頰をつついてみた。
ぷしゅ、と息が抜ける。
それにリーラはくすりと笑った。
「ふふ、なんだかどうでもよくなっちゃった」
リーラはぽすん、と俺に抱き付いてきた。
俺はそんなリーラの額にキスを落とすと、ゆっくりその身体をベッドに押し倒した。




