勇者婚約の報告をする
リーラと婚約した。
だが、ハイエルフが他種族と結婚する為には両親と最長老の了承が必要であるらしい。
俺はリーラを連れてまずは両親であるターラとリーレに報告する事にした。
「まぁまぁまぁ!リーラちゃんが人族と結婚だなんて!しかもそれが勇者さまだなんて素敵だわ!勇者さま、リーラちゃんを幸せにしてあげてね!」
「娘をよろしく頼む」
リーラの両親は二つ返事で俺達の婚約を了承してくれた。
ターラはただただ俺達の婚約を喜んでくれたし、リーレはリーレでこの一言のみだった。
それにしても、母は多弁で父は寡黙という両極端な両親である。
次に俺達が報告しなければならないのは、当然エミリア達だ。
俺が通話のピアスで彼女達にリーラの私室に集まってもらうよう連絡すると、彼女達はまるで何の用件かわかっているかのように溜息混じりで集合を了承した。
本当に彼女達には、特に正妻であるエミリアには特別苦労をかけてしまっている。
暇を見つけて彼女を労おう。
もちろん、ララとエルザもしっかり愛さなければならない。
そこに更にリーラも増えるので時間を作るのが大変であるが。
それも俺の責任だろう。
全員をしっかり、平等に愛するのだ。
「許してもらえるかな」
リーラは先程両親に報告した時はケロッとしていたが、いざエミリア達に報告する段となると、表情を強張らせてとても緊張している様子であった。
やはり他の妻達に報告するのはとても緊張するらしい。
とはいえ、リーラとエミリア達は仲良くやっていたので、俺はそんなに心配していない。
この過度な緊張も今だけだろう。
しばらく緊張した面持ちのリーラと無言で待っていると、エミリア達が3人揃ってリーラの私室にやってきた。
エミリア達はそれぞれ用意してあった椅子に腰を下ろした。
「それで、話はなにかしら?」
エミリアはそう言うと、緊張でガチガチのリーラを見て微笑んだ。
ララとエルザもリーラのあまりの緊張に苦笑していた。
「リーラを俺の4番目の妻とする事にした」
「よ、よろしくお願いします!」
リーラはそう言うと勢いよく頭を下げた。
「リーラ。顔を上げて?」
エミリアは優しい声色でリーラに言った。
リーラはゆっくりと顔を上げた。
「ディスターは、まぁいいわ。こうなると思っていたし、今更異論もない。だから、リーラ。貴女に1つ聞きたいの」
リーラは真剣な表情を浮かべてエミリアを真っ直ぐ見据えた。
その瞳にはどんな質問だろうと真摯に答えようという意志が見て取れた。
俺の表情も自然と引き締まる。
「ディスターの妻となるという事は、すなわち魔族と戦う事になる。それには戦う力と覚悟が必要よ」
「戦う力と覚悟・・」
「そう。私達の目的は魔族の打倒。ディスターは強いわ。彼1人なら魔族にも負ける事は無いでしょう。でも私達は違う。力が無ければ、卑劣な魔族に人質に取られてしまうかもしれない。魔族を打ち倒すまで、ずっと戦い続ける事になるわ。その覚悟が貴女にはある?」
エミリアはそこまでの覚悟を持って俺の妻となってくれている。
それはララとエルザも同じだろう。
俺の妻になるという事は、そういう事なのだ。
リーラはその問いに、しばらく無言で考え続けた。
エミリアもリーラが答えを出すのを無言で待ち続けた。
そして、リーラは答えを出したのか、口を開いた。
「私は貴女達と比べて、どれくらいの強さなのかはわからない。でも、それでも次期最長老候補として、聖樹を守る為に力を研鑽してきたわ。里の中ではシュリ様以外には負けないと思う。魔族と戦う覚悟は、正直まだわからない。でも、たとえ魔族と戦う事になっても、あたしはサタンの妻になりたいわ」
リーラは強く真っ直ぐな口調で言い切った。
エミリアはそれに満足そうな表情を浮かべた。
「いまはそれで十分よ、リーラ。覚悟は妻となってディスターと共にいれば勝手に付いてくるから」
エミリアはそこで一度言葉を切り、再度続けた。
「リーラ。一緒にディスターを支えましょう」
エミリアの言葉に、リーラは表情を明るくした。
「・・うん!うん!ありがとうエミリア!」
リーラが思わずといった様子でエミリアに抱きついた。
エミリアはそれに苦笑しながらリーラの頭をぽんぽんと撫でていた。
ララとエルザのリーラを見る表情にも温かいものが見て取れた。
リーラはハイエルフであるので、具体的な年齢は聞いた事はないが、俺と同様見た目とは違いかなりの年齢であるはずである。
だというのに、エミリアが姉でリーラは妹なのではという印象を受けてしまった。
それにしてもよかった。
リーラは受け入れられたのだ。
俺としてもまさかエミリア達は否定しないだろうと思いつつも万が一を考えてひやひやしていたので、内心安堵の溜息を吐いていた。
出来ればこういった事はこれっきりにしたいものだ。
◇
さて、無事に妻達からの許可も頂戴したところで、最後は最長老であるシュリに許可を貰わなければならない。
俺はエミリア達も連れてシュリのもとへ向かった。
シュリは既に起き上がって居間にいた。
恐らくシュリはインウィディアから致死性の毒を受けていた筈であるが、身体の抵抗力が高いのか、もしくは発見が早かったからか、あるいは両方かわからないが、ララの解毒魔法がよく効いたようだ。
運良くララの解毒魔法が間に合ってよかった。
もしこれでシュリが亡くなっていればここまでの平穏を取り戻す事は難しかっただろう。
リーラは俺の隣に立ち、真剣な面持ちでシュリに向き合った。
「シュリ様。少しお話が・・」
「ああ、貴女達結婚するんだってね?おめでとう」
なんと、シュリは既に俺達が結婚する事を知っていた。
そして祝福してくれた。
「あ、はい。そうですけど、なんでもう知っているんですか?」
「貴女の母親が里のあちこちで自慢気に話して回っているそうよ。精霊達が教えてくれたわ」
シュリはそう言って苦笑していた。
なるほど、犯人はターラだったか。
あのお喋りな母親が得意気な表情を作りながら里のエルフ達に俺達の結婚について話す様子が容易に想像できた。
「もう、お母さん・・」
リーラはがっくりと項垂れていた。
気合いを入れて来たらこれである。
肩透かしもいいところであろう。
「でも、結婚する前に2つ。言っておかなければならない事があるわ」
シュリはまず人差し指を立てた。
「リーラはこの里の最長老の候補よ。だから例え結婚しても名前を変えるのはまずいの。まぁ前例があるから問題ないとは思うけれど、一応ね」
それはリーラからも聞いていた。
この里の最長老になる者の氏は"ユグドラシル"でなければならない。
"ユグドラシル"の名は聖樹ユグドラシルを守護するハイエルフの証であるからだ。
俺に嫁入りしたからと言って氏を変えるわけにはいかない。
ちなみにシュリのいう前例とはユーリ・ローゼンベルクの母のことだ。
ユーリの母はハイエルフであり、ユーリの父であるローゼンベルク侯爵と結婚したが、氏は変えずそのままユグドラシルの名を残している。
なので、俺とリーラが結婚してもリーラの氏がヤマトになる事は無いのだ。
「2つ目に、魔王さんと結婚するなら力は必要でしょう。ちょっと早いけど、守護精霊と契約しちゃいなさい」
シュリは中指を立てながら言った。
「でもシュリ様、それは」
リーラはシュリの言葉に躊躇う様子を見せた。
このエルフの里では長老になると守護精霊と契約を行う。
エルフの精霊魔法は精霊に力を借りて行使するが、その場に精霊が居合わせなければ精霊魔法は使えない。
しかし、守護精霊との契約を行うと、精霊がずっと守護してくれるのだ。
使い魔契約とは違うが、ララと光の精霊オウラの関係と似たようなものだろう。
その契約は、その契約を行ったエルフが死ぬまで続くという。
リーラはまだ長老にもなっていないので、守護精霊との契約は行えない筈だが。
「良いのよ。私も魔族と戦う時には守護精霊と契約したんだから。まだ貴女は長老にもなっていないけれど、特例で私が許可するわ」
「・・わかりました。ありがとうございます」
シュリがそう言うと、リーラはまだ戸惑っている様子であったが、頷いた。
何にせよ、守護精霊との契約を行えば普通よりも精霊魔法で行使できる魔法の幅が増えると聞く。
やはり俺の妻となるには強さは必要であるので、願ってもない事だった。
「うんうん。それにしても私の子孫がヤマトと親友だった魔王さんと結婚だなんて。感慨深いわね」
シュリはそう言って嬉しそうに笑った。
こうして俺とリーラの婚約は認められた。




