異変の足音
小説タイトルを少し変更しました。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それから数日はリーラの一家の一員として過ごした。
俺は日中はエルフの男衆と共に森に狩りに出る。
主に狩る対象は猪や熊、鳥などだ。
エルフの狩猟は主に罠と弓矢を用いて行われる。
魔法は基本的には身体強化魔法のみだ。
エルフといえば精霊魔法というイメージがあった俺としては、少々意外であった。
精霊魔法は精霊に好かれ、精霊と意思の疎通ができるエルフという種族特有の魔法だ。
精霊魔法は普通の魔法のように決まった形が存在するわけではなく、各属性の精霊に"お願い"をする事で魔法を行使するのだ。
この"お願い"は精霊とどれだけ細かい意思の疎通が出来るかによって、行使する魔法の精度が変わってくる。
例えば"火を起こして欲しい"と火の精霊にお願いした場合、意思の疎通が上手く取れていないと、種火を起こして貰うつもりが大火を発生させてしまったり。
逆に意思の疎通が上手く取れていれば、種火を起こして欲しいと思えばその意思の通り種火を起こして貰える。
この精霊魔法だが、これだけ聞くと普通の魔法よりも扱いが難しく、利点が薄いように感じる。
だが、精霊魔法最大の利点は魔法の行使に魔力を使用しない事にある。
使用する魔力は魔法を行使する精霊が消費してくれるのだ。
つまり、上手く精霊と意思の疎通が図れれば自分の魔力量より大きな魔法を使う事だって出来る。
更に言えば、精霊魔法は意思の疎通さえしっかりと出来ていれば、普通の魔法のように決まった魔法の形がない分、応用が効くのだ。
なぜ精霊達がエルフの為に魔法を行使してくれるのかと言うと、実は理由は解明されていない。
エルフの魔力が精霊達が落ち着く波長をしているだとか諸説あるが、はっきりとした原因はわかっていないのだ。
当の本人であるエルフ達も生まれた時から精霊に好かれ、精霊と共に生きているので、そういうものだとして特に疑問に思っていない。
なので原因が解明されないわけだ。
なぜそんな精霊魔法をエルフ達は狩りでは使わないのかと言うと、この里のエルフ達は無闇矢鱈に森の木々を傷付けるのは禁忌とされている。
なので、狩りでは精霊魔法を使わないのだ。
弓矢も外せば木々を傷付けそうなものだが、エルフ達の弓の腕は百発百中だ。
猪や熊の目を正確に射抜き、空を飛ぶ鳥の翼を狙って撃ち落とす。
エルフ達は弓の腕が熟練するまでは森の木々を傷付ける可能性があるので、森での狩りには参加させて貰えないのだそうだ。
ちなみに俺はといえば弓も罠も使えないので、普通に身体強化魔法を使い、更に隠密系統の魔法も重ね掛けして獣に気付かれる前に急接近、手刀で息の根を止めていた。
エルフ達のように熟練しているわけではないが、前の世界で旅をしていた頃は食料は現地調達であるのは珍しくなかった。
そういった経緯もあって、更に自由に魔法が使えるようになった今となっては用意に獣を狩る事が出来た。
俺の狩りの腕はリーレに大絶賛され、俺はリーレに気に入られた。
彼は寡黙だが、話せば中々面白い男だ。
俺もリーレの事を結構気に入っていた。
狩りは基本的には順調であったが、やはり気になるのはアンデッドの多さであろう。
狩り中も何度となくアンデッドに襲われた。
リーレに聞いてみると、普通の獣や魔物も明らかに数を減らしているらしい。
これは本格的に調査をし、原因を究明した方が良いのかもしれない。
ちなみにエミリア達は日中はターラやリーラに教わりながら薬を作っているらしい。
薬師としての知識は旅をするにあたってかなり役立つのでぜひ習得して欲しいところだ。
やはりララが医療の知識があるので習得が早いらしい。
かといって残り2人が遅いわけではなく、むしろ2人も早い方だという。
つまり、ララの習得が早すぎるのだ。
さすがは聖女である。
ある日。
俺は男衆達との狩りではなく、女衆達の薬草採取の護衛に回っていた。
エミリア達3人は里に残って薬作成だ。
3人とも戦闘能力は高いが、索敵能力は決して高くない。
となると、森での護衛には不向きであるので、ターラと薬作成をしながら、里の警備を行うそうだ。
俺は襲ってきていた熊のスケルトンを拳で叩きつぶし、"暴食の王"で死骸を喰い尽くした。
死骸は浄化魔法で浄化しても良いのだが、"暴食の王"で喰い尽くす方が早いからな。
「サタンって本当に強いのね」
リーラは心底感心した様子で言った。
リーラは俺のことをサタンと呼ぶようになっていた。何でも、この呼び名が文字数的に一番短いからだそうだ。
「俺には強さくらいしか取り柄がないからな」
「それだけ強ければ例え他に取り柄が無かったとしても十分じゃない。その上、貴方は見た目も整っているし」
リーラはそう言うとにやりと口元を歪めて俺の耳元に口を寄せた。
「うちの里の未婚の女衆達も貴方の事を格好いいって騒いでるわよ」
「そうか」
確かに最近エルフの女衆達からの視線を妙に感じるとは思っていたが。
あれは好奇の視線かと思っていたが、まさか好意だったとは。
「そうかって。嬉しくないの?エルフの女衆は皆見目麗しいでしょう?」
リーラは驚いたように言った。
「少なくとも嫌われるよりは良いな」
「・・さすが3人も美人の嫁がいる男は違うわねー」
「茶化すな」
「あら、事実じゃない」
リーラはそう言ってくすくすと笑った。
この笑顔を見ると、彼女の俺に対する態度も初対面の時を思えば随分軟化したものだと思う。
そうやってリーラと雑談しながら時折襲ってくるアンデッドを片付けていると。
俺の目の前を歩く女衆の背後に、唐突に黒い鎧の騎士が現れた。
鎧の騎士はその手の黒い剣を無音で女衆に振り下ろすが、俺が右手の手刀でその剣を叩き折り、左腕で襲われた女衆を抱える。
そして鎧の騎士の腹を右の拳で貫いた。
だが、肉を貫いた感触がない。
こいつ、中身がない。
そして何より、気配が一切ない。
この俺が、ここまで接近されていたことに気付かない程の隠密性。
気付けば鎧の騎士は複数現れており、それぞれエルフの女衆達に襲いかかろうとしていた。
俺は身体強化魔法を一気に最大出力まで上げ、左腕に抱えた女衆を離し、一瞬で襲いかかる全ての騎士達を吹き飛ばした。
どの黒い騎士達も、一様にやはり中身が無かった。
俺は最後に全ての騎士達を"暴食の王"で呑み込み、息を吐いた。
リーラを始めとするエルフの女衆達はあまりの一瞬の出来事に唖然とした様子であった。
あの黒い騎士達。
気配も無ければ物音もさせず、魔力の反応すら一切なかった。
そして更に至近距離にまで接近されるまで目視も出来なかったのだ、恐らく姿を消す事も出来るのだろう。
これは脅威だ。
俺が気付けないのだから、他の人間でも気付ける筈がない。
「全員怪我はないか」
リーラは周囲の女衆の顔を1人1人見ていき、やがて頷いた。
「全員怪我はないわ。サタン、ありがとう」
リーラはそう言うと、次に不安そうな表情を浮かべた。
「今のは一体何だったの?」
「わからない。全てが中身のない黒い騎士だった。あれもアンデッドの類だろうとは思うが。だが、奴ら、一切気配がなかった。俺でも接近に気付けなかった」
「サタンが気付けないなら私達では誰も気付けないわ」
リーラの言葉に、エルフの女衆達の表情に不安の色が浮かぶ。
「もうすぐ夕暮れだ。暗くなれば更に襲撃に気付きにくくなる。今すぐ里へ引き返そう」
「わかったわ」
それからは全員が俺より前を歩かせ、かつ固まって歩かせた。
俺の視界の中にいる限りは例え気配がなかろうと危害は加えさせない。
それからは特にアンデッド達にも襲われる事はなく、無事に里へ帰り着いた。
俺たちが里へ帰り着くと、エルフの男衆達が駆け寄ってきた。
「良かった!無事だったんだな!」
エルフの里は喧騒に包まれていた。
あちらこちらで怒声が聞こえる。
しばらくするとエミリア達が駆け寄ってきた。
「ディスター!大変よ!里中の人が失踪しているの!」
エルフの里に、異変の足音が迫ってきた。




