勇者蒼炎に出会う
次の日。
飛空挺の旅は順調も順調であった。
空の魔物は何度か飛空挺を襲いにきたが、俺が身体強化魔法を使うと一様に逃げ去っていった。
そして目の前に深い樹林が見えたところで飛空挺を停めた。
深い樹林の先には途轍もない大きさの樹木が見えた。
あれが聖樹ユグドラシルだ。
"通行証"さえ持っていればあのユグドラシルを目印に進んでいけばエルフの里に行く事が出来る。
しかし"通行証"を持っていない人間が近付こうとすると、聖樹ユグドラシルを目印にしているはずなのにいつしか方向感覚を失い、森を出てしまうのだそうだ。
どういった仕組みなのかはわからないが、相当高度で、広範囲をカバーしている結界である。
ともあれ俺達は"通行証"を持っているので、はぐれないようにさえすれば問題はない。
一路聖樹ユグドラシルを目印に、深い森の中へと入っていった。
「不気味な森ですね・・」
ララが警戒した様子で言った。
この森は相当に生命豊かであるようだ。
あちらこちらに大小様々な魔力の反応を感じる。
「こうも細かい反応が多いと警戒するのも難しいわね」
エミリアは渋い顔で言った。
「そうでもないぞ。自分に敵意を持つ魔力の反応だけ注意すれば良いんだ」
「自分に敵意を持つ魔力の反応だなんてどうやって感知すればいいのよ」
「慣れだな」
「・・あ、そう」
エミリアは呆れた様子で言った。
「・・ディスターは非常識」
エルザはやはり辛辣であった。
森では俺が身体強化魔法を発動さえしていれば動物も魔物も勝手に危険を察知して逃げていく。
やはり動物も魔物も人間より余程危険察知能力は鋭敏である。
だが、そういった危険を顧みずに俺達に襲い掛かってくる魔物も中にはいる。
「またスケルトンですか!」
「今度は犬型よ!」
「・・しつこい」
俺達に犬の骨の群れが襲い掛かる。
スケルトンは魔力の濃く、かつ日の当たらない地域ではよく出現する魔物だ。
生物の死骸に魂が宿り、意思を持って動き出す。
今回のスケルトンは恐らく犬型の魔物か動物の群れの成れの果てであろう。
俺は向かってきた犬のスケルトンを手刀で切り落とした。
普段であれば"暴食の王"を使用してさっさと仕留めるのだが、ユグド大森林の木々を無闇に傷付ける事はエルフ達の中では禁忌とされている。
なので全員が身体強化魔法や、細かい調整の効くエミリアの"縛式"で迎撃している。
エルザも"ベヒモス"に搭乗してはいるが、銃火器の類は使用していない。
それからしばらくして、ようやく犬のスケルトンの群れを殲滅した。
「"ピュリフィケーション"」
骨を1箇所に集めてララが浄化魔法を使用する。
こういった死骸は浄化しておかないとまた新たなスケルトンとなって動き出してしまうのだ。
「ふぅ、終わりました。それにしても随分アンデッドが多いんですね」
ララが疑問を口にした。
俺達がスケルトンなどのアンデッド系統の魔物の群れに襲われるのはこれで3度目だった。
確かにこの森は普通の場所より魔力は濃いし、空には木々が生い茂り、日の光も届いていない。
アンデッドが生まれる環境としては上々であるが、それにしても数が多過ぎる。
「エミリア。この森は普段からこうなのか?」
「うーん。聞いた話ではそんな事無かったと思うんだけど」
エミリアも聞きかじりの話であるので自信なさげであった。
だがこれは心に留め置いておこう。
これが異常事態であるならばエルフの里で報告しなければならない。
それからも何度か襲い掛かってくるアンデッド達を片付けていると、俺達以外の戦闘音が聞こえてきた。
しかも、その魔力反応には覚えがあった。
「ディスター殿!」
見覚えのある黒ローブにエルフ特有の長い耳。
これまたエルフ特有である金色の髪。
位階序列第3位、ユーリ・ローゼンベルクがそこに居た。
しかもアンデッドの群れに襲われ絶賛戦闘中である。
「大丈夫か!」
「助太刀していただけると助かります!」
その後群がるアンデッドの群れを手分けして片付け、ララによってアンデッド達は浄化された。
「お前程の実力者がどうしてこんなアンデッド如きに手こずっていたんだ?」
俺がそう尋ねると、ユーリは目を丸くした。
「言ってませんでしたっけ?私は攻撃魔法は固有魔法である"蒼炎"以外に使えないんです。この森では"蒼炎"は使えませんし、身体強化魔法も苦手なもので・・」
なるほど、それなら先程の苦戦も頷ける。
「ユーリが"蒼炎"以外に攻撃魔法を使えない事は有名な話よ。やっぱりディスターはまだまだこの世界の常識に疎いわね」
エミリアはそう言って苦笑していた。
「そんなわけでして、こうして帰郷にも難儀しているわけです。良ければエルフの里までご一緒しても良いですかね?」
ユーリは頭に手を置きながら笑って言った。
ユーリはここユグド大森林のエルフの里出身のハーフエルフだ。
エルフの里に入る資格は持っているだろう。
エミリアにも視線を送って確認したが、エミリアも頷いた。
「ああ。お前なら構わない」
そうして俺達はユーリと行動を共にする事となった。




