勇者創造神の使徒となる
4の月3の週火の日。
エルフの里への出立の日である。
見送りはいつも通りリシルとシスであった。
「「いってらっしゃいませ」」
腰を折って見送るリシルとシスに別れを告げ、俺達はまず王城へ向かった。
ユグド大森林に近い聖都アルカディアへの転移魔法陣が王城にあるからだ。
現在王城に転移魔法陣を設置し、主要都市と繋ぐことで試験運用をしているのだ。
王城に着き、そのまま転移魔法陣のある部屋に直行する。
この魔法陣の使用の許可は昨日のうちから貰っているので、すんなり進んだ。
「それでは、お気をつけて!」
衛兵に見守られながら、俺達は聖都アルカディアへと転移した。
転移してきた部屋は真っ白な部屋であった。
どうでも良いが、この世界は白い部屋が多くないか。
そう思ってエミリアに聞いてみると。
「創造神アルカディア様を象徴する色が白なのよ」
とのこと。
なるほど、確かにいつも創造神アルカディアと会うあの部屋も床から壁から天井から全て真っ白だったな。
俺達が転移してきたのは聖都アルカディアにある中央神殿の一室だ。
中央神殿とはアルカ神教の中で一番権威ある神殿の事で、なんとこの建物は1200年前よりも更に前、ヤマト王国建国よりも前から存在しているらしい。
その割に綺麗なのは、創造神アルカディアが状態固定の魔法を掛けたからなんだとか。
「中央神殿に来たからには教皇シシリーに挨拶しないとね」
そう、ここには俺達の結婚式を執り行ってくれた、未来読みの巫女、教皇シシリーがいるのだ。
エミリアは警備を行なっていた修道女に教皇シシリーに挨拶したい旨を伝えると、修道女はそのまま俺達を教皇のいる部屋へと案内してくれた。
普通教皇に会うのにこんなにすんなり話が進むはずもないが、俺達が今日ここを訪れる事は既に王城の方から連絡がいっていたらしい。
俺達が案内されたのはやはり全面白色の一室であった。
正面には白い幕が張られており、その奥に人影が見える。この白く透き通った魔力は覚えている。
この幕の奥にいるのが教皇シシリーであろう。
その幕の手前には猛禽類のような眼光の男、Sランク冒険者のアデルが居た。
彼はシシリーの専属護衛である。
アデルの視線は前回同様やはり俺に向けられており、俺の一挙手一投足まで見逃すまいとしているのが感じられた。
「アデル。そう警戒していては勇者達も気が休まりませんよ」
白い幕の奥から老年の女性の、透き通った声が響き渡った。
それを受けてアデルは警戒する構えを崩した。
「貴方達相手にこの幕の奥から話すべきではないわね」
老年の女性、教皇シシリーはそう言って白い幕を捲ると、奥から顔を出した。
そしてそのままこちらに歩み寄ってくる。
「御機嫌よう、勇者ディスアスター・サタン・ヤマト。さっそくアルメイダ公国を救ってくれたそうね」
そう言ってシシリーは微笑んだ。
「エミリア王女殿下に聖女ララも御機嫌よう。そしてアルメイダ公国の公女、エルザ・ヤマトは初めましてね」
「・・私はエルザ・ヤマト。よろしく」
エルザはシシリーと挨拶を交わした。
「それにしても。貴方はあの時よりもアルカディア様の加護が強くなってるのね。またアルカディア様に会ったのかしら?」
シシリーがとても驚いたように言った。
「ああ。お前が神殿を築いた時に1回と、つい先日にも会ったな」
「ふふ。まるで知人に会いに行くように言うのね。もう貴方は創造神アルカディア様の使徒と言っても良いのではないかしら」
「魔王スペルビアには創造神の走狗と言われたな」
実際創造神アルカディアの言った通りに行動しているので、使徒や走狗と呼ばれるのも仕方ないと思えた。
「それなら、貴方が創造神アルカディア様の使徒であると正式に公表しても構わないかしら?そうすれば、少なくともアルカ神教は貴方の味方になると思うけれど」
「好きにしろ」
味方が増える分には構わない。
「教皇シシリー。くれぐれもディスターを政治の道具にはしないで貰えますか」
エミリアがシシリーに苦言を呈した。
エミリアは俺が政治などは苦手としているからと庇ってくれているのだ。
頼りになる妻である。
「わかっています。でも、こうする事で私としても勇者に便宜を図りやすくなるの。神殿にはどうしても勇者の半分の魔族の血をよく思っていない層がいるから。少なくとも、不便になる事は無いと確約するわ」
シシリーは力強い口調で言った。
それにエミリアは不承不承ながらも了承した。
創造神アルカディアの使徒か。
それで俺の大事な者達を守れるというなら走狗だろうがなんだろうがなってやろう。
俺の魔王としてのプライドは捨てると、エミリアとララと結婚した時に決めたのだから。
こうして俺は創造神アルカディアの使徒として正式に公表される事となった。
とはいえ、すぐに俺達はエルフの里に向かってしまうので影響はわかりにくいだろうが。
「貴方達の未来も運命も、やっぱり見えないわ。それが勇者の影響なのか魔族の影響なのかはわからないけれど。気を付けて頂戴」
教皇シシリーはそう最後に締め括った。
俺達は中央神殿を後にし、聖都アルカディアの街を歩いた。
聖都アルカディアはどの建物も白色で統一されていた。
街の一番奥にある白い中央神殿から、放射状に広がる街並み。
その全てが白く、道も白いタイルで舗装されている。
風景としては神秘的で美しいのだが、どうも落ち着かない印象を受けてしまった。
観光するのには良いが、住みたくはない街だ。
俺は王都の雑然とした感じが好きだと改めて感じた。
聖都アルカディアの街を出てからは飛空挺に乗り込み、北上する。
聖都アルカディアからユグド大森林までは馬車で2日程の距離だ。飛空挺なら恐らく1日あれば着くだろう。
飛空挺の旅は順調に進んだ。
操船をリシルの影に任せて俺達はトランプ大会に勤しんでいるだけなので、快適な旅である。
暗くなってきたので、平原に飛空挺を停め、夜営の準備をする。
リシルの影に任せて俺達は屋敷に帰っても良いのだが、出先で夜を越すのが旅の醍醐味だと豪語するララたっての希望により本日は夜営する予定であった。
飛空挺の中にはしっかりベッドもあるというのに、わざわざ飛空挺を無限収納に収納してテントで寝るというこだわりっぷりだ。
それだというのに、食事は屋敷でリシルとシスに作ってもらい無限収納に収納して時を止めた温かい食事である。
決して女性陣全員料理の類が出来なかったからとかではない。
まぁ、全員が全員やんごとない身分のご令嬢であるので、料理は出来なくても仕方ないだろう。
ちなみに、俺は長らく旅をしていた経験があるので、普通に食事を作るくらいは出来る。
なので俺が作ろうかと言ったら女性陣全員に止められてしまった。
なんでも、ここで俺に料理を作られてしまったら女のプライドが、などと言っていたが。
現実問題作れないのならプライドも何も無いと言ったらエミリアに蹴られてしまった。
年頃の女性の心は複雑である。
とにかく、エミリア達は今度リシルとシスに料理を教わると息巻いていた。
出来ない事をそのままにせず、習得しようとする姿は俺としても好感が湧いたので、応援しておくことにした。
リシルとシス特性の料理に舌鼓を打ったあとは、交代で見張りだ。
これも普段ならリシルの影を呼んで見張りについて貰うのだが、自分達だけでも出来た方が良いという、やはりララの主張により俺達が交代で見張りをすることとなった。
これも俺は旅の経験が豊富なので問題なくこなせるのだが、彼女達にとっては自分達だけのまともな夜営は初めての経験となる。
今までは誰かかしらが代わりに見張りについていたからな。
これも良い経験となるだろう。
最初の見張りは俺とエミリアの役目だ。
ララとエルザの2人は先にテントで眠る。
まだ今は4の月。
昼間は暖かいが夜は冷える。
俺とエミリアは焚き火にあたりながら、身体を寄せ合っていた。
「リシルとね。この前話していたの」
他愛もない話をしていると、エミリアは深刻そうな表情で語り始めた。
「ある時ディスターが急に世界から居なくなって。この世界に召喚されてディスターに会えるまで、リシルは身を引き裂かれるような気持ちだったって」
「それは、そうかもな」
リシルは俺に忠誠を誓ってくれているし、俺こそが彼女の生きる意味だとすら言ってくれているのだ。
彼女を前の世界に置いてきたのは俺としても心苦しかった。
「でね、私思ったの。ディスターはきっとこの世界に大きな使命を持って召喚されたのよね」
「ああ」
そこに疑問はもはや無い。
俺にしか出来ない事をさせる為に、創造神アルカディアは俺をこの世界に喚んだのだろう。
「ディスターならきっとその使命は達成できると思ってる。でもね。ディスターはその使命を達成したら、元の世界に戻されちゃうんじゃないかって、時々そう思うの」
エミリアは俺を見ずに、真っ直ぐ焚き火の炎を見つめていた。
「そうなった時、私は耐えられるのかなって考えて。すぐに耐えられないと思ったわ。だから、私考えたの」
そう言ってエミリアは俺を見た。
その瞳は悲しげに揺れていた。
「もし貴方が元の世界に帰ってしまったとしても、貴方との子供がいれば、私はいつまでも貴方との絆を、繋がりを感じていられる。だから」
「エミリア」
俺はエミリアを優しく抱き締めた。
「俺が生きる世界は、エミリアが居て、ララが居て、エルザがいるこの世界だ。お前達が向こうの世界で生きていきたいと言うなら、俺も向こうの世界に行く。俺が生きる場所は、お前達の隣だけだ」
俺はそう言ってエミリアの肩を抱き、エミリアの身体を離してエミリアの顔を見た。
そして、挑発的な笑みを浮かべた。
「それに、だ。仮に俺がどこかの世界に無理矢理飛ばされたとして。この世界に、お前達の隣に戻ってこれないと思うか?」
エミリアは俺の言葉にパチクリと目を瞬かせた。
「・・ディスターならどんな手を使ってでも戻ってきそうね」
「つまり、そういうことだ」
俺がそう言うと、エミリアはくすくすと笑い始めた。
「なんだ。心配して損したわね」
「そうだ。何せお前の夫は偉大なる勇者だからな」
「なに、それ?」
「創造神アルカディアにそう言われたんだ」
「創造神様のお墨付きなのね」
エミリアはそう言ってふわりと笑うと、俺の胸に勢いよく抱きついてきた。
「なら、子供は全てが終わった後で良いわ。その代わり、私がお婆ちゃんになる前に終わらせてね?」
「ああ、任せろ。何せお前の夫は」
「それはもう良いから」
俺達2人はお互いを見やって笑い合った。
そうして夜は更けていくのだった。




