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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第3章エルフの里編
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両国融和の日

 翌日。

 二日酔いをララに治して貰い、俺はエミリアを連れてヤマト王国へ転移した。


「お帰りなさいませ、旦那様」


 屋敷ではシスが俺達を出迎えてくれた。


「食事はどうされますか?」


「向こうで取ってきたから大丈夫だ」


「かしこまりました」


 俺達は着替えを済ませて、屋敷を出た。


『おお、帰ったか』


 庭ではガゼルがケルベロの背中で丸まっていた。

 ケルベロは俺達に気づくと顔をベロベロと舐めて甘えてきた。

 ガゼルはすっかりうちの屋敷に慣れたようだ。

 ケルベロの背中で寝ている姿をよく見かける。


 ケルベロと一頻り戯れた後、さりげなく後ろにいたリシルが俺とエミリアに蒸しタオルを渡してくれた。

 さすが出来たメイドである。

 俺達はリシルに礼を言い顔を蒸しタオルで拭くと、ケルベロとガゼルに別れを告げ王城へ向かった。


 王城に着くと、すぐさま謁見の間に案内された。

 謁見の間にはルーガート王と宰相ノーチス、そして新しく近衛騎士団長となったルークに新たに軍部総司令官となったカーチスが居た。


「ディスアスターよ。よくぞアルメイダ公国を救ってくれたな」


 ルーガートは御満悦といった様子で言った。

 当然であろう。

 何もない状態でこちらから国交回復を願えばどんな条件を言われるかわかったものではなかった。

 それを15年前の事件が魔族の仕業であった事を証明し、その上アルメイダ公国の窮地を救い恩を売れたのだから。


「此度の顛末は既にエミリアより聞き及んでおる。早速アルメイダ公国に向かおうではないか」


 俺はエミリアとルーガート、ノーチスに護衛のルークを連れてアルメイダ公国へと転移した。

 俺は転移するのにもう魔法陣を必要としていない。

 一度行ったところであれば自由に転移が出来るのだ。

 だが流石にこの技術を教えてしまうとメリットよりも弊害の方が目立ちそうなので、ヤマト王国に教えたのは転移魔法陣の技術のみだ。


 ヤマト王国では今のところ王都と一部の都市を繋ぐのみ転移魔法陣を使用しているようだ。

 これから使用感を確かめて用途を広げていくのだろう。

 ヤマト王国にとって転移魔法陣はまだまだ発展途上の技術ではあるが、それでも外交においては重要な要素となりうる。

 現にアルメイダ公国は転移魔法陣の技術を既に知っているし、それを欲しがってもいる。

 今回もザダは転移魔法の技術を欲しがるだろうし、交渉役となる宰相のノーチスも当然それは理解している。

 あとはアルメイダ公国側からどんな条件を引き出すかであろうか。

 俺としては自動車というものにはかなり惹かれるものがあった。

 あの技術が発展すれば、転移魔法と同じく物流に革命が起きそうであった。

 だからこそ、今までドワーフ達はその技術を広めずに、自分達の中のみで扱っていたのだろうが。

 まぁその辺りは俺ではなくエミリアが会議の場に同席する予定なので、彼女が上手くやってくれることに期待しよう。


 俺はまずアルメイダ城の前に転移した。

 その気になればアルメイダ城の玉座の間でも会談の部屋にでも直接転移は出来るが、今回のルーガート達の訪問は国家を代表しての正式な訪問である。

 普通このような訪問に王自らが訪れる事は滅多にないという。

 だからこそ、ヤマト王国がアルメイダ公国との国交回復についてどれだけ重要視しているかが窺えるであろう。


「ほう、これがアルメイダ城か。見事なものだな」


 ルーガートが感心したように言った。

 今までは戦いの中であったのでゆっくりと城や街を観察する余裕はなかったが。

 アルメイダ城は全て石で出来た城だ。

 全てが純白で荘厳な雰囲気の漂うヤマト城とは違い、こちらの城は豪快な印象を受ける。

 全て石のみでここまでの城を作るのはかなりの技術を要するであろう。

 この城だけでドワーフの技術力の高さが垣間見えた。


 城の前ではドワーフの戦士長が待っていた。

 昨日の宴で自己紹介もされている。


「ヤマト王国からの客人よ。ようこそアルメイダ公国へ。公王のもとへと案内しよう」


 城正面の巨大な扉を潜ると、そこは昨日も来たエントランスホールだ。

 城を訪れる者を最初に迎えるのがこの空間だ、相応に見事な造形なのだが、そこかしこが砕けたり凹んだりしていた。

 これでも昨日の宴の前に比べれば砕けた岩などが散乱していないだけ片付けられている。


 この空間ではザダが1人で大勢の吸血鬼達を相手していた。

 吸血鬼はやはりこの世界でもかなりの力を持った種族である。

 それでしっかり全員打倒しているのだから、流石は位階序列第4位といったところだろう。


 それからいくつかの廊下を経由し、俺達は会談の部屋に案内された。

 中にはザダ達が待っている事だろう。

 俺の役目はここまでだ。

 今日はルーガート達はこの国に宿泊する予定だ。

 また明日、俺がルーガート達を王都に送り届けなければならない。


「エミリア。よろしく頼むぞ」


「ええ、任せて」


 エミリアを見送り、俺は会談の部屋を後にした。


 アルメイダ城で俺にあてがわれた部屋に戻ると、そこではエルザが待っていた。

 エルザは俺のベッドで眠っていた。

 安らかな寝顔だ。その大きな胸がゆっくり上下していた。

 エルザの頭をゆっくり撫でていると、エルザが目を覚ました。


「・・ディスター」


「悪い。起こしたか」


「・・ううん、平気。待っている内に寝てしまった」


 そういってエルザはんー、と伸びをした。


「ララはどうした?」


「・・ララは街で血を抜かれた人達の治療をしている」


 吸血鬼達に血を吸われていた人々だ。

 深い傷ではないが、貧血気味になっている人が多いと聞く。

 そんな人々をララは治療しに行ったのだろう。

 流石は聖女だ。


「・・本当にディスター達は良いタイミングでこの国に来てくれた。炎神ウルグ様に感謝したい」


 エルザ曰く、俺達がこの国を訪れたタイミングは本当に良かったらしい。

 遅過ぎれば当然ウルグ火山は噴火し、アルメイダ公国は滅亡していただろうし、ガイアスの街も滅びていた事だろう。

 早過ぎてもダメだったとエルザは言う。

 やはりアルメイダ公国の中で"神の炎"を盗んだとされていたヤマト王国には批判的な風潮が強かったという。

 だから、早く来過ぎても歓迎されず、例え吸血鬼達を俺達が打倒したところでこのようなヤマト王国に対して融和的な結果にはならなかったであろうというのがエルザの予想であった。


「俺を遣わせたのは創造神アルカディアだがな」


「・・なら、創造神アルカディア様に感謝する」


 創造神アルカディアがわざわざお告げで日付まで指定してきたのは、おそらくこのためだったのだろう。

 アルカディアの狙いはわからないが、少なくとも彼女が魔族と敵対しているであろう事はわかる。

 アルカディアにとってはエルザを俺が助け、ヤマト王国とアルメイダ公国の国交が回復するのは必要なことなのだろう。

 アルカディアに俺の行動が誘導されている事はれっきとした事実であるが、彼女は必要以上の事を喋らない。

 それがどういった意図によるものかはわからないが、今回のお告げでも、日付まで指定していたものの、内容については何も言及していなかった。

 俺はエルザと出会う事も知らなかったし、この国が危機に陥ってる事も勿論知らなかった。

 それを知り、俺は俺自身の意思で助けると決めたのだから、何も不満はない。

 まぁ、機会があればいつかアルカディアの目的については聞きたいところではあるが。


 その後しばらくエルザと雑談をしていると、ララが治療を終え戻ってきた。

 それからは暇な時恒例のトランプ大会だ。

 今回のお題目は七並べ。

 そしてララはやはり弱い。


 会談はおよそ3時間で終わった。

 決定した内容は以下である。


 ・15年前の件は両国共に魔族の策略にはまった結果であり、今後両国は手を取り合い、魔族に対抗する姿勢を強めていく


 ・アルメイダ公国はヤマト王国に対し結界の魔道具の作成と技術力の提供を行う


 ・ヤマト王国はアルメイダ王国に対し、転移魔法陣の技術の提供を行う


 3時間も掛けてたったこれだけかと思わないでもないが、国と国との話し合いなどこんなものである、とはエミリアの談であった。

 また、非公式ながらヒューズ家の件が取り沙汰された。

 アルメイダ公国はヒューズ家に罪はない事を認め、ヤマト王国としてもガイアス伯爵の預かりとなっているライボルト・ヒューズをまずは男爵として取り立て、ヒューズ家をお家再興する事が決まった。

 ライボルト・ヒューズは旧ヒューズの街、現ガイアスの街を治める事となるという。

 これで亡くなったシーボルト・ヒューズも少しは浮かばれるであろう。


 そしてドワーフ達からの技術提供。

 これによりヤマト王国は魔導鎧や魔導砲などの武器、さらに自動車等の便利な魔道具の技術を手に入れる事となる。

 これは魔族との戦いにおいてかなり有利に働くであろう。

 実際にアルメイダ公国軍と戦ったからわかるが、あれらは戦争において脅威だ。

 それが味方となるというのだから、心強い。


 こうしてこの日の会談は両国にとって歴史的なものとなり、成功裏に終了した。


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