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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第2章アルメイダ公国編
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勇者憤怒の王と戦う

「戦う前に、1つ聞きたい事がある」


 俺は今にも飛び掛かろうとする憤怒の王イラに問い掛けた。


「ふむ?なんだ?」


 イラは怪訝そうな表情で尋ねた。


「15年前。この国の"神の炎"が盗まれたが。それはお前たちの策略か?」


「ふむ、なるほどな」


 そう言うと、イラは凄惨な笑みを浮かべた。


「この俺様に見事勝てれば、その答えを教えてやる」


 その返答で既に答えを言っているようなものだが。

 教えてくれると言うなら良いだろう。

 俺は思考を戦闘用に切り替えた。


「"暴食王の鎧(グラトニーメイル)"」


 黒き極光の柱が立ち上がり、黒き極光を身体に纏う。

 紅き瞳だけが黒き極光の中でイラを見据えていた。


「それが貴様自慢の鎧か!」


 やはり愉快そうにイラは笑みを浮かべた。


「ならば俺様も鎧を使おうか!」


 イラの全身から黒い炎が立ち昇る。


「"憤怒王の黒炎鎧(ラースフレイムメイル)"」


 そしてイラは黒炎を全身に纏った。


「ふははは!いくぞ勇者!」


 イラは地面を強く蹴って俺に肉迫してきた。

 その赤熱した拳が振り下ろされる。

 それに対して俺は右拳を合わせた。

 ドゴンッ、という鈍い音と共に衝撃波が迸る。

 打ち負けたのは、イラであった。

 イラの拳がその腕ごと弾け飛び、その拳に纏っていた鎧ごとイラの腕をもぎ取った。


「ふははは!この俺様に力で打ち勝つか!」


 イラは大口を開けて高笑いし、残った左腕で飛んでいった右腕に黒炎を放った。

 イラの右腕が一瞬で燃え尽き、すると同時にイラの右腕が生えてきた。

 吸血鬼にしても凄まじい再生能力だ。

 俺はイラの懐に飛び込むとその頭を掴み、思い切り膝蹴りを浴びせた。

 イラの頭が消し飛ぶが、すぐさま再生を開始する。


「"暴食王の波動(グラトニーウェーブ)"」


 頭の再生が終わる前に黒き極光の波動でイラの肉体を消し飛ばす。

 しかし。


「ふははは!何という戦闘力!ここまで消し飛ばされたのはあの勇者以来よ!」


 イラは身体全体を完全に消し飛ばした筈だというのに、一瞬で全身を再生してしまった。

 これはいくら吸血鬼の再生能力が高いとはいえ異常だろう。

 吸血鬼の真祖の血を色濃く継ぐリシルですらここまでの再生能力はない。


「ふむ?俺様の再生能力が不可解か、勇者よ!」


 顔に出ていたのか、イラが口を開いた。


「ああ、そうだな」


「なに、()()()は少々特殊でな。そこに吸血鬼の再生能力が合わさっただけのことよ」


 ()()()、ね。

 恐らく"生粋の"魔族の事ではなかろうか。


「そんな事はどうでも良いのだ!さあ戦いを続けよう!」


 そう言ってイラは黒炎を纏って飛び込んできた。


「"憤怒王の黒炎(ラースフレイム)"」


 イラは右手を掲げ黒炎を放射した。

 俺はその黒炎を腕を振るって払うと、イラの右腕を蹴り飛ばした。

 イラの右腕が宙を舞う。


「"暴食王の波動(グラトニーウェーブ)"」


 そして残った身体を極光の波動で消し飛ばす。

 すると即座にイラは再生したが、右腕は未だに千切れたままであった。

 そしてイラは自分で右腕に黒炎を放ち、右腕が燃え尽きるとイラの右腕が再生した。


 なるほど。そういう仕組みか。

 どうやら胴体の方に再生するための核があるらしい。

 そして残っている部位はたとえ千切れていても消え去らない限り再生はしないと。


 イラは右腕を再生させると、そのまま再び地面を蹴り、殴り掛かってきた。

 俺がその拳に対し蹴りを放つと、腕が千切れて宙を舞う。


「くははは!構うものか!」


 イラは千切れた腕を無視して残った腕を振るってきた。

 その腕を手刀で切り落とし、その腕を遠くへ蹴り飛ばした。


「なるほど!そう来たか!」


 両腕を失ったイラは大口を開けて笑うと黒炎を口から吐き出した。

 その炎は俺には向かわず遠くにあった両の腕を焼き尽くした。

 そしてやはりイラの両腕が再生した。


「既に俺様の再生能力の特性に気付いたようだな」


 イラは打って変わって落ち着いた様子で言った。


「いまの俺様の力ではどう足掻いても貴様に傷を付ける事は難しそうだな」


 そう言うと、ゴウッ、と音を立ててイラが纏う黒炎の勢いが強まった。


「憎い。憎いなぁ。俺様の力の無さが。そして貴様のその強さが憎いなぁ」


 イラの纏う黒炎の勢いが更に強まった。

 その黒炎は轟々と周辺の空間すらも焼いていた。


「怒り、そう、極上の怒りよ!この怒りが俺様を更に強くする!」


 イラの纏う黒炎は最初よりも遥かに勢いを増し、そして余計に黒く染まっていた。


「さぁ第2ラウンドだ勇者よ!願わくばもっと俺を怒らせてくれ!」


 そう言ってイラは先程よりも数段速い速度で俺に肉迫してきた。

 赤熱する拳が振るわれ、それに俺は右の拳を合わせた。

 イラの拳は弾き飛ばされたが、腕が吹き飛ぶ事はなくなっていた。


「これでもまだなお力負けするか!憎いなぁ貴様の力が!」


 イラの怒りに合わせて更に黒炎の勢いが強くなる。

 間違いない。この男は怒りを力に変えている。

 それも、飛躍的な速度で強くなっている。


 イラは左の拳を振るってきた。

 それに左の拳を合わせると、ついにイラの拳は弾け飛ぶ事もなく拮抗した。


「くははは!ついに拮抗したなぁ勇者よ!」


 イラの拳に拳を合わせ。

 イラの蹴りに蹴りを合わせる。

 この男はこの俺と殴り合えていた。

 俺がイラの腹を殴ると大きな風穴があき。

 それを即座に再生したイラが今度は俺の腹を殴り、俺は吹き飛び壁に激突した。


「くははは!"憤怒王の黒炎(ラースフレイム)"!」


 イラの右手から黒炎が放射され、壁にめり込んでいる俺に襲い掛かる。

 俺は即座に壁を砕き、拳に黒き極光を纏った。


「"黒灼大砲"」


 以前よりも遥かに大きい黒き極光の弾丸が黒炎を全て喰い漁り、イラを呑み込んだ。

 全身を消し飛ばされたイラは即座に再生し、俺に向かってきた。


「まだ消し飛ばされるか!貴様の強さはまだまだ底が見えんなぁ!」


 俺に肉迫しながら更に黒炎の勢いを強めるイラ。


「"暴食王の波動(グラトニーウェーブ)"」


 俺は右手を掲げ黒き極光の波動をイラに向かって放射した。

 だが先程まで黒き極光に消し飛ばされていた筈のイラは黒き極光に突っ込み、俺の目の前に躍り出てきた。

 その身体は纏っていた黒炎も消え去り、血だらけであったが、未だに健在であった。


「耐えきったぞ勇者ぁ!」


 イラはその身体に新たに黒炎を纏うと、超至近距離で黒炎を放射してきた。

 俺はそれをまともに受け、吹き飛んだ。

 黒炎が俺の"鎧"を貫く事は無かったが、奴は俺の"波動"に耐えた。

 ここまで戦闘中に戦闘力が伸びるものなのか。

 この伸びは戦闘中にどこまでも強くなっていったヤマトを連想させた。


 俺は空中に障壁を展開させそれを蹴ると一瞬でイラの懐に潜り込んだ。

 そして下からイラを上に蹴り上げた。


 魔力はイラを何度も消し飛ばしている影響で8割ほど貯まっている。

 ここで一度放出してしまおう。


 俺は両腕を上空に掲げ、およそ全力の5割の魔力を一気に両腕前方に圧縮した。

 ルノア砦での戦いのように放射するのではなく、一点に収束する極光の"熱線"。


「"暴食王の熱線(グラトニーレーザー)"」


 黒き極光の熱線が両の掌から放出され、一瞬で上空のイラに接近するとイラの身体を消し飛ばした。

 熱線の放出はイラが消し飛ばされた後も続き、それから一瞬で再生するイラの身体を何度も消し飛ばし続けた。


 そこで俺は見た。

 イラの身体が漆黒の宝石のような球体を中心に再生していくのを。


 あれが本体か。

 しかもあの本体は"熱線"でも消し飛ばせない類の物であるらしい。

 "熱線"の放出が終わると、玉座の間の天井には大きな風穴があき、空が見えていた。

 イラは再生を終えると地面に叩きつけられた。


「・・こんなに一度に消し飛ばされ続けたのは初めての経験だ」


 イラはゆらりと立ち上がった。


「認めよう。貴様は俺様より強い。そして、あの勇者よりもな」


 イラが黒炎を身体に纏った。

 その炎の勢いは今までで一番強い。


「だが、それはこの俺様が負ける理由にはならない。俺様は怒りを糧に強くなる」


 イラの纏う黒炎の温度が上昇する。

 周囲の空間がグラグラと揺らめき、イラの立つ周囲の床が溶け始めた。


「今までに無い程の怒りだ・・この怒りを貴様にぶつけてくれよう、勇者よ」


 ついにイラの立つ床が溶け落ち、イラは空中に浮いた。


 この力は危険だ。俺は直感で判断した。

 俺の"鎧"を破る可能性がある。

 ()()を使うか。

 まだあの力は上手く制御が出来ないのだが。


 イラは腕に轟々と燃え盛る黒炎を纏い、更に数段速く突っ込んできた。


「"暴食王の波動(グラトニーウェーブ)"」


 イラは俺の"波動"をまともに受けたが、すぐさま黒き極光の中から姿を現した。

 その身体には傷はなく、轟々と燃え盛る黒炎の鎧は健在であった。


「くははは!効かぬぞ勇者よ!」


 やはり、俺の力に拮抗している。

 俺はイラに対する警戒度を数段引き上げた。

 使おう、()()()を。

 エミリア達は巻き込む可能性があるので、逃がさなければ。


 俺がそう思いながら後ろに跳び下がると、イラは俺の懐に潜り込んできた。


「くははは!俺の怒りを受けるがいい!」


 俺はこの攻撃を受ける事を覚悟し、腕をクロスさせガードした。


 しかし。

 イラの拳は俺に触れる直前に急停止した。

 その拳はおろか、身体に纏っていた黒炎も消えていた。


「・・ちっ。良いところで時間切れか」


 イラは拳を引くと、身体から力を抜いた。

 そして身体の端からサラサラと砂になっていった。


「約束だ。教えよう。15年前の答えだ」


 憤怒の王イラのその表情にはもはや怒りは感じなかった。あるのは安らぎだけであった。


「15年前に"神の炎"を盗んだのはヤマト王国の貴族の姿に化けたインウィディアだ。そしてスペルビアの"宿主"がその貴族に無実の罪を着せた」


 やはり犯人はインウィディアだったか。

 これでシーボルト・ヒューズの無念も少しは晴れよう。


「インウィディアには気を付けろ。奴は臆病だ。だからこそ、俺のように、貴様と絶対に直接戦う事は無いはずだ」


 そう言うと、イラはふっ、と笑みを浮かべた。

 その身体は既に半分以上が砂になっていた。


「"暴食の王(グラトニー)"か。空席であった7人目がまさか勇者とはな」


 7人目。

 ということはやはりこの世界に他の大罪は6人居るのだろうか。


「・・この俺様に勝ったんだ。他の大罪にも、()()()にも負ける事は許さぬ」


「ああ、わかった」


 イラの身体はほとんど砂になっていた。


「最後に言い残す事はあるか」


「ふん。最後に良い戦いが出来た。さらばだ、"暴食の王(グラトニー)"よ」


 そう言い残すと、イラは全て砂となって消えた。

 そしてカラーン、と1つの宝玉が地面に落ちた。

 その宝玉は先程見たイラの核であったが、あの時は全てが漆黒であったのに、いまの宝玉はほぼ純白で、中心の極小さな部分だけが漆黒であった。

 その宝玉を俺は拾った。


 その瞬間、声が聞こえた。


『大罪を倒し、魂の宝玉を集めるんだ』


 俺は絶句した。

 頭に響いたその声は、前の世界でよく聞いた友の声であり、この世界では1200年前に生きた人物。


 その声は、()()()()()()()の声であった。

これで2章は終了になります!

次回からは3章です!

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