式典の日
最初に壇上に出たのはルーガート王であった。
ルーガートの姿が見えると、人々は歓声を上げた。
ルーガートがそれに応えて右手を上げると、更に歓声は爆発した。
ルーガートはしばらく歓声を浴びた後、右手の拳を握った。すると人々の歓声がピタリと止まった。
『1200年前。世界は滅亡の危機に瀕していた。魔王の、魔族の侵攻に人々は逃げ惑っていた』
ルーガートの声は拡声の魔法と通信の魔法を使って王都全域に届けられている。
これにより、前庭に居ない国民にも式典の内容が聞こえるのだ。
『その危機を救ったのは、異世界の勇者ヤマト様であった。ヤマト様は魔王を封印し、世界は平和となった。その後ヤマト様が興した国こそが、このヤマト王国だ』
ルーガートはこの国の歴史を語った。
この1200年でこの国では様々な事があった。
『そして、1200年後のいま。再び魔王が復活し、世界が混沌に包まれると、創造神アルカディア様よりお告げがあった』
人々が再びざわめき始めた。
明確に人々に魔王が復活すると明言したのは、これが初めてだった。
『だが、安心するがいい。その魔王を今度こそ完全に倒す為に、創造神アルカディア様は再び、我らに異世界の勇者を遣わせてくださった』
人々の声に期待の色が混じり始めた。
『紹介しよう。異世界からの勇者、ディスアスター・サタンである!』
呼ばれて俺が壇上に上がった。
歓声が爆発した。
これだけの人々が、俺に期待しているのだ。
『俺がディスアスター・サタンだ。安心しろ。俺が必ず魔王を・・』
『茶番だな』
声が、聞こえた。
初めに気付いたのは誰であったか。
それは、人々より遥か上空に浮いていた。
『じきに貴様ら人族は死に絶えるのだ。希望を与えて何になる』
それは第1王子スーガード・ヤマトの姿をしていた。
そのスーガード・ヤマトの姿をした者は禍々しく、そして莫大な魔力を有していた。
だが、俺の知るスーガードはあんな魔力の持ち主ではなかった。
俺のように今まで操れる魔力の量をわざと減らしていたか。
違う。そもそもあんなに禍々しい魔力の持ち主ではなかった。あれではまるで別人だ。
俺が思い出したのは、先日の教皇との会話であった。
"生粋"の魔族は"瘴気"と呼ばれる禍々しい魔力を持っていると。
そう、あれはまるで。
と思ったところで俺は気付いた。
"瘴気"のような魔力の持ち主はスーガードではない。
スーガードは手に黒い球を持っていた。
禍々しい莫大な魔力の気配はあの球から感じる。
スーガードの魔力はその球の魔力があまりにも大きすぎていて、隠れてしまいわからなかったのだ。
スーガード自身の魔力は少し変質しているようだったが、以前とあまり変わらなかった。
これではスーガードにはまだ攻撃する事はできない。引き続き観察を続けよう。俺はそう判断した。
と、その時、スーガードの横に1人の男が現れた。
『準備完了なのであるな』
その男は宮廷魔法師の1人であった。
あの緑色の髪は覚えている。
『スーガード。貴様何のつもりだ』
ルーガート王はそうスーガードに問うた。
しかし、スーガードはそれに対し、鼻で笑って答えた。
『いまその答えを見せてやる』
そう言ってスーガードは右手を上げ、指を鳴らした。
その瞬間。
パリーン、とガラスが割れるような音が王都に響き渡った。
空が、ひび割れて壊れていく。
否、王都を包んでいた結界が壊れていく。
王都を魔族から1200年間護り続けた結界が、破壊された。
『やっとこの皮を脱げるのであるな』
そう言って横にいた緑髪の宮廷魔法師が顎の下を掴むと、ずるりと皮が剥けていった。
そして次の瞬間、禍々しく莫大な魔力と共に、緑色の髪で青白い肌をしていて、黒い翼を持った男が現れた。
直感でわかる。アレこそ"生粋の"魔族だ。
なぜ魔族がこの王都に。
そう思う前に、奴らは次の行動を開始した。
『この時を待ち望んだぞ人族共!!』
スーガードはそう言うと、手に持っていた黒い球を呑み込んだ。
すると、スーガードの髪の色が漆黒に染まっていき、肌は青白く、6対の黒い翼が背中から生えた。
それと同時に、隣の緑髪の魔族よりも更に莫大な魔力の反応が現れた。
『よく聞け人族共よ。我は傲慢の王。またの名を・・』
そう言ってスーガードだった者は右手を掲げた。
『魔王スペルビア』
その宣言と共に、魔王スペルビアの右手に魔力が集まり、王都上空に突然翼を持った悪魔、ガーゴイルが無数に現れた。
『やれ、インウィディア』
『"猛毒の霧"』
緑髪のインウィディアと呼ばれた魔族が魔法を唱えると、緑色の霧が上空に展開された。
災厄が、降ってきた。




