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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王大暴れする

「しっ!」


 横から突進してきたケンタウロスを裏拳気味に拳で殴った。ケンタウロスの頭は吹き飛んだ。

 わかってはいたが、キリがない。

 倒しても倒してもわらわらと湧いてくる。

 最初に"黒灼大砲"で開けた大穴に向かっていったわけだが、今はすっかり囲まれてしまった。

 身体強化を全開で使っているので、魔法が当たろうがトロールの拳が直撃しようがダメージは無いが、この混乱に乗じて俺の防御を突き破るような攻撃が来ないとも限らない。

 数が多いのでどこに何がいるのかいまいち把握しきれない。これでは不意打ちを食らうかもしれない。

 仕方ない。見た目が好きじゃないので使うのは控えてたが、怪我をするよりマシだろう。


「"暴食王の鎧(グラトニーメイル)"」


 俺の身体から黒き極光が光の柱となって立ち上がった。そしてそのまま極光は俺の身体を覆っていく。やがて全身を極光が覆い隠した。紅き目だけがその黒き極光の中で爛々と光っていた。


 トロールが俺に向かって拳を振りかざす。

 拳は俺の脳天に直撃するが、俺自身にダメージも衝撃も一切なく、代わりにトロールの拳の手首から上が無くなった。


 "暴食王の鎧(グラトニーメイル)"はその名の通り俺の固有魔法"暴食の王"の全てを食い荒らす黒き極光で全身を包む魔法だ。この黒き極光は衝撃すらも喰い漁り魔力にしてしまうので、俺にダメージを与えたければこの鎧を破るしかない。そしてこの鎧は今まで一度として破られた事はない。

 さぁ、全てを喰い荒せ、"暴食の王(グラトニー)"。


 その"黒い人型"は魔物の軍勢にとって恐怖そのものであった。

 手を振ればそれだけで100体の命が跡形もなく搔き消える。

 蹴りを放てばやはり100体の命が跡形もなく搔き消える。

 怪我を負ったとかではない。最初から存在が無かったかのように搔き消えるのだ。

 だが、魔物達に撤退するという"命令"は出ていない。

 魔物達はただひたすら、その"暴食の王(グラトニー)"に向かっていき、命を散らせた。


 だいぶ魔力を喰った。

 今は俺が制御できる魔力のおよそ9割と言った所まで魔力が貯まった。

 そろそろ頃合いであろう。この軍勢を一気に殲滅してやろう。


 俺は地面を蹴り、一度砦の前まで戻った。

 砦にはゴブリン達が取り付いていたが、それらを一掃して砦を背にして正面を向く。

 両手を正面に掲げ、手を開く。

 この貯まった膨大な魔力のうち、およそ5割を一気に両手に圧縮した。


「"暴食王の息吹(グラトニーブレス)"」


 黒き極光がドパッ、と両の掌から放出された。

 黒き光の奔流は魔物達の軍勢を軒並み巻き込みながら進んでいく。

 それはこの砦に侵攻していた魔物全てを飲み込んだ。


 後に残ったのは、静寂であった。

 終わりなどないように思えた魔物の軍勢は、跡形もなく消えていた。

 そして、歓声が上がる。勝利の雄叫びであった。


 "暴食王の息吹(グラトニーブレス)"

 貯まった膨大な魔力を使って"暴食の王(グラトニー)"の黒き極光を一気に大放出する魔法である。

 その光の奔流はその範囲にあるものを問答無用で飲み込む。そこに慈悲はない。


 この魔法を使ったのは久々だ。

 あまりにも威力がありすぎるので、無闇矢鱈に使えないのだ。

 だがその甲斐あって魔物を殲滅する事が出来た。


『こらぁ!あんな大魔法使うなら前もって言いなさいよっ!』


 怒った声色でエミリアから通話がきた。


『すまんな、後で話そう』


『あ、ちょっとま』


 通信を切る。

 残った魔物はただ一体。

 空中に難を逃れた風竜王だけだ。

 "暴食王の鎧(グラトニーメイル)"を解除して身体強化魔法のみを残すと、地面を蹴って風竜王のもとへ向かった。


『貴様本当にただの人族か』


 風竜王の声が頭に直接響く。

 風竜王は傷付いていた。

 空中に逃れたようだが、間に合わなかったのか両脚が無くなっていた。尻尾も半分程で千切れている。


「異世界人なんでね」


『・・なるほど。貴様が()()()の言っていた異世界の勇者か。なるほど、確かに化物だ』


「あの方?」


『こうなれば()()()の望みを叶える事は既に出来ぬであろう』


「聞けよ」


 会話にならん。話を聞いてくれ。


『ならばせめてこの命を賭して。貴様を葬ってくれようぞ!』


 そう言って風竜王は暴風を身体に纏い、俺から距離を取った。


『ガアッ!!』


 そして風属性のブレスを放ってきた。


「"黒灼大砲"」


 俺の黒き極光の大砲と風竜王のブレスは一瞬拮抗したが、すぐに極光がブレスを喰い破った。

 ドンッ、と地面を砕くほどの力で地を蹴り、一瞬で風竜王に肉薄すると、その腹に思いっきり拳を見舞った。


『ゴブゥ!?』


 風竜王の巨体はくの字になりながら吹き飛び、既に飛ぶ事も出来ないのか地面に激突、そのまま動かなくなった。

 さて、まだ死んでないよな。

 風竜王の顔を覗き見ると、まだピクピクと動いていたので、生きてはいるらしい。


「ん?」


 風竜王の頭に魔力の歪みを感じる。

 ふむ。

 空中に魔力で魔法陣を描く。


「"ブレイクマジック"」


 魔法陣が回転しながら風竜王の頭を包み込む。

 次の瞬間、パリーン、という硬質な音がしてやがて魔法陣が消えた。

 それと同時に風竜王の魔力の歪みは消えた。

 すると、風竜王がぱちりと目を開いた。

 そして突然ガバリと身を起こした。


『異世界の勇者よ!助かった!』


「やはり洗脳か?」


『ああ!あの魔族の女め!!今度会ったら噛み砕いてくれるわ!!』


 魔族の女ね。

 やはりララが5年前に見たという女の魔族だろうか。


「その女はいまどこにいる?」


『帝国だ!奴は帝国にいる!』


 ふむ、帝国か。すぐには手を出せんな。それにしても風竜王すら操る女魔族か。面倒だな。


「もう少し情報が欲しいところだな」


『ならば帝国の男が先程逃げた!彼奴を捕まえろ!』


「構わんが、逃げるなよ?話を聞きたいからな」


『動きたくても動けんわ!逃げぬから早く行け!』


 魔力感知範囲を最大にする。

 居た。これは走ってるな。すぐに追いつけそうだ。俺は追跡を開始した。



 男は森の中を走っていた。


「なんだあの化物は!あんなの聞いてないぞ!」


 数の力で蹂躙するはずであった男はあの悪魔のような男の力を目の当たりにし、真っ先に逃げ出した。あの強さはあの力は、()()()にご報告せねばならない。なんとか生き延びなければ、()()()が危ない。

 男はそう考えていた。


「どこに行くんだ?」


 俺は男を目視するとふわりと跳び、男の目の前に着地した。


「ひいっ!?」


 男は腰を抜かして座り込んでしまった。ガタガタと震え、ズボンは濡れ始めていた。漏らしたのだろう。


 さて、どうするか。こいつの頭にも風竜王と同じ魔力の歪みを感じる。洗脳されているのだろう。

 さて、ここで洗脳を解いても良いが。

 注意喚起をしたいので、このままにしておこう。

 それに、尋問に関してはうちにはスペシャリストがいるからな。彼女に任せよう。

 男の首筋に手刀を入れて昏倒させると、リフレッシュの魔法を掛けてから横に抱き、この場を後にした。


 風竜王はまだ先程と同じ場所にいた。


『捕まえてきたか』


「ああ。情報感謝する」


 さて、この風竜王をどうするか。


「お前をここで見逃しても良いんだが。また洗脳されたりするか?」


『二度とされてたまるものか!・・と言いたいところだが、奴の洗脳には抗えぬ。我の居所も割れてしまっている故、また洗脳される可能性も拭えない』


 また洗脳されるのは面倒だな。こいつを倒せる人材は限られているだろう。

 大軍勢をぶつけても無駄なのは今回で敵も理解したはずだ。ならば次は純粋な個の強さで向かってくるかもしれない。それこそ、風竜王のような。

 よし。いっそ連れて帰るか。番犬ならぬ番竜だ。王都の守りは多いくらいでちょうどいい。


「おい、お前は変化の術は使えるか?」


『変化の術か?小さくなるくらいであれば使えるが』


 なら条件はクリアだな。


「俺についてくればその女の魔族への復讐の手伝いをしてやると言ったらどうする?」


『なに?』


 そう言うと風竜王は考える様子を見せた。

 そして、次には意志の灯った瞳で答えた。


『あの女の魔族に洗脳され、我が眷属を利用され、我の誇りはズタズタだ。彼奴に復讐しその誇りを取り戻せるのであれば、我は悪魔にでも魂を売り払おう』


「悪魔とは随分な言い様だな」


『確かに暴れるお主の姿は悪魔なぞという生易しいものでは無かったな!』


 そう言って風竜王はカラカラと笑った。


「縄張りの方は大丈夫か?」


『うむ。どうせ今回の件で我が眷属は全滅よ。すぐに他の竜が陣取るだろうて』


「そうか」


 こいつは眷属も全て失ったのか。まぁ、殺したのは俺たちだが。攻めてきたのだから仕方ない。


「ならば今日からお前は俺の使い魔だ」


 万が一があるので、この場で使い魔契約をしてしまおう。

 魔力で魔法陣を描き、風竜王に飛ばす。

 魔法陣が発光しながら風竜王の身体を包み込み、全身に行き渡るとやがて消えた。


「これで使い魔契約完了だ」


『うむ、よろしく頼む』


 そう言えば。


「お前名前はあるのか?」


『我はガゼルという。お主の名前はなんだ?』


「ガゼルか。俺はディスアスター・サタン。ディスターとでも呼べ。あと、小さく変化してくれ。その姿だと味方を威嚇してしまう」


『あいわかった』


 そう言うとガゼルはぽん、と音を立てて小さな幼竜の姿になった。足と尻尾が無いのが痛々しい。


「とりあえず戻ったら治療してやるから少し我慢してくれ」


『構わんよ』


 こうして、俺のペットが増えた。


 この日。ディスアスター・サタンと魔族の長きに渡る戦いは切って落とされた。

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