魔王異世界召喚される
「おお!成功だ!!」
次に目が覚めたのは、大きな広間のような場所であった。
周りには白銀の甲冑に身を包んだ騎士達がかなり警戒した様子で俺を囲んでおり、正面には玉座がある。
そこには恐らく王族なのであろう、一際豪華な衣装に身を包んだ壮年の男性が玉座に座ったまま一段上がった場所からこちらを見下ろしている。
そのすぐ隣にはこの広間―――状況から察するに謁見の間とかその辺であろう―――の中で一番大きな魔力を持つ黒いローブに身を包んだ男性がこちらを強張った表情で見ている。黒ローブの男はこちらがいつ飛びかかっても対応しようと警戒しているのが見て取れる。
全く失礼な。俺が何の脈絡もなく襲い掛かるような獣か何かと勘違いしてるのではなかろうか。
玉座に座る恐らく王を挟んで、絶賛警戒中の男性の反対側には2人の人間が佇んでいる。
1人は人族にしてはそこそこの魔力を持つ男。こちらも王に負けず劣らず豪華な衣装に身を包んでいる。が、それよりも気になるのはこちらを見るその眼であろうか。格下の相手を上から値踏みするかのような眼は正直不快だ。
もう1人はこの広間で唯一の女性。人族の女はそこそこの数を見てきたが、その中においても彼女はかなり美しい部類に入るだろう。また、彼女はこの広間にいる人族の中では2番目に魔力が高い。
身に纏う衣装から彼女も相応に身分が高い事は窺えるが、女性であるのにこの厳戒態勢の中でこの場にいるのはその魔力の高さ故ではなかろうか。
さて、周りを一通り把握したところで。この状況は一体どうしたことだろうか。
俺は魔王城の自室で寝ていたはずだが。寝てる間に人族の城に運ばれたとか。いや、それは無いな。俺は人族の王族には一通り会っているが、その記憶の中に彼らは一人として存在しない。そもそもこちらを警戒している黒ローブの男クラスの魔力があればあの戦いに出てきていないのはおかしいだろう。
よくわからないがとりあえず身体強化魔法だけ発動しておくことにしよう。周囲の人族達の警戒レベルが1段階上がったが気にするまい。
「ここはどこだ?それにこの状況はなんだ?」
身体強化魔法を発動したことでとりあえず何が起きても対応する準備が完了したので、聞いてみることにする。わからないことを一人でウダウダ考えていても何も始まらないからな。
「それは私から説明させていただきますが、まずはその身体強化魔法を解いてはくれませんか?」
口を開いたのは黒ローブの男であった。
「それは今から聞く答え次第だな。だが、そちらが何もしなければ、こちらも争う意思は無いと先に言っておく」
「わかりました。それで十分です」
俺の答えを聞いて、ひとまず笑みを浮かべる黒ローブの男。しかし警戒はやはり解いていない様子だ。俺が動いた時、対応できるのは恐らくこの場ではこの男だけであろう。当然だな。
「貴方は神のお告げに従い、このヤマト王国に勇者様として召喚されました。その紅い髪に紅い眼、お告げの通りです。勇者様、どうか憎き魔王を打倒する為に私達に力をお貸しください」
「・・・勇者?」
「はい、貴方が異世界より召喚されし勇者様です」
これはなんの冗談であろうか。
よりによってこの俺、ディスアスター・サタン、つまり魔王が勇者として異世界に召喚されてしまい、しかもその上魔王を倒して欲しいだと。
これではまるで俺と何度も戦い、最終的に無二の友となった異世界の勇者、タケシ・ヤマトのようではないか―――そう思ったところでふと黒ローブの男がこの国の名前をヤマト王国と言っていた事に思い至った。ひょんな偶然もあるものだ。そう思って玉座の後ろの壁に肖像画がある事に気付き、そこに描かれた人物を見た瞬間、今度こそ思考が停止した。
それは少し歳をとっているように見えたがそれでも見間違える事のない―――異世界人の勇者、タケシ・ヤマトであった。