魔王状況説明を受ける
そこからは別室に案内され、詳しい説明が始まった。一緒に付いてきたのは黒ローブの男、ユーリ・ローゼンベルクと第3王女、エミリア・ヤマトであった。
まず、ここは俺が今まで生きていた世界フレイディアとは別の世界であるらしい。
この世界の名前はアルカディア。
歴史などは当然違うが、生活している種族や魔法体系などを聞くに非常に似通った世界なのではなかろうか。
この世界でも人族と魔族は争っているとの事なので、世界が変わってもこの2種族は争う宿命なのかと溜息が出る。
前の世界フレイディアでは俺とヤマトが力を合わせてなんとかお互いの種族は和解する事が出来たが、この世界では厳しそうだ。
なんでも魔族の侵攻がかなり進んでおり、人族の国で残っているのはこのヤマト王国のみで、他の人族の国は軒並魔族に支配されてしまっているという。また、エルフやドワーフなどの他種族の国に関してもどうなっているかわからないという。
理由を聞いてみると、魔族の侵攻が進むと同時に魔物の強さや凶暴性が格段に増し、連絡が困難になってしまったらしい。
魔物とは地上に一定数存在する魔力の濃い場所で生まれる生物の事で、普通の生物と比べ大きさや凶暴性などが格段に増す、というのが俺の知識であったが、この世界では魔族が魔物を生み出し使役しているとの説明を受けた。
前の世界でも人工的に魔物を生み出す研究は確かに魔族がしていたし、その後生まれた魔物を使役する能力を持つ魔族も一定数存在したが、魔物を全て魔族が生み出しているわけでは無かった。魔物は基本的に自然現象として勝手に生まれるからだ。
まぁ、それでも前の世界でも魔族が魔物を生み出し使役していると人族に思われていたし、それと同じようなものだろう。
それにこの世界では本当に魔族が全ての魔物を生み出しているかもしれない。それが事実だとしたらとっくに人族なんて滅んでいると思うが。
それはさておき、もう一つとりわけ驚いた事と言えば、前の世界での無二の友、異世界人の勇者であるタケシ・ヤマトの事であろう。
このヤマト王国はなんと1200年前に異世界から召喚されてきたタケシ・ヤマトが侵略してきた魔王を封印し、その後興した国だと言うのだ。
1200年前の事であるし、他人の空似かとも考えたが、伝承に残っている逸話や肖像画などから、どうも本人であるように思える。そもそも創造魔法なんてヘンテコな代物の持ち主が同じ容姿で二人も居てたまるかという気持ちもある。
ヤマトは俺といた時は確か17歳だと言っていた。
この世界に転生されてきた時も17歳だったらしいから、俺と同じようなタイミングでこの世界に召喚されてきたのではなかろうか。ただ、1200年ものタイムラグがあるのが疑問だが、そもそも異世界召喚なんてもの自体謎のかたまりだ。そんな事もあるのだろう、と思うしかあるまい。ヤマトは晩年までこの国で過ごしたと言われている。俺とヤマトの二人の道標が居なくなった前の世界も気になるところではあるが、気にしたところで帰り方もわからないのだ。気にするだけ無駄であろう。何にせよ、奴も一生のうちに二度も異世界に召喚され二度も世界を救ったのだ。なんと数奇な運命の持ち主だろうか。
さて、ある程度説明を受けたところで、俺も自己紹介をする事にした。
今のところ誰に襲われようが誰と敵対しようが戦って負ける相手がいるとは思えないが、意味もなく敵を作る趣味はない。味方を作るにはまず相互理解をするというのが俺の信条である。
「俺の名前はディスアスター・サタン。まぁ気軽にディスターとでも呼んでくれ。前の世界では魔王なんてものをやっていた」
そう言った時の第3王女エミリア・ヤマトの表情は見ものであった。何せ俺が魔王だと聞いて一瞬で臨戦態勢に入って魔法を行使しようとしたからな。
すぐに隣のユーリ・ローゼンベルクが止めに入らなければこの美しい少女を力づくで抑えつけなければならないところであった。
その後、ヤマトとは前の世界では勇者と魔王という敵対勢力同士であった事から、その後幾度と戦いを続けるうちに友となり、人族と魔族の争いを協力して終結させたところまで話す頃にはエミリアは目をキラキラとさせていた。
どうも彼女は勇者ヤマトの逸話のファンであるとのこと。奴は魔王を封印したばかりかこの世界の生活レベルも随分と引き上げたそうだ。確かにヤマトの元いた世界―――地球といった名前だったと記憶している―――は随分と生活レベルが高かったようだし、それをこの世界にもたらしたのであろう。興奮した第3王女エミリア・ヤマトの話を聞いているとヤマトの創造魔法と合わせてもはや神のような扱いであった。
で、俺が召喚された理由だが、先ほど言われた通り、神からのお告げがあったらしい。
曰く、
『魔王倒せし者、異世界より現れる。その者、紅き髪、紅き目を持つ魔の王なり』
だそうだ。
ちなみに俺と互角に渡り合ったあのヤマトが魔王を倒したのではなく"封印"に留まった理由を聞いてみると、魔王は肉体を倒してもその魂が残っている限り、また別の肉体に転生してしまうとのことだ。
それならヤマトが封印だけに留まった理由にも合点がいく。奴の使う"兵器"は強力無比であったが、魂まで破壊する事はできないだろう。
「さて、ある程度の説明はしたけれど、ここまでで何か質問はあるかしら?」
そう言うエミリア・ヤマトは先程までの興奮した様子はどこへやら、すっかり落ち着きを取り戻したようだ。頰がまだ少し赤いのは見逃しておこう。
「そうだな、一応確認だが、元の世界に戻る方法は知らないんだな?」
「ええ。それは本当にごめんなさい。そもそも勇者召喚もこれが勇者タケシ・ヤマト様に続いて2回目ですもの。神殿からのお告げでも帰り方までは聞いていないそうだし、ヤマト様も晩年までこの世界で過ごしたそうだから、わからないわ」
「そうか。なら、帰り方については一旦置いておこう」
申し訳なさそうに目を伏せるエミリア。
彼女達やヤマトが帰り方がわからなかっただけで、実は探せば帰る方法があるのかもしれないし、やっぱり無いのかもしれない。
これは頭の片隅にでもしまっておこう。
それに、前の世界で俺の力が必要とはもう思えない。元々隠居しようと思ってたくらいだしな。
問題としてはリシルくらいか。あいつは俺が居なくなって相当焦っているだろう。力技でこちらに来る方法とか探し当ててしまいそうだ。
「では1つ質問だ。これから俺はどうすれば良いんだ?」
「そうね、期待されている事は当然あるのだけれど・・・」
そう言ってエミリアはユーリに視線を向けた。それにユーリは笑顔で頷く。
「はい、まずは貴方の実力を我々に見せていただけませんか?勇者タケシ・ヤマト様と互角の戦いをされていたならさぞお強いとは思いますが」
「それは構わんが。お前と戦えとでも言うのか?」
ここから俺の魔力探知が届く範囲ではこのユーリが一番魔力的には大きいからな。戦いにおいて魔力の大きさが全てとは言わないが、それでも魔力の大きさは決定的な実力差になりうる要因である。
「いえ、私が貴方と戦ってしまえばこの辺りの地形が変わってしまいそうですので」
ということは少なくともこのユーリは地形を変えてしまうほどの大魔法を使える魔法師だということだ。いつかその力を見たいものだな。前の世界でもここまでの魔力の大きさの持ち主は魔王軍幹部クラスであろう。少なくとも人族でこれほどの魔力の持ち主はヤマト以外に見た事がなかった。
「人族の身でそれほど鍛えるのは並大抵の事ではないだろうな」
「恐縮です。ですが私は正確には人族ではなく、人とエルフの混血ですよ」
「・・なるほどな」
それなら納得だ。エルフ族は生まれつき魔力が高い物が生まれやすいからな。そしてエルフは総じて長命だ。このユーリという男も見た目はまだまだ20代に見えるが、見た目通りの年齢では無いのであろう。
「それで、俺は誰と戦えば良いんだ?」
「そうですね、まずは近衛騎士団と戦っていただければと思います」
この何を考えているかわからない貼り付けたような笑顔もその人生経験故のものだろう。戦えば勝てるだろうが、謀りごとでは全く敵わなそうだ。前の世界でも俺は力を振るうのみで謀りごとや政治に関しては常に部下に任せていたからな。
「ディスター!勇者ヤマト様と互角以上に戦ったという貴方の力、見せてもらうわよ!」
それに比べてこの王女の笑顔のなんと馬鹿正直なことか。まるで太陽のような笑顔である。この世界ではあの部下達は居ないのだから、自分で物事を考えなければならない。世界がこんな御仁ばかりであったら悩みも無くなるのだが。
そんなわけで俺達は訓練場とやらに向かう運びとなった。




