魔王結界を解析する
魔道具を作成した後。
俺はエミリアとユーリと共に城の敷地内にある尖塔を訪れていた。
この尖塔の最上階には王都を守る結界の発動体たる魔道具が保管されている。
ここを訪れた理由は魔道具の構成を確認するため。
俺はエミリアに1つの案として、この魔道具の複製を提案したのだ。
それは受理され、こうしてこの尖塔を訪れる事となった。
ユーリが同行しているのは、万が一俺が魔道具を破壊しようとしても止められるようにと大臣達が声を上げたからだ。
エミリアを始めとする一部の人間からの信頼は得られた俺だが、まだまだこの国にとっては異世界人なのだな、と改めて実感した。
「本当に結界の魔道具の複製なんて出来るんですか?」
「見てみない事には何とも言えないが。そもそも今まで複製をしようとした事はなかったのか?」
「いえ、ありませんね。これが作られてから1200年、問題なく今まで起動していますから。考えた事すらなかったみたいです」
「そうか」
「ディスターならきっと出来るわよ!」
エミリアが笑いながら言った。
「これで見事出来たらまた一つ魔道具の研究が進みそうですね」
ユーリもワクワクとした表情を隠そうとしない。
聞くとユーリは魔道具ギルドの幹部の1人であるらしい。
通話のピアスの技術はいずれ彼に売る事にしよう。
尖塔の螺旋状の階段を登っていくと、やがて石造りの塔に似合わない木製の扉の前に着いた。
どうやらこの扉には強固な状態固定の魔法が掛けられてているようだ。
この尖塔にも同じ魔法が掛けられている。
この塔を外から怖そうとすれば相当の威力の魔法が必要であろう。
少なくとも上級クラスの魔法を受けてもビクともしなさそうではある。
このレベルの状態固定の魔法だ、恐らくこれを掛けたのはヤマトであろう。
「"アンロック"」
ユーリが魔法を唱えると、扉からカチリ、という音がしたのち、ゆっくりとひとりでに開いていった。
「ここの扉はその魔法が使えれば誰でも開けられるのか?」
「いえ、この許可証を持っていないと開かないようになっています」
ユーリは懐から1枚のプレートを取り出した。
なるほど、簡単に侵入されないようにはなっていると。
エミリアが部屋の中に入っていき、俺とユーリもそれに続いた。
「へぇ、これが結界の魔道具なのね」
エミリアが感心した様子で言った。
彼女もこの部屋に入ったのは初めてのようだ。
その魔道具は四角い金属の箱であった。
大きさは1m四方程度で、表面にびっしりと魔法陣が刻まれている。
「ユーリ、1つ魔法を使っても良いか?」
「どんな魔法を?」
「解析の魔法だ」
そう言うとユーリが目を丸くした。
「そんな魔法があるのですね。後で教えていただいてもよろしいですか?」
「ああ。構わない。簡単な魔法だしな。それで魔法の使用は良いのか?」
「ええ、どうぞ」
ユーリから許可を得たので、右手を掲げ、魔力を制御する。
「"アナライズ"」
右手から魔法陣が展開され、その魔法陣がゆっくりと魔道具を包んでいく。
それに合わせ、俺の頭に情報が流れ込んでくる。
そして魔法陣が魔道具の下からゆっくりと上へと上がっていき、やがて収束し消えていった。
息を一つ吐いた。
「解析完了だ」
「・・どう?」
エミリアがおずおずと尋ねてきた。
「結論から言うと、複製は可能だ」
「おお!なんと!」
ユーリが声を上げた。
「ただし。問題がいくつかある」
「問題?」
「ああ。1つ目は材料。アダマンタイト鉱石が50キロに、大体5.60センチくらいの純度の高い魔石が必要だ」
アダマンタイト鉱石は活火山が近くにある鉱山で稀に産出される鉱石だ。
魔力に対して非常に高い融和性を持っており、また周囲から魔力を吸収する性質も併せ持つ。
魔石は魔物の身体の中から取れる魔力の結晶だ。
強力な魔物であればあるほど魔石は大きくなり、純度も高くなる。
「アダマンタイト鉱石の方は国庫を確認してみましょうか。恐らく足りるはずよ」
エミリアはそう言うと、だけど、と続けた。
「魔石の方は無いわね。それくらいのサイズだと大抵飛空挺のコアに使ってしまうから」
「そうなると、取ってくるしかないか」
「そのサイズの魔石となると、竜クラスじゃないとダメね」
竜クラスか。
狩るのは楽だが、問題はその生息地だ。
竜は人里の付近には滅多に降りてこないのだ。
「それならちょうどこの王都とガイアス伯爵領を繋ぐ街道に地竜が出没しているという話がありましたね。お陰で行商人が通れずに困っているとか」
ユーリが思い出したように言った。
「それなら国からの指名依頼という形でギルドに依頼を出しましょう。地竜の素材も国で買い取らせて貰うわ。ディスターもお金は必要でしょ?」
「ああ、それで頼む」
地竜の魔石は魔道具作成に使うとして、地竜の素材は金になる。
「ひとまず素材の方は良いとして。他の問題はなに?」
「ああ、もう一つの問題だがな。この国にアダマンタイトの加工が出来る職人はいるのか?」
前の世界ではアダマンタイトの加工はドワーフの専売特許であったと記憶してるが。
「・・貴方はアダマンタイトの加工は出来ないの?」
「ヤマトは出来たかもしれないが、俺には無理だな」
そう答えると、エミリアは目を伏せた。
「やはり、ドワーフは国内に居ないのか」
「ええ。先代国王の時代にね」
これはシスの授業で習った事だが。
ドワーフの国、アルメイダ公国では"神の炎"と呼ばれる特殊な焔を使ってアダマンタイトやオリハルコンなどの特殊な金属を加工する技術を有している。
"神の炎"はアルメイダ公国では神から認められた一流の鍛治師にのみ扱う事のできる神聖な物とされており、それを持ち出したり、神から認められていない鍛治師が扱うのは禁忌なのだそうだ。
だが、ヤマト王国先代国王の時代に、そうとは知らなかったヤマト王国のある貴族が神の炎を自領に持ち出してしまい。
それを知ったアルメイダ公国は激怒し、ヤマト王国との国交を断絶、その貴族はお家取り潰しとなった。
その事実はヤマト王国内に居たドワーフの鍛治師にも知るところとなり、彼らは軒並み国に帰ってしまったのだそうな。
とにかく、そんな事情でヤマト王国内にドワーフの鍛治師はおらず、彼らが居なければアダマンタイトの加工は出来ない。
「という事は一ヶ月後の式典の後にアルメイダ公国に行って国交回復を願うわけだから、魔道具作成はその後になるな」
「そうなるわね。本当に恥ずかしい話だわ」
そう言って肩を竦めるエミリア。
「とりあえず先に素材だけは集めておこう。エミリアはギルドに指名依頼を頼む」
「わかったわ」
「ああ、この目でディスターさんの魔道具作成を見られると思ったのですが、残念です」
本当に残念そうに言うユーリ。
「この後解析の魔法陣を描いてやるからそれで勘弁してくれ」
一度魔法陣で解析の魔法を使えばユーリクラスの魔法師なら次からは自分の力で使えるようになるだろう。
「ええ、わかりました」
とりあえず今日のところは結界の魔道具の複製が出来そうだという事が分かっただけでも収穫だと思うべきだろう。
また、この結界の魔道具自体も強固な状態固定の魔法で守られているので、生半可な実力の持ち主では破壊は無理だ。
それがわかったのも良かった。
こうして俺達は尖塔を後にした。




