勇者と王女
お陰様で100話目です!
これからもどうぞよろしくお願いします!
5の月1の週水の日。
俺はエミリアと共に内街を歩いていた。
俗に言うデートというやつである。
エミリアには日頃から苦労を掛けている。
そんな彼女を労いたいと思い、珍しく俺から誘ったのだ。
彼女は俺から誘った事に大層驚いていたが、それでも喜んで快諾してくれた。
まぁ、事前に今日は彼女の予定がない事は確認済みだったのだが。
エミリアに何をしたいか聞いたところ、久しぶりに彼女の妹である第4王女リーフィアに会いたいとの希望であった。
ただ、直接王城に行くのではつまらないと、俺たちは前に一度訪れた喫茶店に寄って行く事にした。
喫茶店の店内は相変わらず客数が少なく、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
店主の燕尾服に身を包んだ老年の男性の落ち着いた物腰も、この雰囲気に見事に調和していた。
俺は珈琲を、エミリアは珈琲とモンブランを注文した。
「珈琲だけで良かったの?」
「ここには珈琲を飲みに来ているからな」
しばらく待っていると、店主が珈琲とモンブランを持ってきた。
珈琲に口をつける。
うん、やはり美味い。
「本当にここの珈琲は美味しいわよね」
「ああ」
ぜひこの喫茶店で使っている珈琲豆は知りたいところだ。
家でも飲みたい。
「どんな豆を使っているのか聞いてみましょうか」
エミリアはそう言うと店主を呼んで、何の豆を使っているのか聞いてくれた。
どうやら使っている豆はこの店のオリジナルブレンドであるらしい。
エミリアはすぐに交渉に移り、定期的に豆を卸してくれる事に決まった。
更に店主はこの豆の美味しい淹れ方まで丁寧に教えてくれた。
これで家でもこの店の珈琲を飲む事が出来る。
「聞いた本人が言うのも難だけど、まさか淹れ方まで教えてくれるなんてね」
「やはりこの店はいい店だな」
家でこの店の珈琲を飲むことは出来るようになったが、この喫茶店は雰囲気も好みだ。
定期的に訪れたいと思える。
「モンブランも美味しいしね」
エミリアはモンブランを頬張って幸せそうな表情を浮かべた。
そんなエミリアを見ているとこちらまで幸せな気分になるから不思議だ。
これが人を愛するという事なのだろう。
前の世界ではついぞ経験出来なかったが、この世界でこんな想いを持てたので、俺をこの世界に喚んだ創造神アルカディアには感謝したい。
「どうかした?」
エミリアをじっと見ていたら、彼女は不思議に思ったのか、小首を傾げて尋ねてきた。
「いや、エミリアは本当に美味そうに食べるなと思ってな」
「普段食事を取っている時の貴方の方がよっぽど美味しそうに食べてるわよ」
エミリアはそう言ってくすくすと笑った。
そうなのか。
自分の食べている時の顔を見た事が無いのでわからなかった。
「でも、本当にここのモンブランは美味しいから」
エミリアは最後のモンブランの一口を名残惜しそうに頬張った。
相変わらず彼女はデザートを食べる時は食べるのが早い。
まぁ、これは女性陣全員に言える事だが。
喫茶店を出て、王城へと向かう。
「いい天気ね」
エミリアは俺と手を繋ぎ、上機嫌そうに言った。
「機嫌がいいな」
「だって。創造神アルカディア様からはまだ何のお告げも無いのでしょう?きっと、アルカディア様が今は休めって仰ってるのよ。なら、休みを満喫しないとね」
先日アルカ神殿を訪れたが、特に新しいお告げはなかった。
今はお告げが必要な時ではないのだろう。
「そうだな」
それにしても、エミリアのこの切り替えの速さは美徳だ。
戦う時は戦い、休む時はしっかり休む。
大切なことだ。
ならば俺もこの休日を楽しもう。
王城に着くと、俺は偶然出くわしたカーチスにすぐさま連行されてしまった。
訓練に付き合って欲しいとの事である。
確かに王城で訓練に付き合うのは家を買ってからはしてなかった。
訓練は基本的には地下訓練場で事足りるからな。
エミリアは苦笑しながらその様子を見て、リーフィアを訓練場に連れてきてくれると言っていた。
どうやらカーチスやルークや近衛騎士団といった面々は大闘技大会に出場するらしい。
"アルカディア連合軍"はコネなどは関係なく、純粋な実力で地位を決めるのだそうだ。
文官や指揮官はどうするのかと思ったが、そちらはそちらで別途に試験を設けるらしい。
臨時軍という事で、"アルカディア連合軍"はかなり給金を高く設定している。
そうでもしなければ人が集まらないからだ。
金を負担するのはヤマト王国とアルメイダ公国の2国である。
ヤマト王国は魔族と戦うためにかなりの額の貯蓄があるそうなので、問題はなかった。
俺は突進してくるルークの攻撃を捌き、足をかけて転ばせると、背中を蹴り飛ばした。
「ぬぁー!せめて一撃入れたいっす!」
「ははは!ディスター殿に一撃入れるのは至難の技であろう!」
地団駄を踏む近衛騎士団長ルークにカーチスが笑って言った。
今俺は近衛騎士団の面々と軍部総司令となったカーチスと組手をしていた。
なんでも、大闘技大会前に一度俺と戦っておきたかったらしい。
「もう1セットお願いするっす!」
「いいぞ」
近衛騎士団の面々が次こそは俺に一撃当てようと雄叫びをあげて意気込む。
しかし、結局その後更に3セット行なったが、誰一人として俺に一撃入れる事は叶わなかった。
「お疲れ様」
組手の様子を臨時で置かれたテーブルセットに座って見ていたエミリアがタオルを俺に渡してくれた。
「ありがとう」
俺は礼を言ってから汗をタオルで拭った。
「勇者様は本当に強いんですね」
エミリアと一緒に組手の様子を見ていたリーフィアが言った。
リーフィアは外に出れるようになって久しい。
随分と顔色もよく、体調も良くなったようだった。
「勇者様、1つお願いがあるのですが・・」
リーフィアはおずおずといった様子で切り出した。
「なんだ?」
「勇者様を題材にした物語を書きたいのですが、よろしいですか?」
物語を書くか。
本が好きなリーフィアらしいな。
だが、俺を題材にした物語か。
「別に構わないが、俺を題材にして面白いのか?」
「何を言ってるの?既に貴方は御伽噺のような活躍をしてるじゃない」
エミリアに呆れた様子で言われてしまった。
自分ではわからないが、そうらしい。
リーフィアも激しく首を縦に振っていた。
「ならいいぞ。やってみろ」
「やった!ありがとうございます!お姉様!勇者様の活躍をもっと教えてください!」
「はいはい」
興奮した様子で言うリーフィアに、エミリアは苦笑しながら最近の俺達の活動を語り始めた。
こうして、俺の物語がリーフィアの手によって作られる事となった。