第一話
演技ができたらいいのに。
何回そう思ったことだろうか。
演技ができたらいいのに・・・
「美世!しけた顔してんなよ!」
「え?」
「気づいてないんか?めっちゃ暗いで」
「あ、すいません」
「べつにええけど・・・」
中学校時代、私は吹奏楽部に入っていた。
そのときの私の一つ上の先輩、上島先輩。
私はこの先輩のことを好きだった。
だからといって、
かわいい顔を作れるような器用さも
素晴らしい才能で引きつけることも
気持ちを伝えて動揺させることさえも
できないでいた・・・。
辛い痛い中学時代。
もし演技ができたなら、
自分にできる精一杯の笑顔で告白して
振られても同情をさそう泣き方をして・・・
先輩に覚えてもらえたかもしれないのに。
先輩が卒業してから、
私はもう、後悔なんてしたくなかった。
何かをしていたら、こうなったかもしれない、なんて言いたくない。
そう思って、受験勉強は頑張った。
そして今、先輩はいないけれど、第一志望校に合格することができた。
嬉しいけれどなんだか少し寂しいのは
何でだろう・・・。
吹奏楽部に入れば、コンクールなんかで先輩と出会えるのはわかっているけれど
なんだか、もう先輩に会うのは、限りなく痛くて、会いたくなくて、
部活に入る気は無かった。そんなとき、私の前に救いの手があらわれたの・・・
それは一枚のチラシ。
延年演劇サークル会員募集、の文字。
>演技ができたらいいのに・・・
もう絶対、後悔はしない。
私はサークルの連絡先をメモし、
その日のうちに入会した。
絶対に・・・後悔はしたくない。




