眠い時は思考能力が低下するんだ
連続投稿四話目………連続投稿終了
お弁当の定番といえる卵焼きは箸で持つとふわふわとした弾力で、噛めばほんのりとした甘さが優しく口に広がる。鮭をパン粉で焼いたものは、パン粉のさくさくとした感触が楽しめ、鮭の塩味と母特製の洋風だれが合ってご飯がすすむ。ご飯の上には桜の形をした可愛らしいかまぼこが乗せられており、キャラ弁を好まない私でも楽しめるようにという母の配慮が感じられる。
他にもアスパラの豚肉巻きや、唐揚げ、金平、ミニトマト、ブロッコリー、うずらの卵、まだいろいろ………………多いな。
保冷剤に囲まれたデザートは母手作りの濃厚チョコムースだ。
このしっとりとした舌触りと、冷やされてひんやりとした濃厚なチョコが溶けるように口の中で消えて、残るくどいほどの甘さが堪らない。
食後のお茶はちょっと甘い麦茶だ。
さっきの濃厚チョコムースの後だと、さっぱりとした口当たりでちょうどいい。
――――と、まあ食レポの真似事をしてみたわけだが………どうやって降りようか?
いや、降りれないわけじゃないぞ?こんな高い所から降りるのも楽勝なんだからな。ホントだぞ?
まあ、何というか。お腹いっぱいなわけだよ、私は。思った以上にお弁当の量が多かったからな。腹八分目なんて疾うに越えているんだ。
それで、私はまだ五歳児という子供なわけだ。抗えない欲求が私に襲いかかって瞼が………。有り体に言えば、眠くなってきた。子供は一日のほとんどを寝て過ごして成長するからな。
だが、この状態で降りるというのも危険な所で………ぐぅ――――ハッ!
本当は食休みといって、もっと桜をのんびりと眺めていたい気分なんだがな………。
ちらりと下を見てみる。
熊井さんは木に背中を預けて目を閉じている。口が動いてないから、私があげた飴は食ってしまったのだろう。ポケットの隙間から厳つい見た目からは想像できないほど可愛らしいいちごの包み紙が覗いているのだ。ちょっと笑えてくる。
だが、律儀に待ってくれているのを、これ以上待たせるのもどうなんだろうか………。逃げた私が言えることでもないが、一応申し訳ないという気持ちもないわけじゃないんだ。ないわけじゃ。大事なことだから二回言った。
さて、このままどうするかと悩んでいたら寝こけることは間違いなしだ。ここは思い切って行動しよう。
「熊井さん」
「ん?なんだ、食べ終わったのか」
「ああ。………眠い」
「あ?おい、ちみっこ寝んなよ!?」
「んー………。熊井さん、手広げてくれ」
「………こうか?」
困惑しながらも、手を広げてくれるヤー………熊井さん。
ちょうど私の下よりも手前に移動するように指示すると、素直に従ってくれた。
だが、移動したことで私が何をするのか悟ったようで、少し焦った顔になった。………なんというか、厳つい強面の迫力が増してさらに恐ろしい顔になってるな。
あそこに飛び込むことは色んな意味で勇気がいるが、寝てしまっても落ちるだけだ。ここは潔く落ちて行こうではないか。
「いくぞー」
「おい!!待てっ、ちみっこ!!危ねぇから――――ッ!?」
ふわっと感じる一瞬の無重力から、かかる重力で体は必然的に重さを増して落ちていく。目まぐるしく移り変わる視界の色は風圧の強さで無意識に目を閉じたことで遮られた。
次いで、衝撃と小さな呻き声。
目を開けると人一人はやってそうな顔の額に青筋が――――
「ありがとうございました………」
「おい、ちみっこ………。とりあえず、そこに、座ろう、な?」
一語一句ずつ子供に言い聞かせるように(まあ、子供なんだけど)、ヤーサンは私に目線を合わせて言った。
その後、私がどうなったかは言うまでもない。
あ、心の汗が滲んで………
ありがとうございました。