ディストピア
第二章プロローグです。
眼に見える悪は、やがて正当に裁かれるものである。
眼に見えぬ悪は、裁かれずに逃れ続けるものである。
この世に悪のない人はいない。勝負に勝ち負けがあるように、人の行為には善悪があるからだ。
そして、優しさが生み出す善が時として、悪以上に人を傷つけてしまうことがあるからだ。
人は"悪"から逃れられない。故に人は、悪意を浮かべる自らの感情から逃れることはできない。
他者に勝ちたい。他者より上に行きたい。もっと幸福になりたい。もっと充実した生活を送りたい。
誰もが抱く欲望。それを当たり前としているからこそ、そこから人の感情は悪意に派生し、ねじ曲がることがある。
あいつとは違う、自分は違うと謳うことはできる。が、人は無意識のうちに、眼に見えぬ悪を自分の中で愛でている。
やがてその隠された悪が、"世界を壊す"ことをまだ、この時代に住まう人々は知らない。
-----------------------
時は三〇十二年。この時代より千年も先の時代。
千年の時を得て、技術の発展により人々の暮らしは不自由のないものとなっていた。
そして、技術の進化の果てに、人々は『魔法』を体現することに成功した。
この時代にて、『魔法学』と呼ばれる分野は各国で注目され、それぞれの国が独自の魔法学の研究を行った。
だが技術の進化と同時に、社会の裏では様々な陰謀、悪意が渦巻いていた。
千年経ってもなおのこと続く戦争、そして魔法学の技術の取り合い、独占を企てる国々の数々。
魔法学をめぐって貧しい国々が起こした多数国への大規模なテロ事件が起きた際には、魔法学により多数の小国が世界地図から姿を消した。
技術により明確となった力関係は、もはや平和を言葉ではなく"力"によって成した。
魔法という力によって世界を握る国々、そして反発する国々。
それらの力関係に振りまわされる力を持たぬ貧しい人々、長年貯め込んでいた人々の欲望はこの時、このような形で姿を現したのであった。
そんな力づくな世界平和が続いたある時、一つの国が世界に宣戦布告する。
そう、魔法学の独占による戦争が始まったのだ。『魔法使い』と呼ばれる者たちが主導権を握る大規模な戦争。
一つ、また一つと国々は戦争に参加し、尊い犠牲の果てに、人々が住まう世界は崩壊の道をたどっていた。
一人の科学者は言った。どうしてこのような事態になってしまったのかと。
人は進化しすぎたと言った者もいた。人の欲望と探究心がこのような禁術へと足を踏み入れ、それをめぐってこうなってしまった。
世界の発展のため、平和のためと謳いながら、それらが世界の崩壊を導いてしまった。
戦争の最中、世界に数人しかいない魔法使いの一人は決意した。世界をやり直す決意を。
それはけして正しいものではない。それは傲慢だろう、勝手すぎることだろう。失敗したからやり直すと、簡単に言って見せたのだろう。
もしかしたら繰り返すだけかもしれない、繰り返しまた同じことを考え、やり直すと口にするかもしれない。
しかしこの世界が自分たちの住まう世界だ。ならば戻す義務がある。
魔法使いは言った。己の魔法を使い過去に行き、問題を修正しこの結末を回避すると。
魔法使いの名は、"ギルバート・ゴッドエデン"。
魔法学を極めたゴッドエデンは、自らの魔法にて過去へとタイムスリップをした。
そしてゴッドエデンが姿を消した数日後には、彼の住まう世界は完全に崩壊したという。
ゴッドエデンは言った。人の見えざる悪意こそが、世界を脅かす敵であると。
数億の人類が抱く悪の感情エネルギー、それがどれだけの結果を生むのかを知った上で彼は口にした。
人は知らねばならない。見えざる悪意を"形"にして、思い知らなければならない。
-----------------------
二〇十二年。
技術が急速に発展したこの時代。ドリームゲートを使った次世代オンラインゲーム、心世界オンライン。
進化した技術は、完全なる仮想世界を生み出した。
現実ではできないことができる世界、全ての人が理想としたファンタジーが現実となる世界。
この世界は全てが形となって現れる。
人の希望も、"欲望"さえも……。




