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1話

『世界』のどこか 13:13



 ニルと駿我は鎧武者との出会いから数日後、ある場所にいた。


 彼と彼女の立っている場所から後ろには舗装されたコンクリートの大きな道路が永遠に続いているのかと錯覚するほどに繋がっていたが、彼と彼女の立っている場所から先にはコンクリートの歩道は無い。


 何故か舗装されたコンクリートの道路はまるでそこから何者かの手によって見事に断ち切られたように消え去り、その変わりにレンガを敷き詰めた大きな歩道が繋がっている。


 そう、そこは『世界』の切れ目だった。基本的にどこかの世界のどこかの土地を再現している『世界』は他のどこかを再現した場所とは完全に分けられている。


 その証拠にコンクリートの道路の片隅に生えている草花はその先にあるレンガの歩道に生えている草花とはまったく違う物だった。もはや環境から根本的に違うのだ。


 コンクリートの道路の側の草花が風に揺らめいても、レンガの歩道の草花はまったく揺れることは無かった。


 しかし、多少の環境差くらいなら問題にならない生物、つまり今彼と彼女の隣を行く小さなネズミは何の抵抗も無く風すら阻まれるコンクリートとレンガの切れ目を通り抜け『向かい側』へ走っている。


 それを見た駿我は感心したようにほう、と呟いて辺りを見回していた。彼の目には感心はあっても驚きは無い、それは彼が『世界』に慣れている事を意味していた。


「いつ見ても、面白いでござるなあ。どうやって『世界』をこのように分けているのか……まだまだわからぬでござるよ」


「ああ、確かにわからないよな。私も流石にこの仕組みは理解できなかったよ。最も、私くらいの存在に理解できるほど簡単に作られている筈も無いさ」


 『不敵』という言葉が似合う微笑を浮かべて駿我に話しかけているのはニルだ。当然だ、駿我を誘い別の地に行こうとしているのはニルなのだから。


 そう、駿我はニルの知る『父親を探しているあいつ』に会いに行く為にここに居た。駿我自身、『面白い事』には乗り気でなかったが『カイム』という名のニルの父親に関してはとても気になっていたのだ、何せ、親友の父親なのだから。


「そういえば……ニルの父親を探している『あいつ』とは一体どのような者なんでござるか?」


 駿我はニルからその『あいつ』の名前を聞かされていなかった。鎧武者と出会った歩道ではお互いに笑いながら帰ってしまった為に聞くのを忘れていたのだった。


 自身の親友であるニルの父親が凄まじい力を持つ怪物に捜索されている、というのは知っていたが、それが何者かまでは知らなかったのだ。


「有名人だぞ? いや『人』とつけていいのかどうかは迷う所だが、ああ、有名ではあるね」


「具体的には何の有名人でござるか?」


 ニルは悪戯っぽい微笑を浮かべて駿我の疑問に答えた。


「エィスト、だ」


 その名前を聞いた駿我の反応こそ見物だった、相変わらず被っていた編み笠で隠されてはいたがニルからは目を見開いて口をあんぐりと開けているのがよく見て取れた。


「エィ、エィスト? それはまさかやっぱり、あの、エィスト殿でござるか?」


「ああ勿論。『この世界を作り上げた享楽主義者かつ怪物代表でかつ最強でさらに大馬鹿だから始末に終えない』の、エィストさ」


 ニルは何故か他人から聞いたような口調で言っていたのだが、駿我はそれには気づかなかった。


 駿我は一人で慌てるような態度になったかと思うとまだ驚きが冷めないといった口調で話している。


「そ、それはまた凄い名前が出てきたでござるな。いや、むしろアレが探しているというのに見つかっていないとは……まさか、互角でござるか? あの怪物と?」


「そうらしい。流石は私の父親、って所かな? まあ、私もしばらくは見つからない自信はあるがね」


 駿我が驚き戸惑うのも無理は無かった。


 エィストという怪物はこの『世界』を一人で作り上げた最も強い力を持つ怪物の一人なのだ。本人さえその気になれば『世界』の全てからたった一つしかない特定の微生物を探し出すことすら一瞬の片手間で出来てしまう、そんな怪物なのだ。


 そんな怪物をして見つけられない、という事はニルの父親であるカイムがそれほど凄まじい力の持ち主である事を現していた。


 勿論駿我はニルが『世界』の中でも指折りの力を持つ存在である事は知っていた、が、その父親がまさかその頂点と同等だとはまったく予想だにしなかったのだ。


「いやまあ、拙者とてニルがどれくらい凄まじいかは知ってるでござるよ? とはいえ、エィスト殿よりは……」


「当たり前だ、私は一応人間だぞ」


 肩をすくめつつも微笑を浮かべるニルの顔には遠まわしに父親より弱いと言われた事への怒りの類は一切無かった。どうやら特に思うところは無いらしく、肩をすくめる以外には特に変わった行動をする事も無く話は続く。


「ところで、ニルの言う通りにここまで来たでござるが……この先にエィスト殿が居るのでござるか?」


「多分な。私にとってもあまり会いたくない類の怪物なんだが……」


 あまり会いたくないと言いつつ言葉を切ったがニルの顔には笑みが浮かんでいた。そして駿我はその笑みと言葉を切った理由を彼女の性格を考えた上で予測していた。


「……『面白い事』になりそうだから、でござろう?」


 そう言われたニルの顔は微笑から楽しそうな笑顔になっていた、ただし、不敵という成分を忘れては居なかったが。


「ああ、その通り、その通りだとも。私はエィストにこの話を通せば絶対に面白い事になると踏んでるよ。先日も聞いたが、慣れているとはいえ君にとっては迷惑かな?」


「いいや、親友の歩む道ならどこまでも追いていくでござるよ、拙者はな。……カイム殿に興味が有る、というのも理由の一つではあるでござるが」


 駿我の言う言葉の後半は取って付けられたような、照れ隠しのような理由付けだった。勿論真実だったが、その事も含めて理解したニルは満面の笑みを浮かべていた。


「やっぱりお前は最高の親友だよ。まったく、大好きだ」


 嬉しそうに笑う姿は彼女の美貌もあってどこか優美なほどだったが、駿我は特にその点には反応しなかった。まるで彼女を異性として見てすらいないような、そんな目だ。


「ま、まあそれは置いといて、これからエィスト殿に会いに行くんでござろう?」


 だがそれでも親友として真っ向からそう言われたのは照れるのか深く被っている編み笠をさらに深く被るように動くと話を変えようと言葉を返した。


「ああそうだ。この先に、多分居る。まあ、大丈夫だろう。私が来ることくらい察知している筈さ。もしかしたらペンダントの事ももう知ってるかもな」


 冗談のようにニルの言ったその言葉は真実だ。確かにエィストという怪物はペンダントの事を知っていた。だが、駿我もニルもその事はまったく知らなかった為にそれは単なる予想の一つとして話の片隅に追いやられた。


 駿我もまあそうだろうな、という風に頷くと気を取り直したように足を一歩前に突き出した。コンクリートの歩道から、レンガの歩道へと。


「さて、まあエィスト殿に会いに行く。という事もわかったことでござるし……そろそろ行くでござるか?」


「そうだな、そろそろ行くか。さて、エィストはどれくらい事態を把握しているのか……楽しみにしていようじゃないか」


 そして、ニルもまた駿我と同じように足を一歩突き出した。これから起こる事を、楽しみにしながら。












『世界』のどこか 13:15



 ニルと駿我の二人が『世界』の切れ目に居るのと同じ頃、一人の女がベンチに座って溜息をついていた。


 レンガの歩道の隅にある木々の下に幾つか置いてある小さなベンチは目立たない位置にあったが、偶然なのか意図的なのか木々の隙間をぬってうまく陽光が差し込む場所に置かれていたために丁度良い暖かさが保たれていて休憩をするのにはうってつけの場となっている。


 その為女の座っている隣のベンチでは遊び疲れたかのように少年が陽光にあたって気持ち良さそうに座ったまま昼寝をしていた、その後から来たのか猫が少年の膝に乗って日向を楽しむように目を細めて佇んでいた。


 差し込む陽光の色彩と相まって見る者の心をほのかに暖めるような、そんな光景の隣で女はほのぼのとした空気などとは果てしなく縁遠いであろう暗い顔をして一人でベンチに座り込んでいた。


「ハァ……何故私はこうなんでしょう……」


 上半身には何故か腰の辺りで断ち切られた着物を、腰には刀の鞘だけを携え下半身にはそれとはまったく合わない洋服を纏い髪形はあまり揃っていない短髪で何とはなしに静けさを連想させるような雰囲気の女は幸せそうな笑みを見せれば沢山の人間が見惚れる事が確実なほど美しい顔をしていた。


 だが、女はそんな笑みは自分には存在しないとばかりにひたすら暗い顔でたまに溜息をついている。


「あぁ、人は助けられない、あの鎧武者の正体は掴めない、それにあんな事を……私はどうしてこう……」


 まるでこの世の終わりでも前にしたような暗い表情を一向に崩す気配は無く、むしろ自分自身を追い詰めるようにそれはどんどん深まっていった。


 その場の雰囲気とは対照的な表情、それを慰めるかのように陽の光は彼女の体を温めていたが彼女はむしろそれを拒むように懐から扇を取り出すと自分の顔にかかる光を遮っている。


---不思議ですね。こんなに暖かくて落ち着く陽光なのに、今の私には辛い……


 陽光を受け入れずに遮った自嘲から女は小さな笑みを浮かべていた。それは美しかったがとても暗く、傍から見ていても女の心が苦しんでいる事がよくわかる笑みだった。


「こんな調子で、私の願いは……叶うのでしょうか……ああ、こんな顔ニルには見せられない」


 陽光すら拒んでしまった女の雰囲気はまた一層暗くなり、そのまま底なし沼に嵌ったかのようにどんどんと沈み込んでしまうかと思われた。



 だが、そうはならなかった。


「僕個人の感想だけど、そういう顔は似合わないと思うなー。いかにも幸せって感じの笑顔の方がすっごく似合うと思うよ? ね? お、ね、え、さ、ん?」


 言葉が届いたのだ、妙にふざけた調子の少年の声が。


 自分に声をかけた少年に女は目をやった。瞳には暗い雰囲気を持たせたままだったが、どこか他人をきちんと見ようという意図を感じられる目だ。その姿は彼女の生来の性格を窺わせている。


 そういう目を向けられた少年は歳は10代の前半、黒い髪にあまり高くない背をしたわりと普通そうな雰囲気の少年だ。どうやらベンチで昼寝をしていた少年と同一人物らしく、ズボンの膝の辺りに猫の毛が付いていた。


 その姿は温厚で明るい性格の普通の少年のように見える、だが、女にはどうしても少年が『普通の少年』とは思えなかった。


 一つ目は、彼女はその少年の顔をどこかで見た事がある、という事。二つ目は、第三者から見てもすぐにわかるだろう。首に、痣があるのだ。しかも手のような形をした痣が。明らかに首を絞められた痕だった。


 女の視線が自らの首に行った事に気づいたのか少年は首に手を当てると嬉しそうとも悲しそうとも取れる雰囲気と表情を浮かべて話した。


「ん? ああ、これ? ひっどいよねー、僕が朝起きておはようって言ったらいきなり首にさ、手を、ね……」


「ちょ、ちょっと待ってください。理解できないんですが」


 戸惑う女の声を聞いて一瞬悪戯っぽく笑みを浮かべた少年だったが、また嬉しそうとも悲しそうとも取れる雰囲気と表情で女へ説明する事なく話を続けた。


 悪戯っぽく、さらに妙な内容の話を相手が戸惑っているのを無視して語るその姿は彼の首を絞めたと思われる相手とも一致していたが、話の内容に注意が行っていた女はその『怪物』を知っているにも関わらず気が付かなかった。


「しょうがないから、エィストさんの首をぎゅって、ギュってしたんだ、えへへ、凄いプレイだよね。そしたら二人とも仲良く意識飛んじゃってそのま」


「もういいです!」


 先ほどの沈んでいくような暗い雰囲気はどこへ行ったのか、と感じさせるほどの力を込めた声で女が少年の言葉を静止した。少年の話の中に聞き覚えのある名前を聞いたような気がしていたようだが、それも話の内容の性で吹き飛んでいた。


 そしてその言葉を聴いた少年はそれを聞くや否や満足げに微笑んだ。


「そうそう、そういう感じ! そういう感じから笑顔になってくれれば素敵じゃないかなって思ったんだけど……あ、今の話が嘘か本当かは教えてあげなーい」


 少年はどうやら女を元気にさせようとあえてそんな話題を振ったらしい、それに気づいた女は自分が発していた暗い雰囲気が一瞬で消え去った事に気づいて苦笑していたが、なんとなく怒っているようでもあった。


 当然だ、この『世界』においても常識を持つ者ならその話の内容はあまりにも奇妙なのだから。そのような話を聞かされれば当然怒るのである。


 それを見た少年は急に慌て出し、瞳には涙を浮かべて女に謝罪を始めた。


「お、怒ってます、か? 僕は貴方がげ、元気になってくれたらな、て、思っ、ご、ごめ、ん、なさ」


 最後の言葉はもはや声をあげて泣き出す寸前のように嗚咽を堪え、謝り終わるとついにボロボロと泣き出した。その涙は他の人間がすればわざとらしさを感じさせる物だったが、少年の態度からはそれすら見られない。


 本気で泣いている事に気づいた女はバツが悪そうな表情をして少年の頭に手を置くとゆっくりと撫でて少年の顔を覗きこんで微笑んだ。


「怒ってませんよ、大丈夫、私は笑ってます。あなたのおかげですね。ほら、笑ってるでしょう?」


 その微笑を見た少年は頭を撫でられたまま女のもう片方の手を両手で取ると弱い力で握って小さく頷いた。何度も、何度も。




 少年が泣き止むのを確認すると女は撫でていた手を頭から離し、それを見た少年もまた握っていた手を離した。


「恥ずかしい所を見せちゃいました……やっぱり女の人に怒られるのは辛いなぁ」


 少年が微笑んでそう言うのを聞いた女は改めて首を傾げた。やはり、顔といい性格といい、どこかで見た気がしていたのだ。目の前の少年と同じような物を、知っている気がする。


 しばらく少年の顔をじっと見つめて思い出そうとしていた女だったが、少年がなんとなく恥ずかしそうに顔を赤くしているのを見て取ると一言謝り慌てて顔を逸らした。


「えっと、僕の顔がどうかしたの?」


 顔を逸らした女を不思議そうに若干赤みのさした顔で見ていた少年だったが、数秒すると何かを理解した風になっていた。先ほどよりもずっと、悪戯っぽい笑顔を混ぜて。


「もしかして、僕の顔に何か付いてる? 僕の顔に傷でもあった? 痣は首にあるね。じゃあ……『僕の顔、どこかで見た事が有る』、これじゃないかな?」


 その決定的な一言を聞いた女は驚愕して少年の顔をさっと見た。そこにはやはりどこかで見たような顔があったが、女はそのこちらを見透かしたような言葉でその顔とよく似た顔をした存在に思い至っていた。


 そして先ほどの話の中に会った事のある『怪物』の名前があった事を思い出して、目を見開き、緊張感をその場に張り巡らせた。


「じゃあ、あなたは……エィストさんですか?」


 その言葉に満足したような笑みを浮かべた少年は楽しそうに頷いた。


「半分正解! 惜しい!」


「半分、いや半分でも正解……じゃあ私は……エィストさんの頭を撫でたんですか……」


「あー……うーん、エィストさんが可哀想だけど大丈夫、僕はエィストさんじゃないから。半分以上そうなのかもしれないけど、僕は彼本人じゃ、無い」


 少し落ち込んだ雰囲気の女を慰めるように肩に手を置いて言い聞かせるように自分があの『怪物』で無い事を主張する少年を女は見て、その言葉に嘘が無い事を確信すると安心したように微笑んだ。それでもまだ若干の緊張感を漂わせていたが。


「うわー……嫌われてるんだなぁ、エィストさん。段々本当に可哀想になってきた」


「い、いえ。彼の名誉の為に言っておきますが、嫌というわけじゃないんですよ……私はあの人が苦手なんです。なんていうか、その」


「その?」


「近くに居るとゾワゾワと、その、背筋が凍るような感じと嫌な気配が」


 言いにくそうに告げられたその言葉が余程おかしかったのか、それとも女の言いにくそうな表情が面白かったのか、少年は女に背を向けて吹き出すように笑い出した。


 その姿を見て女は本当に目の前の少年がエィストという名前の怪物ではない事を確信したのか、先ほどから若干見せていた緊張した雰囲気を解くと小さく息を漏らしていた。


「それは貴方の性じゃないと思うなぁ、エィストさんのちょっとした悪戯だよ? 多分だけど」


 クスクスと笑いながらも告げられたその言葉に女は納得したような顔になった。両者共に『怪物』の性格を理解しているのか、「あの人なら間違いなくやる」という内容を頭の中に浮かべている。


 その時ニルと駿我を観ていたエィストと呼ばれる怪物が何故だか傷ついたような落ち込んだ顔になっていたがそれに気づくものは皆無だった、その場に誰も居ないのだから当然である。




「さて、僕がエィストっていう名前の『怪物』とは無関係……ではなくても別人だって事はわかってもらえたんだよね?」


 ひとしきり笑った少年は確認するように女に話しかけた、そして女はそれを聞いて微笑みつつ頷いていた。既に女は少年を受け入れていたのか、なんとなく穏やかな雰囲気を浮かべている。


「そっか! それはよかったよ。じゃあ、お互い名前を名乗らない?」


「名前?」


「そ、名前。僕にとっても貴方にとっても名前は教えあった方がいいと思うな。だって何時までも貴方じゃ……仲良くなれないでしょう?」


 少年の笑顔と共に送り出された言葉を受け取った女は怪訝そうにしていたが、少年の最後の言葉で理解したのかその顔を止めて少年に向かって頷いた。とても嬉しそうに、友人が増える事を祝福するような表情で。


「僕は恭助。エィストさんとは無関係……ではないんだけど、別人かな」


「私は奇矯です。ええ、あなたがエィストさんとは別人である事は理解しました」


「奇矯……」


 その名前を聞いた恭助は戸惑うような、困ったような顔をしていた。奇矯というのは「普通の人とは違う言動」という意味だ。その名前から予想できる名前の由来は恭助にとっては一つしかなかった。


 その表情に気づいたのか奇矯もまた戸惑ったような顔をした、何故名前を聞いただけで漢字までわかったのかが一瞬分からなかったからだが、すぐにそれを「エィストの関係者なら当然の事」として納得すると小さく笑って恭助の頬に手を置いた。


「気にしないでくださいね、私の名前は奇矯です。それのみです、何故そんな名前が付いたかなどというのは気にする事じゃないですよ」


 恭助は少しだけ不満そうにしたが、奇矯がその名前を気に入っている事を見て取って、やめた。


「そうだね、人の名前に一々ケチつけるなんて僕らしくなかったよ。うん、二度といわない」


「そうしてください。別に怒ったりはしませんけど、ね」


「あはは、僕の名前は普通でよかった」


「実の所この『世界』だとそちらの名前の方が浮いてますけどね」


 お互いの外見の差などまったく気にせずニヤリと笑いあう二人。


「……僕たち凄く仲良くなれそうじゃない? まあ僕には一番の家族がいるから友達のあなたは二番だけどね」


「……ええ、とても仲良くなれそうです。まあ私には一番の親友がいますからあなたは二番ですけど」


 そういうと、二人は笑い出しつつも楽しげに語り合う。多種多様な内容の雑談を、延々と延々と続け始めるのだ、これから仲良くなる相手の事をよく知ろうとするように。



 それから数十分後、二人の考えは一致していた為に続いていた会話が既に最初の内容に戻りかかっていた時、唐突に恭助が話すのを止めて彼女の居る方向の奥を凝視した。まるでそこに何かが居るようだったが奇矯の目には何も見えない、ただ歩道が続いているだけだ。


 何かを見つめている恭助の雰囲気はとても人間とは思えない空気を纏っていて、何よりも『怪物』のような雰囲気が漂っていた。それはエィストと呼ばれる存在の放つ雰囲気によく似ていたが少し違う。それを感じて奇矯は恭助がエィストではない事を実感していた。


「……何かありましたか?」


「あれは……なるほどね、エィストさんはそういう……あ、奇矯さん何?」


 言葉が聞こえていないかのように、何かを知ろうとするように歩道の奥を凝視する恭助を心配そうに見ていた奇矯の視線に気づいたのか、先ほどまでの雰囲気を完全に四散させてにこやかに笑っていた。


 だが、語り合う時間は終わりだと判断したのかその笑みのまま立ち上がると一度伸びをして腕を出した。


「この腕は?」


「握手だよ、友情の握手、仲良くなれたお祝いの」


 その言葉に納得したのか奇矯もまた腕を出す、そしてお互いは握手をして腕を離すと恭助は凝視していた方とは逆方向に歩いていった。


 だが唐突にその足を止めるとどこかから何かを受信したようにどこか別の場所を見ているような目になったかと思うとすぐにそれは消えてなくなり、奇矯の方を振り返った。


 なんとなく心配そうな奇矯の表情を見て取った恭助は苦笑する。


「心配要らないよ。エィストさんから今伝言が届いたんだ、『君の命に代えても良い願いが叶うように動こう』だってさ、僕としては命に代えて欲しくないんだけどね、友達だし」


 そんな言葉を残して彼は再び奇矯に背を向けて歩いていった。まるで、これから起こる事へ向かうように。



「それでも」


 そして去った恭助の背を眺めつつ、奇矯は呟く、腰に携えた刀の鞘を握り締め、歯を食いしばって自らを呪うように。


「それでも、私はそうしなくてはならないんです。そうならなくては、いけないんです」


---ああ、新しい友達ができてしまった。でも、でも……


---私は、死ななければならない……

さあさあさあ1話ですよー。

今回の話、どうにも文章が書きにくかったのでバッカーノ!1931を読みながら書きました。するとどうでしょう! すらすら文字が書ける!

それにしても変な奴ばっかりです。急に泣き出す、急に笑い出す、急に鉄棒投げる、急に明るくなる等々。

しかし、モチベはあっても表現力が追いついてこなくて、良い言い回しがまったく浮かばない。

そして、この際なのでぶっちゃけます、恥ずかしい話、作中しつこく書いている「怪物の力が云々」のくだりは少なくとも『今回は』多分ほとんど表現できません。ストーリーに絡ませるには私の技量が足りなくて、多分どういう事ができるのかも表現するのは難しいかな……登場人物の設定を先に作ってからストーリーを群像劇にしよう!とか考えたばっかりに……一応群像劇向けに登場人物の性格を若干修正しましたが……難しい

2012/3/05/0:31

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