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第1話 告白、と見せかけて

朝の昇降口は、登校してきた生徒たちの活気で騒がしい。

あたしは、この体を包み込むような喧騒が好きだ。

「ハル、速すぎよ……」

後ろから息を切らした親友の瑠璃乃(るりの)が追いかけてきた。額に汗の筋が流れている。

「ええ? 今日はちょっと遅めに歩いたつもりだったんだけど」

「あんたの遅めはもう走ってるのよ。自覚ないの?」

呆れたようにため息をつく瑠璃乃。

うーん、なんだかあたしの感覚って人とズレてるらしくて……まあ、いっか。

気にしないことにして、上履きを取ろうと、下駄箱の中に手を突っ込む。

いつもの上履きの、ちょっとかたい布の感触……と思ったら、何かカサッとしたものが指に当たった。

「ん?」

これ、紙?

手を伸ばして取り出してみる。

やっぱり、紙だ。小さく四つに折り畳まれてる。

あたしは急に胸がドキドキし始めた。

だって、だってこのシチュエーションって。

まさかの、

──告白っ!?

あたしは今更震えてきた手で、紙をゆっくりと開く。

現れた、流れるような滑らかな文字を目に入れた瞬間、息を呑んだ。

『この手紙を受け取ったら、今日の放課後、旧校舎の四階の左から四番目の教室に来てください』

「こ……これって……ほんとに……」

告白のテンプレじゃんっ!

「あ……あたしにもとうとう春がっ!?」

あたしは思わず叫ぶ。周りの生徒たちが一斉にこっちを見て、あたしは慌てて首をすくめる。

「うるさいわね……何があったの?」

瑠璃乃が眉をひそめて覗き込んでくる。

「見てよ、これっ!」

しばらく文面を見つめていた瑠璃乃は、興味なさげに視線を上げた。

「大袈裟すぎじゃない?」

「お、大袈裟って! あたしたちJCだよ? 青春真っ只中にいるんだよ!? 楽しもうよ! 瑠璃乃だって青春小説とか恋愛小説読んでるじゃん!」

瑠璃乃はツンとあごをそらして上を向く。

「それはあくまで小説の中だからよ。現実に私がすることには興味ないわ。私と小説の登場人物は別」

「ええええ〜」

あたしはガックリと項垂れる。

冷めすぎだよ……。あたしたち中1なのに……。

「でも」

瑠璃乃は首をこっちに向けてくれる。他の人にはわかんないかもしれないけど、あたしは見つけられる。その目の奥の優しい光を。

「応援はしてるわよ。ハルは告白されることが嬉しいんでしょう? ハルが喜ぶなら、私は背中を押すわ」

彼女の口の端が、ちょこっと上がった。

あたしの胸の中にじわぁっとあったかいものが広がっていく。

「る〜り〜のぉ〜!」

あたしは瑠璃乃に飛びついた。

「ちょっ、やめっ、重いっ」

「重いって、あたしそんなに重くないと思うんだけど」

瑠璃乃は冷たそうに見えて、実はすっごく優しくて、友達思いなんだ。

あたし、瑠璃乃のことが心からほんっとに大好き。

──それにしても、告白かぁ。

青春しようよなんて言ったけど、実はあたし、人を恋愛の意味で好きになったことがない。ましてや告白なんて、ゼロ回だ。ゼロ。みんななんだかんだ言って一回くらいはされてるのに。あたしは男友達は多いのに、お前はチンパンジーだから恋愛対象じゃないって言われるんだ。女の子に失礼だよね?

だからほんと初めての経験で、余計にドッキドキだ。


その日、あたしの頭の中を、ずっとあの手紙のことが支配していた。

授業中ぼーっとしてて、先生に笑われるし。

サッカー部では、シュート外すし。

「なんか今日、明里あけり調子悪くないか?」

サッカー部の爽やかな二年の速水(はやみ)先輩に言われてしまった。

そうだよね、自分で言うのもどうかと思うけど、あたしがシュートを外すのなんて滅多にないもん。

「いや……なんか告白の呼び出しらしき手紙もらったんですよね」

速水先輩は凍りついた。

「へ? 告白? へ、あ?」

しかもなんか青ざめて挙動不審だ。

「これから行ってくるんです!」

「お、おい、ちょっと待て!」

すいません先輩、今はちょっと待てません!

あたしは制服に着替えるべく校舎へ駆け出した。



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