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第18話 あたしの守護霊さん

「特殊?」

単に告白だと思って騙されて引っかかって呪いかけられただけの情けない馬鹿じゃないの?(考えたら悲しくなってきた)

久遠は一息置く。

「少し話がズレるが、カラスの怪異は最後ただのカラスに戻ったろ?」

「うん、そうだったね」

あの時は、怪異がいきなり普通のカラスに戻ったからびっくりしたんだ。

「正確に言えば、あの時出た黒い煙が怪異なんだ。中級怪異までは、怪異は『取り憑くもの』で、形は保っていない。形があって、意思を持つのは上級怪異だけ。怪異に取り憑かれた物や生き物は、怪異に変貌する」

あたしは心の中で取り憑かれたカラスに同情する。

「うえっ、怖っ……。怪異って人にも取り憑くの?」

「ああ。下級怪異は人には取り憑きづらいみたいだが、中級ならできるっちゃできる」

あたしは震え慄く。

それじゃあ、突然取り憑かれて怪異になっちゃいましたってこともあり得るってことじゃん……。

「だけどお前の場合、上級怪異が直接呪いをかけたって感じがした。呪いが弱められてるってのも合わせて、あくまで俺の勘でしかないけどな。結構、俺の勘って鋭いらしいから。正確なのは今調べが入ってるけど」

「……それって特殊なの?」

「ああ。特殊だ。上級怪異は滅多なことがない限り、自ら人を襲ったりしない。大体、手下みたいな下・中級怪異を生み出して、その辺のものに取り憑かせて襲わせるんだ。襲わせるも何も、適当に怪異をばら撒いて取り憑かせて、街が荒れるのを楽しんでるみたいなタチの悪いやつもいるけどな。多分さっきのカラスはそういうやつの怪異だ。

 まあとりあえず、上級怪異が自ら呪いをかけるような理由が、何かしらお前にはあったってことだ」

……自分が特殊なケースだってことはわかったけど。

あたしは何よりも、上級怪異に腹が立ってきた。

下級怪異のカラスだって、あんなに恐ろしかったんだ。人なんて簡単に殺せちゃうに違いない。

そんなのをばら撒いて、罪のない物や生き物を怪異にして、人をいっぱい虐殺して面白がるなんて。

最低だ。

お腹の底から、どろりとした気持ちが湧き上がってくる。

「ってことで、お前はめちゃめちゃ狙われてる可能性が高い。だから、守護霊をつける」

「ふぇ?」

声がひっくり返った。

「守護霊ぃ?」

「お前を常に見守ってくれる霊だ。開発したのは藤山さんな」

な、なんか撫子さん色々すごい。それはいいとして。

「どんな感じなの?」

「まあ、マスコットキャラみたいな見た目だな。魔法少女のパートナーのふわふわの動物みたいなやつとかいるだろ。そんな感じ。あんなキラキラの派手じゃないけどな。主人のイメージに似た姿になるんだ」

へえ……そんなのつけてもらえるんだ!

あたしはワクワクしてきた。

「まあ……あたしみたいにキュートな女の子なら、守護霊はうさぎとかリスみたいな可愛い動物でしょう!」

久遠はギョッとした顔になる。

「お前がうさぎ? リス?」

「うん」

「絶対にない。そんなことがあったら世界が終わる」

真顔で言われると傷つく。女子に失礼すぎる。

キュートじゃないのはわかってるけど、そこまであたしってやばいかなあ……。

凹んでいると、久遠が何かをあたしに差し出した。

「これを握れ。守護霊創造球だ」

手のひらサイズの透明な球たま。

言われるがままに、あたしは握る。

すると、球が光を放った。

あたしの拳ごと、白い光が包み込む。

何かが体の中から抜けていくような感覚。

光はだんだん弱くなり、ついにおさまった。

「もう放していいぞ」

久遠に言われて、恐る恐る握っていた手を開いた。

ボムンッ!!

白い煙が上がって、あたしは飛び上がる。

そして、あたしの手のひらに乗っていたのは、球ではなく。

球と同じくらいのサイズの、ゆるい顔の、黄色い、虎。

「とっ……とらぁ……?」

あたしは目がまんまるになる。

「あ、あたしのイメージって、虎なのぉ!?」

叫ぶ。

いくらなんでも、虎はなくない!? I’m girlあたし女子!!(なはず)

「ふは……あはははっ!」

横を見ると、久遠がお腹を抱えて、身をよじって爆笑していた。

目に涙まで浮かんでるし。

「たっ、確かに……。ハルは虎かもな……。藤山さんの守護霊創造球、すごいな……ふはっ……」

久遠の珍しい姿は見れたものの、面白くてよかったですねとは言えない。

あたしの手のひらの上でふんぞり返った虎(ミニサイズ・顔がゆるい)は顔をしかめて言う。

「せっかく我が出てきてやったと言うのに! 虎は百獣の王と言われるライオンよりも強い、真の王の動物! それを笑い冒涜するとは何事だ!」

あたしと久遠はきょとんとする。

反応は二種類。

あたしは虎を睨みつける。

「あたしあんたの主人なんじゃないの!?」

「それはあくまで表面上の事実。我は仕方なく出てきてやったにすぎない!」

久遠は再び爆笑モードに。

「おかしいな……守護霊って普通礼儀正しいんだけどな……なんでこんな厨二病っぽい威張ってるやつが……ウケる……」

虎は偉そうに言った。

「我に名前をつけろ! そこで契約が正式に成立するのだ! さあ、早く! 我に一等素晴らしい名前を!」

「え……虎之助」

「ダメだ」

「虎二郎」

「ダメだ」

「しましまタイガー」

「ダメだ」

「ふんぞりかえり虎太郎」

「ダメに決まっているだろう! 真面目に考えろ!」

叱られて、あたしは腕を組んで考え込む。

名前って、あんまりつけたことがないからわかんないんだよな。

──虎は真の王の動物!

不意にさっきの虎のセリフが蘇る。

よし、これだったらいいんじゃない!?

「キングは?」

あたしがその名前を口にすると──、虎は重々しく頷いた。

「ふむ。まあ、それでもいいだろう。寛大な我は妥協してやるぞ」

妥協と言いつつも、随分気に入っていらっしゃるようで、虎ならぬキングは口元をにやけさせている。

「……まあ、いざという時はその虎がお前を守ってくれるぞ」

必死で笑いを堪えている様子で久遠が言う。

「こいつがぁ?」

「こいつとは失礼な! 我は真の王だぞ!」

「……あ、やべ。俺学校行かないと」

久遠は時計を見て、慌てたようにつぶやいた。

「あ、そっか……」

久遠は怪異警察だけど、もちろん中学生。

あたしはもうなんなのかもわからないけど……。

「ってか、久遠昨日学校抜け出したよね? あたしはいないことになってるからまだしも……大丈夫なの?」

久遠は諦めたようなため息をついた。

「大目玉確定だな。めっちゃ電話鳴ってたけど昨日は色々テンパってて出てる余裕なかった」

「……なんか、ごめん」

「いや、いい。しょうがないことだからな」

考えてみれば、あたしは学校っていけるのかな……。

気分が沈む。

あたしはそのまま、キングと共に、部屋に戻って学校の支度をする久遠を見送った。


あたしはキングを部屋に連れて帰る羽目になった。

部屋に入ると、カスミン先輩はもう高校に行っていていなかった。

ひとりの部屋はがらんとしていて、寂しい。

あたしはベッドに倒れ込む。

……学校。

瑠璃乃。友達になったみんな。あたしの机。頑張って下手くそな似顔絵を描いた自己紹介カード。

あたしからは、それが全部消えちゃった……。

「あたし、ひとりぼっちかぁ……」

ぽつりとつぶやく。

「戯言を言うでないぞ。我の存在を忘れるでない!」

「あっ……」

あたしはキングを頭の下敷きにしていた。

モゾモゾ動いてやっと這い出てきたキングは警告色のヨレヨレの毛玉となっている。

「出てきてやったばっかりなのにいきなり死ぬかと思ったぞ!」

「いや守護霊なのに避けられないそっちが悪い!」

「なんだと!」

あたしたちの怒鳴り合いが部屋に響く。

充満していた暗い空気は薄まって、あたしは少し、救われた気分になった。

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