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第17話 朝の寮

あたしが目を覚ますと、目の前にうふふと笑うカスミン先輩の顔。

「うわぁっ!? 先輩っ!」

「ふふ、びっくりしすぎ。あのさ、ハルちゃん、寝相やばいね」

「へ?」

あたふたと自分のいる場所を確かめると。

反対向きになってるし、体は半分ベッドからずり落ちてるし!

「わっ! み、見ないでくださいカスミン先輩!」

「大丈夫だよ、わたしも寝相悪いから」

絶対悪くないと思います、カスミン先輩みたいな上品でお淑やかで優しくて可愛い女の子は。

その瞬間、あたしのお腹の虫が自己主張を始める。

「ハルちゃん、すごく食いしん坊だね?」

「あ……はい……」

朝は毎日死ぬほどお腹が減っている。

色々恥ずかしいやらなんやらで、あたしは顔を赤くしながらも、カスミン先輩と食堂に向かう。


「いただきます!」

寮のみんなでパチンと手を合わせる。

朝ごはんのメニューは、ご飯に油揚げの味噌汁、秋刀魚の塩焼きにほうれん草のおひたし、里芋の煮っ転がし。そして麦茶。

典型的な日本の朝食だけど、実際ははこんな豪華なご飯が忙しい朝に食べられるのって珍しい。

「幸せそうだねぇ」と隣でカスミン先輩が出汁のきいた味噌汁をすすりながら笑う。

「はい!」

感動しながら秋刀魚を味わっていると、後ろから「おい」と声をかけられた。

「ん?」

振り向くと、もう食べ終わったらしく、空の食器の乗ったトレイを手に立つ久遠。

「何?」

「飯食い終わったら、一階のミーティングルームに来い。話したいことがあるから」

それだけ言うと、久遠は食器を片付けにいってしまった。

「ハルちゃん、久遠くんと知り合いなんだ?」

「クラスメイトなんで。あと昨日怪異と一緒に戦いました」

「──? ハルちゃんって怪異警察なの?」

意外な反応。

目を見開いて、カランと箸を取り落としたカスミン先輩。転がる箸。

「え? 違いますよ。怪異の存在昨日初めて知りましたし」

「じゃあどうやって戦ったの?」

「……蹴ったり、なんだり、です」

すごくはちゃめちゃな女子だと思われそうで恥ずかしかったけど、カスミン先輩はそっちより別のことが気になるみたいだ。

「本当に?」

「ほんとです」

しばらく硬直したあと、カスミン先輩は気を取り直したように箸を持ち直す。

「……あとで撫子さんに事情を聞いてみよう」

「撫子さん?」

「ううん、なんでもない。ハルちゃん、あそこにおかわりあるよ?」

「やったぁ!」

あたしは飛び跳ねて、ご飯のおかわりをもらいに席を立つ。

そこで初めて気づいた。みんなの視線があたしに集まってる。

「ねぇ、新しい子ってあの子?」「そうらしいよ、カスミンの部屋だって」「割と可愛いじゃん」「元気系女子だな」「噂なんだけどさー、昨日影宮さんと怪異を撃退したらしいよ」「マジ? 普通に一般人でしょ? そんなことありえる?」「俺も知らんわ」

囁かれる言葉の数々。

そっか、転校生みたいな感じで、みんなも興味しんしんなんだろうな。

早く久遠やカスミン先輩以外の人とも仲良くなれるといいな。

そんなことを考えながら、あたしはお茶碗にご飯を山になるまでよそい、口いっぱいに頬張った。美味しい。


「久遠、来たよー」

初めて入ったミーティングルームは広くて、色とりどりの可愛い椅子やクッションが置いてあって華やかだ。窓が大きいせいか、部屋全体も日の光で明るい。部屋の端には、でっかいテレビも置いてある。

久遠は端の方の席に座っていた。横に座った5歳くらいの小さい男の子と話して、笑っている。

あたしはなんだか意外だった。久遠は教室でもいつもひとりだったのに。それも仲間はずれにされてるとかじゃなくて、自分からひとりでいようとしてる感じだったから。

だけど男の子はすごく楽しそうだ。

久遠って、実は寮ではすごくいいお兄ちゃんなのかもしれない。

教室じゃわかんない性格ってあるんだなあ。

あたしは久遠の正面の席に腰掛ける。

「あ、ハル、来たか。ごめんなショウ、俺これから話があるから、違うことして遊んでてくれるか」

「えーっ、もっとくお兄と遊びたかったぁ」

口を尖らせる、ショウという名前らしい男の子。

めっちゃ慕われてるんだなぁ。

「俺はくお兄じゃなくて、久遠だっつうの」

訂正しながらも、その目は優しい。

あたしに向き直った久遠は笑みを消し、真面目な顔になる。

「お前も色々気になってることあるだろ。それで俺も色々言いたいことがある」

「あー、そう! 聞きたいこといっぱいある! 怪異警察がどうやって戦うのかはわかったけど、それ以外はさっぱり」

「だろうな」と呟いて、久遠は人差し指を立てる。

「まず、この寮の話からだ。どんな子供が過ごしているかは藤山さんから聞いたと思うが、ここはいわゆるそういう子供の “安全地帯“ なんだ」

「安全地帯?」

「詳しく言うと、この辺には怪異に嗅ぎつけられないように包囲網が張ってある。そして、寮には中級以上の怪異警察が2、3人、週交代で常駐してる。スタッフの梨本さんや井手上いでうえさんだって元怪異警察だ。さっきの藤山さんだって、怪異のことにすごく詳しくて、怪異を倒したり弱めたりする薬の研究をしてる」

ええ……!

あの超美人の撫子さんが!

「す、すごい……」

「あと、この寮の小中学生はここから一番近い朝比奈中や朝比奈小に通うことになる。一度狙われた子供は、まだ怪異に目をつけられてる可能性が高い。でも流石に学校までは見張れないから、その二つの学校は怪異の被害に遭う可能性が必然的に高くなってしまうんだ。一般生徒には悪いが」

難しい話。

あたしの頭はパンク寸前だ。

でも、あ、とひとつ思いついたことがあった。

「だから、あたしは怪異に狙われたってこと?」

あたしを狙う理由が全然わかんないけど。

「そうだな。それもあるかもしれない。だけどお前の場合は特殊なんだ」


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