第9話 怪異警察
「怪異警察ぅ?」
声が裏返ってしまった。
呪いがどうだとか怪異がどうだとか、それだけでも訳わかんないのに、影宮が、怪異警察?
「えっと……そういう組織があるの?」
「ああ。怪異から一般人を守る役割を担ってる。で、俺もその一員だ。下っ端だけどな」
下っ端なんだ……強そうなのに。でも、体が弱いっぽいのがダメージなのかな。
「じゃあ、さっきの虫眼鏡も怪異警察の道具?」
「うん、俺は普通に虫眼鏡って呼んでるけど、正式名称は呪視じゅし鏡きょうだ」
おお……なんか強そうな名前。
「怪異警察ってどんなふーに戦うの? あとどうやってなるの? 影宮は何で怪異警察になったの? ってか何であたしをここに連れてきたの? ここどこ?」
続けさまのあたしの質問に、影宮はちょっと嫌そうな顔をする。
しつこいかもしれないけど、気になるんだもん。
「それは……」
渋々といった感じで影宮が口を開いた、その時。
ビビビビビビビビビ!!!
影宮のポケットから大音量の、耳をつんざくブザーみたいな音がした。
耳のいいあたしは鼓膜が割れそうで、パンっと耳を両手で塞ぐ。
「やべっ」
影宮は慌てた様子でスマホを取り出した。
「下級怪異警察・影宮久遠へ告グ。秋桐町3丁目ニテ怪異ガ発生。今スグ出動セヨ」
機械音声みたいな無機質な声が、大声でがなりたてる。
「チクショ……ッ」
彼は悔しそうに舌打ちした。
「俺は任務に行ってくる。お前はここで待ってろ」
「えっ? ……やだよそんなの。あたしも行く!」
だって質問したかったことが全部わかるかもしれないじゃん。
助けてもらって何もしないでいるのもやだし。
振り向いた影宮は、鬼みたいな険しい表情だった。
「ダメだ。一般人は関わらせられない」
「行く。なんだかんだいって色々助けてもらって説明してもらってるのに悪いもん」
「そういう問題じゃない」
「それだけじゃないよ。だって影宮さ……」
あたしは影宮の瞳を探るように見つめる。
「体力、限界でしょ?」
影宮は喉を詰まらせた。
「そんなんで怪異と戦って大丈夫なの?」
彼はぐしゃりと顔をしかめる。
迷うように自分の手のひらを見つめたあと……、いきなり後ろへ飛び退いて、両手をあたしに向かって突き出した。
目の前の一帯が、白く光り輝く。
あたしがあっけに取られているうちに、影宮は背を向けて歩き出した。
「ちょっ! 待ってよっ!」
追いかけようとするけれど、途中でボヨン、と何かにぶつかって跳ね返された。
ゼリーみたいな、スライムみたいな質感。
「何だこれっ」
何回やってみても、あたしを拒絶するかのように跳ね返される。
透明な壁があるみたいだ。
すぐそばにいるはずの影宮に手が届かない。
影宮の声が、まるで水の中にいるみたいにくぐもって聞こえる。
「結界張っといたから。出ようとしても無駄だぜ。俺が帰ってくるまで大人しく待ってろ」
「そんなの……っ!」
あたしの叫びが、影宮に届いたのかどうかもわからない。
影宮は今度こそ振り向かなかった。
彼が進むたびにその背中はどんどん離れて小さくなって、……見えなくなってしまった。




