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第35話『うん、それでも俺は悪くない』

「――お待たせいたしました」


 先ほどの受付嬢が再び訪れ、座っていた俺たちは目線を上げる。


「そのままで結構です」

「それで、お話とは?」

「ええ。被害状況についてです」

「被害ですか?」


 街中は暴徒と化した人は居なかったと聞いたけど、移動や避難の際にケガ人が出てしまったのだろうか。


「望遠鏡で覗いていただけなので正確な被害は把握できていないのですが、アレンさんが放った攻撃の先についての報告です」

「え」

「本来であれば、街の被害を未然に防いでくれた功績に目をつむるところであり、責任追及するものではありません」

「お咎めなしなら助かります」

「それは当然です。間違いなくアレンさんがいらっしゃらなければ、今頃街は壊滅状態となり多大なる被害を被りだけではなく多数の犠牲者が出ていましたので」


 まあ、さすがに反省しなくちゃいけないことはわかっている。

 自分の力を把握していなかった結果なのだから。


「ですが、これから先も冒険者として活動していくのでしたら力の制御は行ってもらいたいです」

「はい……」

「任命されて日が浅いようですので、今回の件は致し方がないと思います。ですが、モンスターと一緒に人も攻撃が当たったのならひとたまりもありませんので」


 本当にその通りすぎて、首を縦に振ることしかできない。


「できたら制限以前に戦わないでもらえると助かるのが本音ではあります。ですが、お金を稼ぐためには仕方ない面が多いのも理解できています」

「自分でも自分の力を把握しきれていないので、少しずつ慣らしていきます」

「それでお願いします。で、ですが。確認を行ったところ、攻撃を行った延長線上の木々が全て斬り倒されていました」

「えぇ……」

「捨て置くのはもったいないので、資材にする予定を立てるので安心してください」

「何から何までありがとうございます」


 ふぅ、ここから怒られると思ったけど一安心だ。


「そして、報告の中にはこれから先のことについても含まれています」

「はい」

「私たちギルドは、アレンさん含むパーティメンバーは貴重な戦力であることを認識し、求められる条件に従い存在を隠蔽することを誓います。捜査が入るのなら協力し、必要とあれば任務を優先して提示します」

「おぉ」

「これは、身分を隠す必要にある状況で名乗り出ていただいただけでなく、絶望を約束された状況を覆し街を救ってくれたことに対する恩返しです」

「俺は俺にできる最善を尽くしただけです」

「事情はあるのでしょうが、さすが聖騎士様に成ることができるお方ですね」

「ありがとうございます」


 一礼してくれた受付嬢へ、俺も礼を返す。


「この条件でよければですが、これから先も街に滞在していただきたく思います」

「それに関しては、ご希望通りにするつもりです。ですが、俺の存在というか、聖騎士であることが広まるようなことがあればすぐに街を出て行きます」

「かしこまりました。細心の注意を払わせていただきます」

「よろしくお願いします」


 ここまで話を終え、受付嬢は「こほんっ」と呼吸を整えた?


「さて、ここからは報告にあった内容について問わせていただきます」

「はい?」

「街で活動している冒険者や通行人から報告があったのですが。森の中に、『巨大な穴が開いている』という話が複数来ております」

「……」


 ……おっと。

 とっても身に覚えのある話が始まったな。


「本来であれば、冒険者とギルド職員による調査班を編成し現場に向かうような案件です。ですが、私には心当たりがある人が居ましたので」

「……はい、たぶん俺がやりました」

「ですよね」

「ちなみに白状すると、森の中へ進んでいくと別のやつがあったりします」

「なるほど」

「実は、そのときに大型個体と単身で戦闘していたフローラを助けました」


 フローラへ目線を向けると、証言してくれるように『こくり』と頷いてくれた。


「通行の邪魔になったり、他の冒険者が困惑する原因を作ってしまったことは申し訳ないです」

「今回の一件で言いたいのは、反省していただくというより力を発揮した結果を把握してもらいたいと思いまして」

「はい、そうですね」


 まあそうだよな。

 俺は悪いことをしたつもりは一切なくても、結果として地形を変えてしまったのなら迷惑を掛けていることに変わりない。


 でもさぁ……俺も自分の力に驚いているし、悪くはないよね……?

 悪い悪くないの話をしていないことはわかるんだけどさ。


「じゃあ最後に」

「え、まだ何かある感じですか」

「これは幸いにもギルド職員が、偶然の偶然見てしまった光景の話です」

「怖い導入ですね」

「数日前、空へ飛んでいく白い光と黒い光を見たと」

「あー……」


 ものすごーく心当たりのある話ですね、それ。


「はい、それも俺です」

「やはりそうでしたか。正体と言いますか存在と言いますか、誰にも気付かれたくないのでしたら力の制御にはくれぐれもご注意を」

「ですよね……あのとき初めて力を使ったものでして。力の使い過ぎだったことは、反省、いや猛省しています」


 咄嗟にフローラを巻き込まず戦う方法を考えた結果とはいえ、今回の大型個体の群れへ使った攻撃で威力を把握した。

 もしもあの攻撃が人に当たっていたら、と考えると自分が聖騎士に成ったことを後悔する日になってしまうだろう。


「それでしたら、私からも」


 急に手を上げて切り出したのはセリナ。


「あの森には、目立たないとはいえ黒く燃えた後があったりもします」

「それは、どのような経緯があってですか?」

「魔法の練習、ということでアレンが木を燃やしました」

「え」

「なるほど……それは今後とも、あまりないようにお願いします」

「それ、俺が悪いの? たしかにやったのは俺だけど、促したのはセリナだろ?」

「でも制御できないものを扱う、ということはそれほど危険なことなのですよ」

「ええ、ああはい。そうですよね、以後気をつけます」


 なんだ、この空間は。

 まるで俺が説教される場になっているじゃないか。

 原因は俺だとしても――それでも俺は悪くない、と主張したい。


「私からは以上です」

「わかりました。では、これにて解散といたしましょう」


 やるせない気持ちを抱えたまま立ち上がる。


「これからも、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、いろいろとお願いします」


 俺たちは礼を交わし、外へ出た。

 そして解放された気分になった俺は、つい両手を上に伸ばして大きく深呼吸をする。


「――なんだか疲れた」

「主様、お背中を揉みましょうか!」

「こういうときは甘いものを食べに行くのがいいと思うの」

「そうね。今日はいろいろと気疲れしたでしょうから、後はゆっくり過ごしましょう」

「はぁ……なんだかなぁ」


 聖剣エクスカリバーであるメノウと契約を果たし、夢の聖騎士に成ることができたのはつい数日前。

 そこから魔剣デュランダルである幼馴染のセリナと再会したと思えば、役職を剥奪された上に王都を追放させられてしまった。

 今では冒険者として、人々が行き交う街の中を平然と歩いている。

 誰に振り返られるわけでも、憧れのまなざしを向けられることもなく。


 これはこれで悪くはないし、数年ぶりに再会したフローラの新事実は驚いたけど、だからといって何かが変わるわけでもなかった。

 そして、こうやってみんなと笑っている今の生活は本当にいいものだ。

 まだまだ冒険者としての生活も始まったばかり。


 明日からも、いつも通りにみんなと頑張っていこう。

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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