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第34話『泣きっ面に聖剣と魔剣は悲惨』

「――ご、ご苦労様でした」


 諸々の報告をするためにギルド本館へ戻った俺たちは、見事に受付嬢たちから距離をとられている。

 しかし言葉とは裏腹に顔は引きつっているし、数人ほどカウンターからひょっこり目を出す感じに怖がられてもいて。


 これじゃあまるで、俺が街を崩壊させるべく攻めてきた存在みたいじゃないか。


「一応、報告は以上です」

「かしこまりました。一部始終を双眼鏡で確認しておりましたが、まさかそこまでの数が押し寄せてきていたとは」

「でも情報共有は徹底されている様子で」

「ええまあ。あちらの者たちは大目に見てやってください。いろいろと今回が初めてなので」

「そういうあなたは唯一へ依然とされていますね」


 そんな空間の中、緊急討伐依頼発令の宣言を行い、今もこうして目の前で会話を進めてくれている受付嬢がたった1人だけ居る。

 さっきも周りの人が混乱していたが、扉を閉める判断をしてくれたりもしていた。


「私は別のところから配属され、つい最近ここで勤めさせていただいているんです。前の勤め先で聖騎士様のお力を目の当たりにしたことがありまして」

「なるほど」

「ですので、最初こそは聖騎士様と証明できなかったので半信半疑でした。でも、お力を確認でき、剣も確認できたのなら信じる以外ありません」

「理解いただきありがとうございます」


 なるほど、理解者が居たから諸々の説明を省いて物事を進めることができたのか。

 この人が居なかったら、今頃どうなっていたのか、もしかして攻め入られて初めて戦って認められていたのかもしれない。


 でも、あの数が街中でバラバラに暴れていたら間違いなく手遅れだった。

 どれだけ力を示して順番に倒すことができても、犠牲者は出てしまっていただろう。

 この人が居てくれて本当によかった。


「では、次にこちらからも報告があります」

「まさか街中で暴徒が?」

「いえ街中は嵐が過ぎ去ったように平和です。説得をしたところ、緊張の糸が一気に緩んだおかげでしょうか」

「それはよかった。では何を?」

「ご身分を確認できたからこその情報提示です。では、奥の方へ」


 案内されるがまま、初めて入る関係者立ち入り禁止区域に足を踏み入れる。

 俺を含み全員が物珍しそうに目線を上下左右に運びながら進むと、とある部屋に辿り着いた。


 絨毯は敷かれておらず、壁に絵が飾られている以外の他な何もない。

 何を目的とする部屋なのか理解できないが、部屋の中心にはあいつが縛られた状態で跪いている。


「お、お前たちはどうして!?」

「皆さまが捕らえていただきました、こちらの男性についてです」

「こんなやつらと同じ空間に居られ――」

「口を開かないでください。太ももに穴が開きますよ」

「ひぃ!」


 ただの脅しではないのだろう。

 頬に痣、破けた衣類から覗く痛々しい傷と出血跡から推測するに、彼は行いに対して相当な尋問などを受けたことがわかる。


「彼が騒ぎ出し、それで先ほどの騒ぎが起きたのです。魔の者と関りがあり、魔法を扱えるという事実を確認できておりましたので」

「なるほど」

「へへっ。もうすぐ街は壊滅する! 俺はそれまでの命だが、全員道連れだ!」


 急に大声を出させるものだから、俺たちは声を発せず、ほぼ何もない部屋の中に彼の声が響いた。


「こんなところで呑気に話をしている暇があるのかぁ? 今頃、街中に侵入した大型個体が大暴れしているぞ!?」

「そうですね。今頃、大型個体が街中で大暴れし、住人は絶望を前に叫びながら逃げ惑うしかできない」

「ああそうだ!」

「建物は瞬く間に破壊され、モンスターたちの雄叫びが街中に響き渡っているでしょうね」

「死ぬまでの残り少ない時間を恐怖に震えるんだな!」

「今頃? 今? 既に?」

「どれも同じだろう! 今……今? お、おい。なんで何も聞こえないんだ」


 受付嬢は、かなりいい性格をしている。

 過程と事実と結果、それら全てを把握しているにもかかわらず酷いもんだ。


 そして、何が皮肉でかわいそうかと言うと。

 彼が「何も聞こえないんだ」と言ってすぐに、平和を象徴するように小鳥たちのさえずりが窓の外で響き渡った。

 さすがに緊張感のある雰囲気でも、俺は笑いを堪えるのに必死にならざるおえない。


「お気付きになったご様子で。あなたがもたらすはずだった厄災は全て取り除かれ、今は誰も恐怖に怯えてなどいません」

「で、でもついさっきあんたらが忙しく走り回ったりしていただろう! 外で何か騒ぎ立てていたりもしたじゃないか!」

「ええ、それは事実です。ですが、今は何もありません。誰かが急いで移動する音は聞こえます?」

「――嘘だろ……」

「事実です」


 上げて落とす、というのがここまで綺麗に再現されたのを見たのは生まれて初めてだ。

 もっとも彼が勝手に上がっただけではなるが。


「さて、あなたにはお迎えが来るまでお話(・・)の続きをしてもらう必要があります。ですので、私たちはここで失礼します」

「ま、待ってくれよ。終わったんじゃなかったのか。ならよかったじゃないか、俺は無実だろ? もう痛いのは止めてくれよ」

「それは無理な話ですね。未遂に終わったとしても、自白したわけですし、他の件でも捕まるには十分ですから。それでは」

「なあフローラ! 何か言ってくれよ」

「……」

「元はと言えば、お前のせいなんだぞ! なんとか言えよ!」


 その問いに対し、この場に居る誰もが反応を示さず部屋を後にした。

 扉が閉まった後も何かしらの叫び声が聞こえても、誰1人として振り返らない。


 そして再び、周りに誰も居ない廊下を進む。


「泣きっ面に聖剣と魔剣――彼は、あなた方が居る時点で勝ち目などなかったのでしょう」

「変な言葉を創らないでくださいよ」

「でも、今回の一件ではこれ以上ない言葉だと思いますよ」

「それはそうでしょうけど」

「これにて一件落着ということで。ギルド内でアレンさんの話を聞いた人には口外しないよう契約を結びますので、これからもご安心して生活してください」

「ありがとうございます」

「まあ、事実を耳にした人間が口外して妨害する真似をするとは思いませんが」

「俺が遠回しに脅迫しているように言うの、やめてもらっていいですか?」

「でも、事実そうですので」


 人間離れした力を持っているとはいえ、俺は人間であり聖騎士だ――だった。

 秘密を洩らした人間を力で捻じ伏せたり黙らせたり、ましてや命を奪うことなんてするはずがない。

 他人から見たら何をされるかわからないのは理解できるが、人間じゃない目で見るのだけはやめてほしいって。


「少し、館内で休憩していてください。後ほど、少しだけお話がありますので」

「わかりました」


 と、話し終わる頃には表の休憩できる場所に辿り着く。

 長椅子と長机を設置してあることに感謝しつつ、俺たちは腰を下ろした。

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