第22話『力を確かめたら、地形が窪む』
「――なるほど、そういうことだったのね」
「主様の傍に居たくて」
セリナは冷静なまま事を運び、朝食を摂りながら事の経緯が全て明かされた。
結論から言うと、メノウが自主的に俺の部屋へ侵入してベッドに潜り込んだというもの。
しかし過程が理解に苦しむものであったことから、3人で頭を抱えている状況にある。
「まさか窓から入るなんて」
「俺の不注意だったとはいえ、誰が3階の窓から侵入者が入ってくると思うんだ」
「ええ、さすがに予想するなんて無理ね」
「ですが主様、わたくしの言い分も聞いてください。たった1回だけ廊下に出たら、セリナが恐ろしい速度で部屋から飛び出てきたのです」
「だから別の案を考えまして? 外に飛び出た後、3階である俺の部屋の窓へ侵入したと?」
「はい。そうでもしないとセリナが再び跳んでくると思いました」
「私を厄介者みたいに言うのをやめてもらえる?」
何はともあれ、俺に責任追及の白羽の矢が立たなくてよかった。
奇想天外な作戦と実行力に驚いたが、窓を開けたまま寝た俺にも非があるような……いや、あるのか?
「まあいい、次からは無しで頼む」
「でもぉ……」
「能力的な面で不都合があるわけではないんだろ?」
「はい」
「だったら、これ以降は無しだ。事情を知っている内輪だけの話で終われば問題なくても、もしも関係ない人に見られたらどうなるかわからない」
「わかりました……主様の命令とあれば、従わないわけにはいきません」
「それで頼む」
本当に冗談ではなくなる。
年齢的には離れていない容姿をしているとはいえ、あらぬ疑いを掛けられたりするのは避けたいし、通報でもされたらたまったもんじゃない。
王都から追放されたのに、知り合いが調査してきたら恥ずかしくて果てしなく遠くまで逃げ回るぞ。
騎士団長のガレルさんが駆けつけてきた暁には……いや、そんな最悪な状況は想定するのをやめておこう。
「さて、今日はモンスター退治してお金稼ぎ。で、いいな?」
話を切り出すのが下手だった。
全員が口に食べ物を入れてしまっているから、返ってくるのは頷きのみ。
「とりあえず、それぞれの力を把握するためにって感じだから無理はしないように――」
「――うわぁ……」
「主様さすがです」
「もはや人間なのか疑わしいわね」
モンスターが生息する森林に足を運んだわけだが、3人はそれぞれの反応を示している。
俺も例外なく驚いているわけだが、声を漏らすことすらできない。
なぜかと言うと――俺が3人の目線を一身に集めているのだから。
「俺も驚きすぎて、上手く言葉にできない」
というのも、手始めに小型モンスターを討伐しようと先陣を切った。
それで、なんとなくいけそうな気がして素手で戦った結果――地面が抉れてしまった。
気持ち的には軽い跳躍に軽い拳の振り下ろしだったのに。
「もしかして俺、後方待機していた方がよさそうかな……」
「少なくとも力の調整が上手にできないのなら、その方がいいと思う」
「そうね、わたしもそう思う」
「主様、練習ならいつでもお付き合いできます!」
「メノウとセリナに、教えてもらった方がよさそうだな」
聖剣と魔剣の力に驚愕を通り越して呆れていた俺だが、もはや自分もそっち側になっていたなんて。
今思えば、聖騎士に成ったときセリナへ報告するため村へ向かっていた道中、夢中で足を進めていたとはいえ常人離れしてたな。
「じゃあ今度はわたし――と言いたいところだけど、ごめんなさい。完全に剣が折れちゃっていたみたい」
握っている柄を差し出したフローラを見ると、剣身がほとんど残っていない状態だった。
たぶん昨日の、報酬をうんぬんかんぬんのときまでは気が付かなかったのだろう。
新しいのを手に入れたらいい話だし、フローラの実力を測るまでもない。
年単位で時間が経っているとはいえ、そこまでの実力は俺がよく知っている。
となれば、残りはメノウとセリナ。
戦い方や強さは見たと言えば見たけど、驚愕半分諦め半分でじっくり見ていたなかったから、いい機会だろう。
「じゃあ次はメノウから頼む」
「お任せください主様」
衣装は目立たないものに変わったとはいえ、純白な長髪を腰ぐらい伸ばしている少女というのは変わりない。
剣から人間に変身できるのは驚きを隠せないが、あんな華奢でかわいらしい少女が――。
「おりゃあっ――たーっ!」
目で追うことができる速度ではあるものの。
フローラへチラっと目線を向けると、眉間に皺を寄せながら口をポカんと開けている。
つまり、常人より少し離れていて戦闘慣れしているフローラでさえ、目で追えていないということ。
たぶん、あの気の抜けるような掛け声が耳に届くころにはモンスターが消え去っているのだろう。
拳に肘、頭突きに体当たり、膝に踵。
全身が武器で間違いないのだと思わせてくれる戦い方は、1人で遭難したとしても心配する必要性を感じないな。
もはや人間に襲われたとしても、相手を心配するほどだ。
「メノウ、もういいぞー」
「はーい!」
「じゃあセリナ。次は頼んだ」
「うん」
すたすたすたと、モンスターを殴り蹴り飛ばしてきたことを彷彿とさせないほど、軽い足取りで返ってきたメノウ。
入れ替わるようにセリナは冷静に足を進める。
セリナもメノウ同様に服装こそ一般的なものになった。
だが、1本結いの黒い髪といい目立たない村娘だからこそ、あの禍々しいオーラを放つ右手は異様な光景でしかない。
魔力を扱っているのだろうが、他の冒険者が見たら腰を抜かすぞ。
「すぅー……はぁっ! たーっ!」
こちらも緊張感の欠片もない掛け声。
跳んでモンスターの目の前に行った頃には、両手両足にも禍々しいオーラを漂わせ、次々にモンスターが触れた瞬間に消滅していく。
メノウのときはぶっ飛んでいったが、セシルの場合はああいう感じになっていたのか。
食料にしていたときのことを考えると、たぶん加減次第なのだろうが、怒らせたら被害が想定できないのは明らかだ。
「これって、間違いなくわたしって戦力外よね」
「2人が主戦力として、俺も控えているし……そうと言えばそうとも言える」
「そうよね……」
「だが、常識人として生活面や金銭面――なんかで居てくれると凄い助かる。セシルも常識人枠ではあるが、村から出るのが今回は初めてだから」
「たしかに、そう考えるとまだ頑張れそうだわ」
「自分で言うのもアレだけど、俺もわからないことばかりだ。フローラが居てくれると、本当に助かる」
知らないうちに大変なことをやらかしそうで、俺も自分が怖い。
世間を知らない3人が、問題を起こさない生活を送るには間違いなくフローラの存在は必要不可欠。
再開した状況は穏やかではないものの、本当にフローラと行動を共にできてよかった。
「セシル、場所を変えよう」
「はーい」
小型モンスターでは、もはや力試しにもならないから次の段階へと進もう。




