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第21話『どうやって部屋の中に入った』

 目覚めて一番最初に視界へ入ってくるのは、木製の天井。

 感じるのは布団のぬくもりと、昨日とは比べものにならないほど気持ちの良いベッド。

 ぬくぬくと心地良い体験に、すぐベッドから離れたいとは思えない。

 願わくば、このまま気が済むまでだらだらしていたいと怠惰を貪りたいと思ってしまう。


「――ん?」


 柔らかい布団の感触とは違う、別の柔らかい感触が腕を包んで――肌に密着している?

 正体を探るべく、開いている左手でガバッと布団を剥ぐと……。


「な、なんでメノウがここに居るんだよ」

「むにゃむにゃ……主様、もう食べられないですぅ」


 随分と幸せそうな表情をしながら寝言を喋っている。

 このままでは体を起こすことすらできないため、引きはがそうと模索してみるも。


「力強すぎ」


 そりゃあモンスターや獣を簡単にやっつけてしまう少女が、見た目通りにか弱いわけはない。

 さすがに自信を失いそうになるも、もしもこんな状況で他の誰かが訪れたら別の何かを失ってしまう。


「おいメノウ、起きろ朝だぞ」

「主様ぁ、やっぱりまだ食べられそうです~」


 何を能天気なことを言っているんだコイツは。


「せめて腕だけでも解放されれば――ふんぬっ」


 どうせ力いっぱいにやったところで、メノウは怪我をしないはず。

 だったら外見に騙されず、引き剝がすしかない!


「うおおおおおおおおおっ!」

「くすぐったいです主様ぁ」

「負けてたまるかぁあああああ」

「ぐへへ、頭を撫でてくださるのですか~嬉しいです~」


 頭を押しても腕を押しても無理だ。

 剛力とかそういう話じゃないぞこれ。


 それでも諦めるわけにはいかない。


「おっ、いけた!」


 努力の結果、無事に腕を引っこ抜くことができた。

 たぶん焦ったり動いたりして出た汗に救われたのだろうが、せっかく寝覚めがよかったのに台無しだ。


 さて、メノウをどうするべきか。

 抱えて廊下で誰かと鉢合わせすると面倒だし、起きるまでこのまま放置するのが最善だろうな。

 よし、とりあえず無駄にかいた汗を顔を洗うついでに流してしまおう。


「主様ぁ~置いていかないでください~」


 いつまでも幸せそうなに、むにゃむにゃしながら夢を見ているメノウ。


「……なん、だと……」


 最悪の予想として挙げていた、扉から鳴り響くノック。


「アレンおはよう。何やら騒がしいようだけど、大丈夫?」

「――あ、ああ大丈夫だ。寝相が悪くてベッドから転げ落ちちゃって」

「ならよかった。入っても大丈夫?」

「大丈夫――」


 ――あ。


「ちょっと頼みごとがあって」

「お、おう」


 たぶん大丈夫。

 メノウがベッドの上に居るものの、布団を覆い被せてある。

 このまま平静に話を進め、自然な流れでセリナと外へ出たら俺の勝ち。

 いつも通り、何事もない日常が始まる。


「ちょうど顔を洗いに行こうと思ってたんだ。セリナもどうだ?」

「そうね」


 よし!


「でもその前に、相談内容をどうにかしたいの」

「どんな?」

「メノウったら、扉を叩いても返事すらないのよ。安心しちゃったから気持ちよく眠いっているのかな」

「そそそそそれはどうなんだろうな」

「ん? どうかしたの?」

「夢の中で、美味しそうってメノウに食べられそうになってな。あれは悪夢だった。だからほら、その汗なんだよこれ」

「なるほど。あの食いっぷりを見たら、骨まで食べられそうね」

「そうそう」


 あ、危ない。

 部屋の中に入っただけでバレたかと思ったけど、全然そんなことはなさそうだ。

 さすがに焦りすぎて動揺を露にしてしまった。


「――様」

「ん?」

「え?」


 マズいって、今の状況で寝言は。


「いよいよ幻聴まで聞こえるようになってきたな。さっさと移動しよう」

「そうだとしたら同情するわ。でも、私にも聞こえた気がするのだけど」

「まさかそんなことがあるわけないだろ? たぶん、俺が無意識に言葉として――」

「主様ぁ~わたくしがお守りいたします~」


 おーい、やめてくれー。

 終わった、完全に終わった。

 でも俺、この状況で悪い要素ないよな?

 無意識に連れてきたわけでも、強引に呼びつけたわけでもないし。


「ねえアレン、ハッキリと聞こえたわよ。メノウの声が」

「そうだな、俺もだ」

「あのベッドから……」


 確信を得たかのように、セリナはベッドへ直進。

 なんの躊躇いもなく布団をガバッと(めく)る。


「ねえアレン、どうしてメノウがこんなところに居るのかしら」

「俺も起きたらこんな状況で理解が追い付いていないんだ。信じてくれ」

「嘘偽りないのなら事実だけを述べて」

「ああ、ありのままを話そう。起きたら、メノウがベッドの中に居た。それ以上でもそれ以下でもない」

「何もされてないし何もしていない?」

「もちろんだ。腕に抱き着かれていたが、全力で引きはがした。それで、無駄に汗をかいたんだ」


 嘘偽りのない事実を述べた。

 昨晩は酒を飲んだわけでもないし、記憶が曖昧になる要素はどこにもない。


 こんな危機的状況だというのに、メノウは気持ちよさそうに口元をもぐもぐと動かしている。


「その感じだと本当そうね。じゃあ、原因があるのはメノウの方、と」

「一応、起こし方は優しくしてあげてくれ」

「ええ」


 せめて平手打ちぐらいで済ませてほしい、と目を細める。

 しかし、思っていた以上に平和的快適に終わった。


「こうよ、こう。こうしてこう」

「あひゃひゃ、主様くすぐったいですぅ」


 夢の中で俺がくすぐっている構図が出来上がっているようだが、目を覚ましたらどうなってしまうんだろう。

 もはやここまできたら、まだ目を覚まさないで放置して一時的に去り、その後に起き上ってくれた方が争いは生まれないはず。


 お願いだメノウ、そのまま夢の世界に留まっていてくれ。


「ははっはは、ははははっ。わたくしも反撃――え……?」

「ようやく起きたようね」

「どうしてセリナがここに? あ、主様おはようございますっ」

「ああ、おはよう」


 目の間に、これから敵になるであろうセリナが居るのに、満面の笑みで挨拶とは随分な余裕だ。

 いや違うか、単に寝起きで状況を理解できていないだけなのだろう。


 さあ、いつでも間に入る準備はできているぞ。

 お願いだから荒事にはならないでくれよ。


「さあ、とりあえず下に行くわよ」

「わかった」

「アレンも、ほら」

「お、おう」


 これは回避できたのか……?


 セリナは先に部屋を出て行き、メノウも悪びれる様子もなく後を追っていく。

 だったら、俺もその流れに乗るしかない。

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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