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第17話『辿り着いた街に安心感が湧く』

 思っていたよりも、街に早く到着した。


 王都から最も近い大都市スランガルム。

 城下街と大差はなく、石や煉瓦で作られた道や建造物も大差はない。

 王城や城壁がないぐらいの差しかなく、生活している人も活気があって人の出入りも頻繁にある。

 治安もよく、配置されている衛兵の表情も明るく、余所者である俺を懐疑的な目線を送ってこない。


「本当、ここはここで居心地がいいな」

「遠征で何度も訪れているけど、そのたびに成長していたから誰にも憶えてもらえていなさそうね」

「なんだか複雑」


 現に、どこかで見たことあるような人が通過したとしても、誰1人と振り返ることはない。

 こんなにも見慣れている光景だが、まるで別の世界にでも迷い込んでしまったかのようだ。


「主様、ワクワクします!」

「私は王都もそうだけど、ずっと初めての場所でドキドキしちゃってる」


 そして、メノウとセリナは迷いに迷った結果、こうして人間の姿で行動することにした。

 剣のままで居てくれた方が何かと安心できるが、剣の存在を知っている人間と遭遇したら面倒事に巻き込まれる可能性が高くなるから。

 あと、剣から人間の姿になる瞬間を見られたら、どうやっても言い訳できないし。


 メノウとセリナは目を輝かせて辺りを見渡していて、目線と一緒に体も向いている姿はかわいい。

 もしも離れてしまったとして、2人が俺を見失うことはなく、声を掛けられても心配する要素は……ないな。


「この美味しそうな匂いは!?」

「たぶん調味料ね。やっぱり街はいろいろなものがあって面白い」

「セリナだったら1人で買い物をしても大丈夫そうだから、後で行ってくるか?」

「ええそうね。冒険者登録を済ませたら、少し店を回ってみたいかも」

「主様、なんでわたくしはダメみたいな言い方をされるのですか!?」

「買い物したことあるか?」

「ないです」

「お金を扱ったことは?」

「ないです……」

「控えめに言って1人は無理だろ」

「ふえぇ……」


 泣きついてくるように俺の左腕へ掴まっているが、どう考えても無理なものは無理だろ。

 子供じゃないんだから、と言おうとしたが、セリナと違って生まれたての幼児みたいなものと考えたら酷なことは言えないか。


 頭を撫でて慰めたら、気分が落ち着いたりするのか?


「主様……えへへ、もっとお願いします」


 落ち着いちゃうんだな。


「自分の感情を、もう少し上手に制御できるたら買い物への同行するのを許可するから」

「わかりましたぁ主様ぁ」


 これだと幼児っていうより、犬だろ。

 でもこれさ、周りの人たちからしたら同年代の女性を撫でている構図になるから、変な目で……見られてる。


「メノウ、そろそろ離れてくれ」

「ど、どうしてですか主様。わたくしを嫌いになってしまわれたのですか……?」

「違う。通行人から注がれる目線がグサグサ刺さって痛すぎるんだ」

「て、敵ですか!? わたくしが――」

「ほら、そういうところを治せと言っているんだ」

「ひぃ」


 俺はメノウの首袖を掴んで、しがみ付いていた犬を強引にはがす。

 感情を制御できない内は、今みたいな話の流れで暴れ始めるかもしれない。

 もしもそんなことになれば、何も笑えないし、冒険者どころか指名手配犯になってしまう。


 最終手段で暴走し始めたら剣に変わればいいから、まだ安心できる状況ではあるけど。


「本当、セリナとフローラが一緒に居てくれると心強いよ」

「妹ができたと思っているから、全然問題ないよ」

「わたしにできることがあれば、なんでもやるわ」

「うぅ……わたくしも主様のお役に立ちたいです」

「何を言っているんだ、戦いのときはずっと頼りにしているだろ?」

「は、はい! ありがとうございます!」


 そうだな、完全に忠実な犬だな。


「さて、ここが冒険者ギルドだ」


 あっという間に到着してしまった建物は、かなり大きな石造りの建物。

 この街は初めてではなくても、冒険者ギルドと認識して見たことがなかったし、中に入ったこともないから新鮮だ。


 人間が数人積み重なって届くであろう、開きっぱなしの木造の大扉を通過して中に入ると、見た目通り広々としている。

 2階へ上る階段もあったり、奥行きもしっかりとあるようだ。


「今日は人が少なくて助かる。受付はあそこよ」


 どんどん足を進めるフローラの後を追って足を進める。

 目的地は指で示された通り視界に入っていて、たしかに他の冒険者は少ない。

 休憩したり談話する目的であろう椅子や丸机も用意されていて、たぶん普段はもっと活気付いているのだろう。


「すみません、知り合いが冒険者登録をしたいということなのでお願いできますか?」

「はい、少々お待ちください」


 この流れるような会話の最中、俺は不安要素を思い出す。

 昨日、聖騎士に成った俺は王都を追放されてしまった。

 しかも聖騎士を名乗ることを禁止されている、という罰則付きで。


 であれば、指名手配はされていないにしても冒険者ギルドという組織には、情報が伝達されていてもおかしくはない。

 もしくは、これから情報が入ってくる可能性もある。

 だとすれば今のやり取りは、意味をなくすまでそこまで時間がかからないはず。


「では、こちらにお名前だけ記入していただけますか?」

「はい」


 差し出された書類に名前を記入し、セリナも次いで、メノウも終わらせる。

 メノウが字を書けることに驚くも、今はそれ以上に受付嬢の反応が気になって仕方がない。


「――」


 書類を受け取り、凝視している!?

 こ、これは……諦め――。


「ふふっ。あなた、かわいらしい字ね。でも、もう少し練習した方が褒めてもらえると思うわよ」

「わかりました、ありがとうございます」


 ふぅ……なんとか大丈夫なようだな。


 てかさ、思ったんだけど。

 メノウは今、受付嬢に対して普通に受け答えしただけではなく、姿勢正しく一礼した。

 何かがおかしいどころの話じゃない。

 俺が知っているメノウは、無邪気かつ天真爛漫で感情に素直な忠誠心溢れる女の子。

 だというのに、まるで、まるで……そう! これは余所行きの態度のソレだ!


 わかる、わかるぞ!

 小さい頃のセリナが俺の前と他の村人とでは接し方が違う感じだったし、フローラも騎士団員以外と話すときはもはや別人だった!


「ねえアレン、今とても失礼なことを考えている?」

「わたしも、理由や根拠はないけど同じく思った」

「い、いやいや。全然そんなことはないぞ。今日も2人はかわいいなって――こんな美少女たちが傍に居てくれるなんて役得だなってな」

「へぇ~」

「ふぅーん」

「主様、本当ですか!?」


 メノウは、もう反応し続けると疲れるから置いておいて――この2人、時々思うが俺の心を読めるのか……?


「あ、主様ですか。少し変わった趣味をお持ちなのですね。外ではほどほどに」

「違うんです、これは――」

「手続きは以上になりますので、よい冒険者ライフをお送りください」

「ち、違うんです――」

「はーい、外に出るわよー」

「言い訳は後にして、行くわよー」


 俺は全ての発言権を失い、メノウとフローラに両腕をグッと抱えられ、ズルズルと踵を引きずったまま外へ連行される。


 こんな惨めな状態だが、メノウはなんだか楽しそうに目をキラキラさせていた。

 どうせ『次はわたくしが、どちらかの腕を!』、とか思っているのだろう。

 その能天気というかお気楽な性分を見習いたいものだ。


 聖騎士にもなった俺が……こんな……情けない……悲しい……。

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