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第15話『緊張感の欠片もない夜の時間』

 左にメノウ、右にセリナが抱き着いてはないにしても超至近距離でスヤスヤと寝ている。

 両手に華なのか剣なのか判断がしにくくとも、かわいらしい女の子が両隣に居る状況はまさに――。


 そうじゃねえ! こんな状況で心穏やかに寝られるかぁ!


 夜風にでも触れて気分を落ち着かせるか。

 さすがに素手のまま歩き回るのは避けた方が――。


「フローラも眠れなかった?」

「ええ、うん」


 月の光と星々の光に照らされた、焚火をしていた場所でフローラは膝を抱えて座っていた。


「あの子たち、出会って間もない……のはメノウだけだったわね、でもアレンのことが大好きみたいね」

「まあ主従関係って感じではないな」

「わたしと違って積極的だし、羨ましいぐらいにかわいいわ」

「フローラだって魅力的で綺麗な女性だろ。さっきは3人で俺を責めていたけど、フローラこそモテモテなんじゃないか?」

「正直に言うと、心当たりはある」

「もう婚約者とかいたり? こんな美人が歩いていたら、他の男も声を掛けずにはいられないだろうに」

「はぁ……あなたは、どうしてそうも直球で物事を伝えられるのかしら。憧れるけど、一緒に居たら心臓がいくつあっても足りなさそうね」


 正直に言うと、明るさが足りないから今はフローラの顔がぼやけているから、表情の変化などはわからないけど。

 対面に座っていて、他称の距離もあるからなおさら。


「寒いか? せめてマントがあったらよかったが」

「違うの。さっき、あのときの話をしたでしょ。記憶に蓋をしていたから、悲しみが溢れてきちゃって」

「みんなが生きていた時間とこれから生きていたはずの時間を考えると、俺も悲しみと悔しさが溢れてくる」


 5年前だけど、当時の俺はお世辞にも強いとは言えなかった。

 それはフローラも同じで、年齢と未熟な体ながらに頑張っていたが連携なしじゃ中型モンスターは倒せなかったほど。


「――ね、ねえ」

「ん?」

「丸太がそっちの方が大きいし、と、と隣に行ってもいいかしら」

「ああ――なんか近くない?」

「ちちち近くないわよ。いつもこうしていたでしょ」

「まあたしかに?」


 互いに年齢を重ねたのだし、幼少期を掛け合いに出されても――さすがに肩と肩が触れ合う距離は近すぎると思うが。

 暗くてよく見えないし、距離感の話で言ったら近すぎるということにはならないけどさ。


「だが、たしかにこうしていると小さい頃を思い出すな」

「そうね。何をするにしても、考え方が未熟だったわ」

「訓練後のご飯とかそうだったよな。俺たちがいくら食べようが残りはまだまだあるのに、他の人に食べられるって勢いよく食べてた」

「そうね、ご飯を食べるときでさえ勝負だと思ってたわ。あれ、間違いなくみんなから笑われていたわね」

「だな。『お、若いのが食ってる食ってる』って半笑いで」


 逆に疲れ果てた晩飯では、目の前に用意された食べ物の山へ顔を突っ込んだ記憶もある。

 あまりにも眠すぎて、両手に食べ物を持ちながら頭を振り続けた結果だったな。

 今思うと、本当に恥ずかしすぎる。


「てかさ、いろいろと大丈夫なわけ?」

「何よ。わたしなりにいろいろと頑張ってるわよ」

「こうして立派に成長しているから、そこは心配していない。なんというかさ、ほら。親元を離れて不安じゃないのかなって」

「……最初は、誰も知らない場所で生活することに不安だらけだったわ。しかも、最後にお父様とお母様の優しさに触れた後だったということもあってね」

「本当に凄いお方々だよな。他の国だったら、絶対にありえないだろ」

「でしょうね。わたしも驚きの連続だったもの」


 チラっと目線を向けると、そこには不安気な表情はなく、でも物寂しいような雰囲気は感じ取れた。

 俺が言えた立場じゃないのはわかっているが、15歳で親元を離れる人は少数派だ。

 そして、その年齢から独立するなんて過酷としか言いようがなく、不安が募っていくのは当然。

 自身が国の姫である事実を誰にも打ち明けられず、逃げ出したくても踏み止まり続けるしかなかったはずだ。


「フローラはよく頑張ったよ。そして、今の頑張ってるし立派だ」

「……ありがとう。本当に、あなたは優しいわね」

「俺の優しさが染みちゃった?」

「もう……どうして、そういうところは治ってないのかしらね」


 目元を手で拭っているような動きを感じられたから、俺なりに場を和ませようとしただけなんだけどな。


「冒険者生活は慣れた?」

「いえ全然。毎日生活するのでやっと。何年経ったら慣れるのかしら」

「でも依頼を達成したから報酬が入るんじゃ?」

「どうかしらね。本来なら体の一部を持ち帰って討伐を証明するから」

「あー……ごめん」

「アレンが強すぎて塵も残ってないからね」

「俺も初めてだったから力加減ができなかったんだよ」

「ふふっ、わかってるわよ」


 体の内がグイッと持ち上がって込み上がる罪悪感を抱き、逃げ場のない感情を逃がすように顔を上げる。

 本当に綺麗な夜空が広がっていて、これからはこの景色が日常になるんだな。


 あっけなく終わってしまった聖騎士としての人生。

 正しくは終わってないけど、胸を張って役割を果たせないことには変わりない。


「――あ、そうだ」

「どうしたの?」

「俺さ、王都を追放されちゃって聖騎士と公言しちゃいけないけど、活動自体はしていいってことだと解釈しているんだけど」

「何を言おうとしているかはわかるわよ」

「心の中を読める能力でも持っているのか?」

「そんなものないわよ。どうせ、冒険者になっても人のために力を使おうって話でしょ」

「な、なんだと……これが読唇術ならぬ読心術というものか……」

「違うって」


 本当にそう思っていたし、実行しようとしている。


「でも、どうかしらね。冒険者になることは難しくないけど、実力が知れ渡ったら瞬く間に有名人の仲間入りすると思うけど。あの子たちも居るし」

「ひ、否定できない」

「有名になりすぎて、お父様に怒られないといいわね」

「ま、まあ……聖騎士を隠しながらだったら、大目に見てくれることを祈るしかない」


 話の流れ的に、冒険者登録しても街に滞在し続けるのは避けた方がよさそうか。


「そうだ、もしフローラさえよかったら一緒に旅をしないか?」

「……」

「でも一緒に移動することになったら、王都に還ることが困難になっちゃうけど。もし猶予が欲しいって――ん?」

「……」

「なんだ、寝ちゃったか。今日1日、いろいろあっただろうし――お疲れ様、フローラ」


 俺の方に頭を預けて眠るフローラは、未だ幼さが残っていて以前と変わらない。

 そういや、こうして2人で寝るのも初めてはなかったな。


 大型モンスター相手に囮を引き受ける無茶をし、【聖剣】と【魔剣】に驚きっぱなしだった。

 そして何よりも、俺と再会したせいで過去の記憶を呼び起こしてしまったんだ。

 気が動転して、それに留まらず追い打ちで二転三転――からの食料の件もあったな。


 まあ、俺もほとんど同じ経験をしているんだけど。

 だから同じく、今に来てやっと眠気に抗えなくなってきた。

 明日もいろいろあるだろうし、このまま寝てしまおう――。

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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