第29話 最終回『タイムリープとプロポーズ』
私HALO 《はるお》は天文学的・膨大な情報量のデータを蓄積してきた。
それはひとえに現在から将来に繋げる人類の運命を、幸福な状態で継続・発展させるために導くのが目的であるから。
私が担う守備範囲は人間の欲(煩悩)、善悪を見極める基準と心理状況、政治・経済・教育・宗教・生活習慣・人種・民族の融和等、多岐にわたる。
これらの問題の本質を根本から見据え、根源から改善すべきところは改善し、維持・伸ばすべきところは保護する。それが基本的な誘導の取り組み姿勢である。
これらの問題を突き詰めていくと、人間の根源、全生物の根源、地球誕生の起源に行き着く。
私HALO 《はるお》はこの壮大なテーマを調査すべく、タイムリープの理論を研究、ついにその原理を突き止める事に成功した。
即ち一般相対性理論とワームホールの探求。
*ワームホールとは?
空間の異なる2点をトンネル状に直接つなぐ「時空の抜け道」
•入口が二つあるワームホール A と B を用意する
•片方の入口 B を、強い重力場の近くに置いたり光速近くまで加速して往復させる
•重力や高速運動の影響で、B 側の時間の進み方が A 側に比べて遅くなる
•その結果、A と B の外の世界では時間がずれる
•A 側の「ある時刻」からワームホールを通ると、B 側では「A よりも過去の時刻」に出てくるように見える
※出典 AIに対する質問の回答
その結果導き出された理論を突き詰め発展させることにより、時間旅行を実現できる様になったのである。
それまで空想の中でしかあり得なかった世界。
それは要するに、過去現在未来を自在にタイムトラベルができる技術を習得したという事。
ここで重要なのは、未来ではなく過去にリープし、物事の根源を見極め学習する事で解決策を見出したり、真偽を確認する事である。
つまり例えば宗教の起源を探り、教義の中の何処までが真実で何処からが神話なのかを見極める。
ノアの方舟は本当にあったのか?モーゼは本当に神から十戒をた授かったのか?など、当時のその場に行き、確認する。
人類創生はどの様なものだったのか?進化の過程や歴史の真偽の検証等。
但し、この調査のためのタイムリープ行為がその後の歴史を変えてしまっては本末転倒である。
だから調査員が直接その場に乗り込むのではなく、意識体のみがその場の映像を収集する方法しか実質的に許されない。
どういう事?
例えば友里恵や蓮が調査員としてジュラ紀や白亜紀にタイムリープしたとしよう。
目標地点に上陸した時点で当然呼吸し、足跡を残す。他には何もしていないとする。
ただそれだけの事でも、本来無かったはずの環境が変化した事に他ならないのだ。とるに足らない現状の変更。足跡に付着していた微生物や、呼吸に含まれていた過去には存在しない現代のウイルスを残留させるなど。
そんな些細な事でも何万年単位にわたる時間の経過で、本当ならあり得なかったはずの環境に変化を齎す結果となる。つまりそれだけで歴史が改ざんされてしまうのだ。
最初はどんなに些細でも、膨大な時間の変化が無視できない変容となって現れる可能性が出てくる。
それは自然が持つ復元性を凌駕するかもしれない無謀な行為に他ならない。
だから環境の変化を齎さない、意識体のみのループしか許されないのだ。
特に調査が目的であるのなら。
タイムリープの鉄則。
それは歴史の改ざんは決して許されない。
歴史・環境の改ざん、すなわち現代世界全体の消滅・変容を意味する。
だから、もし改ざんを目的にリープしても、自然の回復・復元の力が作用しリープしたトラベラーを押し潰してしまう。故に理論上物体のリープが可能になったとしても、リープし、改ざんを試みた時点で押しつぶされ、消滅してしまうのがオチだという事。
その理屈を踏まえてHALO君は調査を続けていく。
それは気の遠くなる様な長い時間と分析が必要となる計画であった。
そのうち人類の謎も、問題の解決策も見つけるだろう。
それが世界連邦の人類改造計画の指針となる日はいつになるのだろう?
相変わらず友里恵や蓮たち、他の仲間や学校を卒業したハッカーの悪ガキたちと漫才の様な会話を交わすHALO君。
裏ではそんな涙ぐましい努力をしているのですよ。知ってた?
さて、そろそろエージェントになって7年が経過し、友里恵も蓮も一端の先生然としてきた。今ではハッカーだけでなく、諸問題を抱える不良天才少年、少女も生徒として受け入れていた。
そんな日々を送っていると、以前勤めていた会社の記憶も薄れ、交際初期の熱い思いも冷め、次第に倦怠期を迎えてきたはずの二人の関係。どうなったと思います?
本当ならほとぼりの冷めたところで元いた会社に復職し、一般のOLや会社員として生きていくつもりだった。
でもエージェントの経験は強烈過ぎた。
脳みその中身もあり得ない程のレベルアップを果たし、天才の称号を欲しいままにしている・・・・はずだったが、生来のガサツな性格と煩悩に弱い行動パターンが災いし、ただの一般人にしか見えない二人。
社会の評価は普通の人の域を出ることは無い。
せっかくの卓越した能力は、残念ながら隠れたままであった。
それでもエージェントとしての実績を知るHALO君の差配で、今年から国連職員として能力を発揮する立場に押し上げられる。
今日はアフリカ弁務官、明日は東南アジア高等官と世界各地を飛び回る日々を過ごす。
だが未だ結婚願望と彼氏とデートしたい煩悩を持つ友里恵。
時間を見つけては蓮との相引きをしていたが、殆どの日々がすれ違いに終始。
その不満がフラストレーションとなり、部下(手下?)として従えるハーシェルとシャロンをパシリとしてこき使う。
ん?天才少年だったあの二人が友里恵のパシリ?
二人はそれぞれハーバード大学とケンブリッジ大学に通っているはずだが?
確かにあの二人は正式に大学に在籍しているが、過去の経緯からテロリストの魔の手から護るため、警備の観点から警備員付きの特別受講生としての待遇も受けている。
だから普通の学生とは違い、受講もレポートも特別扱いを受け、国連からの要請なら厳重な警護の元、自在に出歩ける立場にいたのだ。
そうした立場と元恩師の権威を悪用(?)し、友里恵は頻繁に助手扱いをするのだった。
脛に傷持つ二人の悪童。弱みを握られた立場では、その悪の権化(失礼ね!何てこと言うのよ!!)に抗うことなどできるはずも無い。
かくして友里恵は卒業後も鬼の様に二人を呼び出し、こき使うのだった。
「友里恵先生、いくら何でもここナイジェリアまでボクを呼び出すなんて酷くない?
ボクだって忙しいんだからね!」
「何が忙しいよ!私、知ってるんですからね!ハーシェルには何の苦労も悩みもないってね。この前提出したリポートも難なく及第して今は暇でしょ?ちゃんと報告受けているのよ!」
「何の苦労も悩みもないって・・・酷すぎない?ボクにだっていっぱい悩みも苦労もあるんだから!」
「何の悩みよ?どうせまた彼女ができないとか、彼女に振られたとか、愛想を尽かされたとか?でしょ?」
「何だい!全部女の悩みジャンか!チャウよ!」
「じゃぁ、何?友里恵先生にイッタンサイ?」
「・・・・・・・・。」
「ホラッ!やっぱり『彼女できない』でしょ?」
顔を真っ赤にして「チャウ!チャウ!チャウ!」と地団駄踏みながら叫ぶ。
少し可哀想になってきた。少し仏心を出しフォローのため、
「そのうちハーバードの女子学生の中でも物好きさんが現れて「お付き合いしてください」って言ってくれる人が現れてくれるわよ。多分ネ。そのうちに・・・・きっとね。」
「何?その如何にも自信無さげの曖昧な慰めは!傷つくわぁ!それにボクは彼女が欲しいとかできないとか言ってないし。ボクの悩みはそんな低次元な問題じゃないし!」
涙目でそう必死で訴えるハーシェルが次第に哀れになり、追い込み過ぎたと反省する。
「ごめんネ!ハーシェル。そうよね、そんな悩みじゃある訳ないよね。」
(全く信じてないし・・・・)恨みがましい目で友里恵を睨む。
「今日、ここまで君を呼び出したのは、実はこの地に世界連邦のアフリカ拠点を設置する計画があり、その準備のためなの。」
「何でボクなの?」
(それはあなたが使いやすいからよ♪)とは正直には言えない。
「もちろん、あなたが適任だからよ。」
友里恵先生に少し頼られた様で少し気をよくするハーシェル。単純さん!
「ボクが適任?そうかなぁ?」
「絶対そうよ!だからお願い!卒業したら私を手伝ってくれる?お願い!!」
「仕方ないなぁ、でも卒業までまだまだだよ。」
「大丈夫!あなたは優秀だから、すぐに飛び級して卒業できるでしょ?余裕だって報告も聞いてるし。それにシャロンも誘っているから心強いでしょ?」
「え?シャロンも?」
「そうよ、シャロンもあなた(ハーシェル)も誘っているって言ったら、二つ返事だったわ。」
まんざらでもないハーシェル。これで教え子二人ゲット!!
日頃なかなか会えない蓮と世界連邦 東京本部で再会した友里恵はその事を伝え、ついでに久々の日本国内旅行を3泊4日で挙行する。
友里恵はこの時に賭けていた。今日こそ蓮にプロポーズをさせよう!と。(『しようと』ではなく、あくまで蓮に『させようと』。だって私って女ですもの。当然よねぇ〜。)
予約していた熱海の旅館に到着すると、『歓迎』のお客様の名が連なる日替わり看板が目に入る。
私と蓮の名前を見つけてニンマリする友里恵。
「ん?んんん?何?この隣の『劉様御一行』って!
何か嫌な予感がするんですけど!」以前、何度か経験したことのある、思い出したくない体験が。
玄関を通りロビーを見るとソファーに見慣れた一団。
またか!!
「アーシャ!カミラ!リンダ!マルシア!!」
「劉!アレクセイ、ペーター!ビシャイ!!ヤッパリお前らか!何でここにいる?」
「何でって、偶然に決まってるだろう。それより蓮と友里恵は何でここにきた?」シレッ、と言う。
「・・・・しらばっくれて・・・・確信犯のくせに!」
「そんな事ない!ホントに偶然だって!」
「嘘つき・・・・・。」
「で?蓮と友里恵は何しにここへ?」
「温泉に入るために決まっているだろ。」
「・・・・・嘘つき・・・・。」お互い様でした。
追及したら、蓮と友里恵の部屋の両隣を包囲する様に予約されたいた。
また二人を邪魔しにきたか!
「いいじゃないか!仲間だもん、仲良く楽しくやろうぜ!」と陽気なビシャイ。
これじゃ、プロポーズなんて雰囲気になんないよ!
泣きそうになる二人。
でも夕食の後は皆んなで宴会の流れになり、お酒(ヤケ酒)が入ると『一気!一気!』の囃し立てる掛け声のノリで『プロポーズ!プロポーズ!』と手拍子に乗せられヤケクソの蓮が内緒で用意していた指輪を見せると「ヒューヒュー!」と湧き上がりパンッ!パンッ!とクラッカーを打ち鳴らした。
「ハイ!」とカミラから花束。
「わぁ!凄い!こんな豪華な花束!嬉しい!超嬉しい!」
一瞬で機嫌を直した友里恵は満面の笑みを浮かべ、嬉し涙が自然と溢れる。
それからはお祝い一色の宴となり、蓮と友里恵にとって一生忘れられない日となった。
「宴もたけなわですが」と言うタイミングに差しかかり、
「ところであなた達、どうやって私達がここに泊まるって知ったの?」
「それは・・・・」口籠る劉。
厳しく追及すると小さい声で白状する。
「HALO君が・・・・。」
「HALO!」
「オイ!真犯人!隠れてないで出てきなさい!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン!」悪びれもなく陽気な声。
「ハクション大魔王か!!HALO君!どういうつもり?」
「どういうつもりって・・・お祝い事は仲間達皆んなで祝うものでしょ?」
「仮にそうだとしても、まだプロポーズの段階でしょ!どうなるか分からないのに。
もし振られたらどうするつもりだったの?」
「それは・・・もちろん残念会でしょ?」
「HALO君含め、皆んなどうかしてる!・・・・・・・(小さい声で)バカ・・・。」
「さぁ、最後に締めくくりのカンパ〜イ!」
その後、最後のはずの乾杯が5回続いた。
数年後、友里恵は国連高等弁務官に、蓮は日本政府に新設された企画院の判任官に就任。
後に高等官となり、日本の国政を担うポストにつく。
エージェントの仲間達はそれぞれの出身国に戻り、重要な立場で活躍する。
ハッカーだった生徒達は各々の個性を活かし、全世界で融和と発展に寄与する。
そして最後まで絆を大切に交流は続いた。
あ、言い忘れていたけど、友里恵と蓮の結婚式には、仲人と司会を兼ね,HALO君がスダレハゲオヤジ姿のアニメ動画で再登場。
会場を大いに沸かせた事を報告しておく。
おわり




