第50話 水面は揺れる
ドォン!!
ルーク
「はぁ…はぁ…っ…。落ち着いて!!」
澪澄
「グォオォオオ!!」
ドォン!!
澪澄が咆哮を上げ、水飛沫を巻き上げながら突進する。
ルーク
「くっ…!」
ルークは身をひねり、鋭い牙を紙一重でかわした。
ガギィン!!
振り下ろされた巨大な爪が石畳を深く切り裂く。
澪澄興奮したまま、休むことなく牙と爪を振るい続ける。
ルークは低く滑り込み、その巨体の懐へ潜り込んだ。
ルーク
「(手足なら…!)」
狙うのは四肢。
泳ぐために発達した巨体に対し、手足は比較的小さい。
体勢を崩すなら、そこしかない。
ドゴッ!!
鋭い蹴りが前脚を捉える。
ルーク
「っ……!」
当たる瞬間だけ、ルークは思わず目を逸らした。
骨と筋肉を砕く鈍い感触が、そのまま足へ伝わってくる。
続けざまに後脚へ回し蹴りをする。
ドガッ!!
巨体が大きく傾き、水面へ倒れ込んだ。
しかし、
ジュウゥ……
砕けた骨が音を立てて繋がり、裂けた筋肉が瞬く間に再生していく。
ルーク
「……また!」
澪澄はすぐさま立ち上がり、怒りの咆哮を轟かせた。
ドォン!!
再び突進してくる。
ルーク
「(キリがない…)」
飛び退きながら息を整える。
傷を負わせても再生する。
手加減をすれば止められない。
ルーク
「(ディン……ヘスティア…)」
みんなの姿が脳裏をよぎる。
澪澄
「グォオォオオ!!」
水面を蹴る。
一気に懐へ潜り込み、身体を捻る。
ブォンッ!!
下からすくい上げるような回し蹴りが、澪澄の顎を捉えた。
バゴォッ!!
澪澄の頭部が大きく跳ね上がる。
歯が砕け、角が宙を舞う。
顔面の半分が潰れ、水飛沫と血飛沫が舞い散った。
澪澄
「グォオォオオ!?」
ドォン!!!
ルーク
「うわ!?」
長い尻尾が横薙ぎに振り抜かれる。
バギャァン!!
ルークの身体が石壁へ叩きつけられ、壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
水飛沫と砕けた石が降り注ぐ。
ルーク
「いたた……」
背中をさすりながら立ち上がる。
ルークが顔を上げると、澪澄の喉元が青白く輝いていた。
ルーク
「っ……!」
嫌な予感が背筋を走る。
キィィィイン……
一瞬の静寂。
ドゥグォオオオン!!!
極太の水流が地下水路を貫いた。
石壁が削れ、天井に幾筋もの亀裂が走る。
パラ……パラ……
細かな瓦礫が雨のように降り始めた。
ルーク
「待って!やめて!天井が崩れる!」
澪澄
「ギャォオオオ!!!」
ルーク
「くっ…!」
キィィィイン……
喉元の輝きがさらに増していく。
ルーク
「っ…!」
水面を強く蹴る。
身体を横へ倒しながら、一気に回転を加える。
ブォォンッ!!
一回転。二回転。
勢いを乗せた踵が、澪澄の下顎へ叩き込まれた。
ドゴォッ!!!
上下の顎が激しくぶつかり合う。
ガチィン!!
牙同士が噛み合い、口が強制的に閉じた。
次の瞬間。
ボゴォンッ!!!
行き場を失った水流が口の中で暴発する。
澪澄
「グォォッ!?」
頭部が大きく仰け反り、水飛沫が爆発するように弾け飛んだ。
ルークはその反動を利用して宙でさらに半回転し、水面へ着地する。
ドォン!!!
水放射を封じられた澪澄は、怒りのまま巨大な尻尾を薙ぎ払う。
ルーク
「っ……!」
避けない。
両腕を交差させ、真正面から受け止める構えを取る。
その瞬間。
バキィッ!!
ルークは踏み込んだ脚へ力を込めた。
石畳が砕け、足元へ深く食い込む。
砕けた石が滑り止めとなり、身体を支える。
ゴゴゴゴゴ……!!
尻尾が押す。
石畳が次々と砕け、ルークの足元が沈んでいく。
それでも押し返す。
ルーク
「んんっ!!」
一瞬。
本当に止まった。
澪澄の巨体が、その場で静止する。
しかし…
ミシ……
ルークの踵が地面から浮いた。
ルーク
「っ……!」
ドゴォン!!!
そのまま押し切られ、ルークの身体は尻尾ごと弾き飛ばされた。
ルーク
「ぐ…(このままじゃ無理か…!)」
巨体が押すたび、水面が大きく波打つ。
踏み込むほど、押し返すほど、その差だけが浮き彫りになる。
技術だけでは覆せない。
圧倒的な体格差と体重差。
ルーク
「………くっ…」
澪澄
「グォオォオオ!!」
ガギィン!!
澪澄の爪が横薙ぎに振り抜かれる。
ルーク
「っ!」
片手を地面について身体を捻ってかわし、身を沈める。
その勢いのまま軸足を回転させる。
ドゴッ!!
蹴りが前脚へめり込む。
澪澄
「グォオ!!」
ィ……ィイン……
ルーク
「……?(なんだ…?なんの音…?)」
耳を劈く耳鳴りのような音だ。
澪澄の動きが、ぴたりと止まる。
巨体がゆっくりと首を巡らせた。
視線の先はルークではない。
ドォン!!
巨体とは思えない速度で、水飛沫を巻き上げながら駆け出した。
一瞬で距離が開く。
ルーク
「えっ!?ちょっ…!?え!?待って!待って!!(そっちはディンたちが…!)」
ルークもすぐさま水面を蹴り、後を追う。
『アルスダリアの祈り』第50話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
早いもので、もう50話なんですね。1話でも読んでくださった皆様ありがとうございます。
まだ先の長い作品になっておりますゆえ、これからもどうぞよろしくお願いします!




