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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
???編

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第29話 門の先へ

夜は暑苦しくなく、過ごしやすかった。

薄めの布団をかけて眠った。


朝方…


ディン

「(トイレ…)……うわ!?びっくりした…」


ヘスティア

「…………。」


ディンが身体を起こすとヘスティアが部屋の隅っこで布団に包まって座っていた。



ディン

「あぶな…漏らすところだった…脅かさないでよもう…」


ヘスティア

「いいですね…よく眠れて…」


ディン

「…怖すぎ…」


じと…と布団の中から睨みつけてくるヘスティア。

ディンは恐怖しながらトイレに向かった。



ディン

「ヘスティア姉さん紅茶飲む?」


ヘスティア

「お湯は…?」


ディン

「買った。さすが宿屋だね。起きてた」


ヘスティア

「飲みます」



ヘスティアはディンに呼ばれると居間に布団ごと向かった。



ヘスティア

「二度寝しないんですか?」


ディン

「する予定だったけど流石に目覚めたわ」


ヘスティア

「悪気はないです」


ディン

「いいよ別に」


 

ディンは皿のお湯に綺麗な布に包んだ紅茶を落とした。



ヘスティア

「この紅茶どうしたんです?」


ディン

「ロアの荷物から拝借した」


ヘスティア

「なるほど…(いい香り…)」


ディン

「よっこいせ…夜と朝方は涼しいのになぁ…なんで陽が出るとあんなに暑いんだろう」


ヘスティア

「そうですね」



ヘスティアは紅茶の葉が綺麗な紅色を出すのを眺めていた。

しばらく沈黙が落ちる。



ヘスティア

「……本当に商業区域に興味あります?」


ディン

「正直ないよ。鍛冶屋があったら少し気になるくらいかなぁ…ヘスティア姉さんこそどうなの」


ヘスティア

「それなりに。鉱山が近いらしいので。良い銅があれば」


ディン

「ふぅん」

 


3分蒸らしたので小皿に紅茶が入った布を取り出した。



ディン

「たまに飲む分には悪くないね」


ヘスティア

「…ディンは可愛げがなくなりましたね。素直に美味しいって言えばいいのに」


ディン

「姉さんは可愛くなったね」


ヘスティア

「どういう意味」


ディン

「ん〜?わかりやすいっていうか。まぁ…正直、小さい頃の姉さんたちってあんまり覚えてないけどさ」


ヘスティア

「はぁ?わたくしのどこがわかりやすいんですか」


ディン

「んふふ。そういうすぐムキになるところとか?」



そんな他愛もない話をしていると、窓の外が少しずつ明るくなってきた。

夜の青が薄れて、陽の色が部屋の床をじわりと染めていく。



ディン

「ヘスティア姉さんって明るいの平気?」


ヘスティア

「平気ですけどあまり好きではないですね。夜の方が好きです」


ディン

「おんなじ。ボク、未だに太陽光に慣れなくってさ」


ヘスティア

「月明かりくらいの明るさが好きです。明るさが必要ならカンテラか蝋燭に火を灯せば良いです」


ディン

「わっかる〜」



話し声に起きたのか、大好きな紅茶の香りで起きたのか、ロアが布団部屋から出てきた。

 


ロア

「おはよ〜早いね」


ヘスティア

「おはよう」


ディン

「おは」


ロア

「紅茶いいな〜」


ヘスティア

「香りで起きたんです?」


ロア

「そんなとこ。あ、これ僕の荷物から取ったでしょ」


ディン

「匂いでわかるの?紅茶ってどれも一緒でしょ」


ロア

「わかってないな〜君は。香りが全然違うんだよ」


ディン

「冷めてるけど。それでも良いなら」


ロア

「もらう〜。てかヘスティア姉さん、目バキバキじゃん。大丈夫?眠れなかったの?列車でお昼寝してたもんね」


ヘスティア

「一睡もできなかったんです。可哀想なわたくし」

 

ロア

「2日くらい寝なくても平気だろうけどさ、気温差が激しいから具合悪くなったらすぐ言ってね」


 

ロアはヘスティアへの小言を混ぜながら紅茶を飲んだ。



ディン

「涼しいうちに動こうよ。起きて起きて!」


 

ディンはひと息つくと。まだ寝ているルークたちを優しく起こし始めた。

ルーク、ソフィア、ルシファーは少しずつもぞもぞ動き始める。



ソフィア

「ヘス、おはよう。昨日眠れた?ほら、お昼列車で寝ちゃったでしょう?」


ヘスティア

「………えぇ…おかげさまで…」

 


ヘスティアはススス…とソフィアと少し距離を置いた。

ソフィアはふふっと笑って上着を羽織った。



ソフィア

「ルークー!ルーシー!起きてくださーい」


ルーク

「んん…」


ルシファー

「はぁい…」



 ✴︎



ディン

「ガーリック、最初に食べようと思った人勇者だよね」


ロア

「なんで?」


ディン

「だって匂いすごいし、見た目なんかやばそうじゃん」


ロア

「最初の人って偉大だね」

 


ディンは昨日買ったガーリックバケットを頬張った。

他のみんなも各々朝食を済ませた。



ディン

「さて、行きますか」


ルーク

「うん!」


ロア

「ヘスティア姉さん、本当に行かなくて平気?」


ヘスティア

「平気ですよ。ただの付き添いです。ロアはソフィアたちといてください」



外は陽が昇ぼり、だんだんと気温が上昇してきた。



ルシファー

「それじゃあまた後でね!」



ルーク、ディン、ヘスティアは国の内側の商業区域へ。

ソフィア、ルシファー、ロアは図書館へ。



ルーク

「プロジオンに会えるといいな」


ディン

「きっと会えるよ」


ヘスティア

「あ、あそこでしょうか」

 


3人は国の内側に向かって歩き出した。

しばらく歩くと、内側に入るための門の前に小さな窓口があった。中には門番が座っていた。



ディン

「中に入りたいんだけど」


門番

「かしこました。国印を拝見いたします。手をこちらへ」


ディン

「はい」


 

3人を手を門番に見せた。

3人の手の甲に特殊な道具を当てる。

手の甲には何も浮かび上がらなかった。

 


門番

「……。…ロスター(無所属)ですか…。承知しました。では、ご入国の際の注意事項をお話しいたします。まず、前提と致しまして、これより先は商業区域となっております。観光にはお勧めできません」


ディン

「(景観が悪いのかな…ロアもなんか黒いのがなんとかって言ってたっけ…)」


門番

「武器の持ち込みは可能です。ご自由にお持ちください。ですが、飲食物の持ち込みは禁じられておりますので、ご了承くださいませ」


ルーク

「どうして食べ物はダメなの?」


門番

「ゴミ捨て防止のためでございます」


ルーク

「そうなんだ」


門番

「繰り返し申し上げますが、この先は商用区域となっております。観光には向いておりません。それでも、希望されますか?」


ディン

「うん。大丈夫」


門番

「……ロスターの方には少々、風当たりが強い可能性もございますが。本当に、よろしいのですか?」


ディン

「問題ない。大丈夫」


門番

「……かしこりました。許可証を発行するには、誓約書と引き換えになります」


ヘスティア

「誓約書?」


門番

「こちらが内容になります」



ヘスティアが誓約書の紙を門番から一枚受け取った。

 


ルーク

「なんて書いてある?」



3人で覗き込む。

するとディンが口を開いた。

 


ディン

「……この記憶消去ってなぁに?」


ルーク

「え?」


門番

「はい。商業区域のため、技術の盗み行為被害に遭わないための取り組みでございます。こちらをご了承いただけないと許可証を発行することができません」


ヘスティア

「どうやって?」


門番

「薬品投与によるものです」


ディン

「身体への害は?」


門番

「個人差がございますが、睡魔、めまいが多く報告されております。一時的なもので、脳へのダメージはございません」


ヘスティア

「個人差ね…」


門番

「……繰り返し申し上げますが、観光には向いておりません」


ルーク

「あの、ちょ…ちょっとごめん!」


ディン

「うわ!?」



ルークはディンを連れて離れたところに行った。



ディン

「あ…あっつ…ルーくん、ヘスティア姉さんと離れると暑いんだけど…」


ルーク

「ごめん。でも…でも…中入るのやめない?」


ディン

「なんで?」


ルーク

「なんか良くない気がするんだよ」


ディン

「まぁそりゃあね。でもプロジオンに会いたいんでしょ?ボク的には、誰かにお願いして、安全なところにいてくれたほうが安心で全然いいけどね?」


ルーク

「会いたいけど…でも…」


ディン

「…どうせ君のことだから、身の安全のことで悩んでるんじゃないよね?」


ルーク

「え?うん…。だってあの門番さん困ってるんじゃ…?ぼくたちが中入ったら怒られちゃうのかも…」


ディン

「ルーくんってば。誓約書ってのは、全部ボクたちに責任押し付けられるように書かされるんだよ?そのためにあるの。あの門番は平気だって」


ルーク

「でも中に入ってほしくなさそうだよ」


ディン

「知らないよそんなの。とにかく大丈夫だよ。ほら戻るよルーくん。あ、それとも、誰かに預ける気になった?」


ルーク

「うぅん…」


ディン

「悩むんだ。悩むなら自分で渡したほうがいいよ。ルーくんしばらく引きずるでしょ」


ルーク

「それはそうなんだけど」


ディン

「いいから行くよ」



✴︎



ヘスティア

「話は済みましたか?」


ディン

「うん!あぁ涼し…」


門番

「えっと…どうされますか?」


ディン

「ん?入るよ。誓約書署名するから出して」


門番

「本当によろしいのですか…?」


ディン

「本当にいいの。あ、これ本人が書かないとダメなやつだよね?」


門番

「は…はい…」


ディン

「ほい。ほらルーくん!持って!力入れちゃダメだよ。ボクの前屈んで」


ルーク

「こう?」


ディン

「そ!はい書くよ〜?」



ディンがルークの左手を取り、筆を握らせた。



ルーク

「これぼくが書いてることになるの…?」


ディン

「こういうのは本人が書く意思がある!っていうのが重要なんだよ!気持ち気持ち!」



門番の人が何をしてるんだ…と引き気味である。

隣でヘスティアが呆れながらサラサラっと署名している。



ディン

「よしおっけい。はい3枚ね」


門番

「は…はぁ…確かにお預かりしました…。手荷物検査の後、許可証をお渡ししますので…」



門番が立ち上がり、3人の身体に軽く触れながら、飲食物がないか確認する。


門番

「おや、これは?」


ディン

「これ?笛だよ笛」

 


ディンの首にかかっている笛のような形をした首飾りが門番の目に止まった。


ディン

「見てもいいけど何もないよ。ただの笛」


門番

「失礼しました。不思議な形をされていたので」


ディン

「いいよ別に」


ルーク

「それずっと持ってるよね」


ディン

「まぁね」


ヘスティア

「装飾品とか興味あったんです?」


ディン

「ないよ。貰い物」



3人の手荷物検査も済み、いよいよ商業区域へ。

重そうな門が、開門した。



ディン

「ルーくん、走らないの〜」



門をくぐるとトンネルのようになっており、暗かった。

ルークはすごーい!と出口に向かって駆けた。



ヘスティア

「……記憶消去する薬なんてあるのでしょうかね」


ディン

「さぁ。まぁ魔術ならボクたちが効かないし。薬ならルーくんが効かないし、大丈夫でしょ」


ヘスティア

「個人差があるらしいですよ」


ディン

「ボクたち殺されちゃったりしてね」


ヘスティア

「薬品なら相当やばそうな薬ですし、ありえますね」


ディン

「用事済んだらさっさと帰ろ」



ぐわぁん…



ディン

「ん?」


ヘスティア

「おや…」



トンネルのちょうど中間あたりで何か違和感が襲った。



ディン

「……後で謝ろ」


ヘスティア

「ロアが言ってたのはこれですか。ずいぶんと凝った術式ですね。何をそんなに隠したがっているのでしょう」


ディン

「逆に興味湧いてきたなぁ」


ヘスティア

「常に展開するのには魔力消費が大変そうですが…相当な魔法使いでもいるんですかね」


ディン

「さすがにそれだとロアが気付きそうだけど」


ヘスティア

「確かに…」



コツコツ…と3人の足音がトンネルに響いた。

光が近くなり、トンネルを抜ける。

トンネルの先には何があるのか。

何が隠されているのだろうか。



✴︎✴︎✴︎


【小話】

魔神族は、もともと生息していた世界が常に暗い世界だったため、明るいが苦手なようです。

真っ暗というわけではなく、月明かりくらいの明るさが常時でした。

『アルスダリアの祈り』第29話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。


内側には一体何が…?

ルークはプロジオンと無事に会えるといいね。

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