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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK6 「Potent」
23/23

TRICK 6-3

《何の変哲もねえ、ただの部屋だな》

 開口一番火炎が言う。

 放課後予定通り理科室にたどり着いたミヤビたち。授業で何回か来た事があるけれど、薬品のかすかな臭いと、夜に見たら怖そうな人体模型。

 割れ物が並べられた棚を見て、壊れたり亀裂が入ったりしていないのを見ると、ここで戦闘があったようには思えなかった。

 しかし、霜村静文はここで倒れ、その倒れたはずの静文から、藍沢はガーディアンsimを受け取った。

 2人とも、嘘を言うような人間ではないわけだから、恐らく事実だろう。

 けれど、痕跡も何もないのはどう言うことだろうか。

「ここで戦闘があったようには見えないな」

「恐らく、二ノ宮さんが言っていた、認知空間の影響じゃないかしら?」

 茨城の研究所に行く途中に聞いた、二ノ宮さんからの情報。

「……そうか。ガーディアンの空間に無理矢理引きずり込む事で、現実空間の痕跡は何一つ残らないって事か」

「多分ね。私が見た霜村静文が、そういう影響を受けているかどうかは、確証が掴めないけれど」

 他に何か、手がかりになるようなものを見渡す。

 すると、天井に取り付けてある監視カメラに目が止まった。

「学校に、監視カメラ……」

「明らかに生徒を信用していないわね。ハンターフォンのマニュアルに書いてあったけれど、校内は至る所に監視カメラが設置してあって、誰もいない教室で誰かが悪さをしていないか、見張っているそうよ」

「なるほど」

 バイク通学なんて隠れてもすぐ見つかるな。と心の中で思うミヤビだった。 

 けどそれがあるならば、証拠がつかみやすいかもしれない。

「これ、映像見られないかな?」

「先生に聞いてみないと無理ね」

「許してもらえるかどうかだな」

《俺がひょいっと潜ろうか?》

 火炎がそう口にすると、

「君が潜るって、ハッキングするってことか?」

《おう!任しとけ!》

「不安ね。すぐ足がつきそう」

「それには同意だ。AIでもログはつくわけだし、火炎みたいなタイプは隠密行動に向いていない気がする」

《おいおい信用ねーな》

「多分可能だと言うことは何となく分かるけど、どうやって突破するんだ?」

《突き破る!!》

「ばればれでしょ。AIの発信源が突き止められて、発信源である水無君のハンターフォンにたどり着いたら、不正アクセスで検挙されて、停学待った無しってとこね」 

《ちぇっ、忍者みたいな奴がいればなあ》

「忍者……ね」

「どうした?」

「あ、いえ。全然関係ないのだけれど、アメリカに留学していた頃の事、思い出して。向こうで、日本にまだ忍者がいるって、本気で思っていた同級生がいたなって」

「そうか。外国人の日本に対するイメージって、そんな感じが多いよな。しかし、証拠があれしかないとなると、何とか映像を見てみたい気がするけど」

「待って。ひょっとしたらだけど」

 藍沢はふと気づいて、おもむろにハンターフォンをいじり始めた。

 何か、思い当たる節があるのだろうか。

「やっぱり、校則にあったわ。監視カメラに関する校則」

 校則にそんなことまで書いてあるのか。と思った。

 監視カメラに関する校則には、こう書かれていた。

静華灯光学園の全教室は、監視カメラで24時間監視されている。録画映像の閲覧権限は、教師及び生徒会にある。と書かれていた。

「つまり、生徒会に頼めば良いってことか」

「けど、見せてくれるかしらね。なんて説明するつもり?」

「それは……」

「私に考えがあるわ」

「え?」

「入ればいいのよ、生徒会に。そうすれば合法的に閲覧できるはずよ」

「いい案だとは思うけど。うまくいくかな? 生徒会って選挙に出ないといけないんじゃ?」

「分からないけれど、この校則には生徒会とだけ書かれている。その役職を限定してはいないわ。つまり生徒会自体に入っていれさえすれば、閲覧することができる。生徒会自体は先生と生徒会長に入る意思を伝えれば、入れてもらえるはずよ」

「なるほど」

 藍沢の考えは一理ある。

 権限がなければ、つけてもらえばいい。

 しかし、ミヤビは生徒会はやりたくなかった。

 それに一つ、気になることがある。

「いいのか? 面倒ごとが増えるぞ」

「面倒? いいのよ。まずは動いてみないと、わからないでしょう。それに私、生徒会長になりたいし」

「そうなのか」

 彼女の目標を、初めて聞いた気がする。

 ポジティブな心意気に、自分にはこう言うのはないな。とミヤビは思った。

 生徒会なんて、面倒事が増えるという印象しかない。 

「ええ。藍沢を継ぐ身としては、学校組織の自治もこなせなければ、会社を任せてもらえないだろうし。そうと決まれば行くわよ」

「え、俺も行くの?」

 

 藍沢とともに、職員室へ向かう。

 ただカメラ映像を見せてもらうだけなのにと、ミヤビは内心思いながら、

担任の霧島の席へ。

「あら、どうしたんですか」

 相変わらずの丁寧口調で落ち着いている。この人が焦るところを見たところがない。

 この冷静さは自分も見習うべきだといつも思う。

 他の先生の机と比べ片付いており、物も少ない。

「先生、いまお時間よろしいですか?」

 藍沢が話を切り出す。

「かまいませんが」

「ちょっとご相談したいことがありまして。私、生徒会に入りたいのですが」

「生徒会。ですか。かなりありがたい話ですが、今の状況を何方かから聞いていますか?」

「いえ……」

「まあ転校してまだ間もないですからね。いいでしょう。今の静華灯光学園高等部の生徒会は、2人しかいません。もう1人はほぼ活動していない状態ですし」

「2人!? もっといるのかと思ってました」

 確かに。こんなに生徒会の人数が少ないのも珍しい。

「人気がないんですよ。生徒会業務はほとんどうちのITシステムで片付いていますし。今の生徒は学校よりバイトや部活、塾重視ですからね。この前もやめた生徒なんか、お金がもらえたら考える。といった理由でやめていますし。私も強制はできませんから、なんとも言えません」

「お金……ね」

「まあそれはさておき、生徒会に入ってくれることはいいことです。ただメンバーと対面してみて、入るかどうかを決めたほうが良いかと思います。その、かなりクセの強い生徒がひとり残っているので」

 霧島は苦笑いする。

 よほど変わった生徒なのだろうか。

 話によると、今日も生徒会室にいるそうだから、会って直接話すことになった。


 生徒会室はクラブ棟の3階にあるようだ。

 エスカレータを登り、生徒会室の前へ。

「ここです」

「いかにもって感じだな」

 剥がれた掲示物。妙に暗い廊下。

 とてもそこに人がいるなんて思えないほどの状態になっていた。

 電気の明るさは同じはずなのに、窓一面に黒いフィルム。

 異様な空気が漂っている。

「周防くん、入りますよ」

「なんや先生。ワシは忙しかとよ」

 第一声からあまり歓迎されていない口調で話す男子生徒の声。しかし一人称がワシって。おじいちゃんか。

 藍沢とミヤビが生徒会室へ入る。少し埃っぽく、手入れもされていない。

 部屋は広く、普通の教室と変わらないぐらいの広さだ。

 そこに6枚のディスプレイを目の前にしてキーボードを叩き続けるシルエット。

 横周りに体格がよく、一瞬一回り上のおっさんかと思ったが、ちゃんと静華の制服はつけているようだ。

 水無と霧島は咳き込んでしまうが、藍沢はポケットから使い捨てマスクを取り出し、装着した。

 用意がいいな……。

「はじめまして。2年の藍沢美月といいます。」

「同じく2年の水無ミヤビだ」

「ワシは周防太郎。1年生じゃ」

 とても1年とは思えないその体格と口調に、ミヤビは少し驚いた。

 椅子を回転させ、どっしりと構えるその姿は、敏腕ハッカーのようだ。

「あら、後輩なのね」

 美月はそのまま話を続ける。スルースキルというか、なんというか。

「なんの目的でここに来た?」

「生徒会に入るためよ」

「ケッ。やめとくんだな。おすすめしない」

「どういうことよ?」

 霧島は笑顔のまま、大丈夫そうですね。終わったら声をかけてくださいと言ってそのまま生徒会室を立ち去った。ミヤビは逃げたな。と内心思いながら、周防との会話を続ける。

「……さっき、霧島先生は生徒会のこと、なんて言おったと?」

「貴方1人と、もう1人しかいない生徒会って」

「そのもうひとりについては?」

「何も」

「そうか」

「その一人、何かあったのか?」

「先輩らに話す義理はなか。ワシは忙しかけん、邪魔するならさっさと帰れ」


 そう、周防が言った瞬間。

 周防の目の前のPCが、突然赤く光り始めた。


 ――Peeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!


 そして、ほぼ同時に周防のスマートフォンからモスキートノイズが。

「……ついに来たか!!」

「藍沢、離れてて」

「ええ」

 藍沢は生徒会室の後ろの方へ。

 戦う準備をするミヤビの前に、周防がハンターフォンを持って立つ。

「先輩ら離れとけ。ここはワシがやる」

「どういうことよ?」

 そうして周防が取り出したのは、一枚のsimカードだった。

 そこには、Aqua Ninja と書かれているカードが。

 赤い画面から、這いずり出す怪物の手。

「召喚ッ!!!!!!」

 周防はsimカードをハンターフォンに差し、床に落とした。

 しかしハンターフォンは何も反応せず、赤い画面のままだ。

「くそっ!! ワシには何もできねえのか、先輩ら逃げろ!」

 ミヤビはハンターフォンを取り出し、カエンに話しかける。

「……カエン、いくよ。周防、離れてて」

「は?」

《おうミヤビ。いくぜ~》

 ミヤビはハンターフォンのアプリを起動し、五芒星の火アイコンをタッチする。

[BREAK OUT SYSTEM Ver.α]

[Loading…]

[使用者生体認証システム作動]

[認証完了。ユーザー名『ミズナシ・ミヤビ』、登録済みユーザーです。BREAK AVATOR -Flame Blade-,の設定ユーザー一致を確認。アバターデータをサーバーより読み込み中です。]

[読み込みが完了しました。ハンターセレクト画面を起動します]

《Select of Hunter!!》

テンションの高い機械音声とともに、表示されるアイコンをタップする。

《Flame Blade READY?》

「なんや、先輩……あんたハンターか!?」

 周防が驚く。

「ブレイクアウト」

ミヤビはハンターフォンを高く上げ、呟き、床にたたきつけた。

《OK! Break Out!! 》

 ハンターフォンは粉々に砕け散り、人形の形を形成する。

《Flame Blade Version1 燃エル・ココロ・叫ブ・アッツイターマーシィ!!》

 ノリのよい音楽とともに召還される人型。

 燃えるような赤い髪。黒いマント。

 召喚と同時に、ガーディアンもその姿を現した。




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