第三話 違和感の授業
天城学園・普通科棟。
入学から一週間。
教室にはすでに「日常」ができ始めていた。
席順。
グループ。
話す人と話さない人。
その中で、神代玲司は窓際の一番後ろにいた。
特に理由はない。
強いて言えば、誰にも話しかけられにくいからだ。
それでいいと思っている。
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教室前方では、霧島隼人が既に数人と話していた。
入学三日目にして輪の中心にいる。
ああいうのは才能だ、と玲司は思う。
自分にはない種類のものだ。
そしてその視界の端に、もう一人。
九条アリス。
彼女は一番前の席で、ただ静かに座っていた。
周囲とは一切関わっていない。
関わる気もないように見える。
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「では出席を取る」
教師の声が響く。
淡々とした日常。
そのはずだった。
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だがその授業の途中で、それは起きた。
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「今日の課題は簡単だ」
教師はそう言って黒板に手をかざした。
すると空間にホログラムが浮かび上がる。
立体的な都市模型。
「この都市の防衛シミュレーションを行う」
ざわり、と空気が揺れた。
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玲司は小さく目を細める。
入学したばかりで、いきなり実戦形式。
やけに早い。
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「各自、演算リンクを接続」
教師の言葉と同時に、机に埋め込まれた装置が起動する。
生徒たちの意識が一瞬だけ引っ張られる感覚。
玲司も例外ではない。
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(またこれか)
頭の奥がわずかに重くなる。
この感覚は好きではない。
自分の思考がどこかに接続される感じ。
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視界が変わる。
教室はそのままなのに、都市模型が現実のように見えてくる。
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「防衛対象はこの都市中心部」
「敵性演算体の侵入を想定する」
教師の声が遠くなる。
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その時だった。
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玲司は違和感に気付く。
都市のデータが一部だけ空白になっている。
バグではない。
“意図的な欠落”。
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隼人が小さく呟く。
「なんか嫌な感じするな、これ」
珍しく真面目な声だった。
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アリスは何も言わない。
ただ、じっと都市データを見ている。
まるで“向こう側”を見ているようだった。
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数秒後。
アリスが小さく呟く。
「入ってくる」
玲司は視線を向ける。
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「何がだ」
アリスは答えない。
その代わりに、都市モデルの一点を指差す。
そこは本来存在しないはずの領域だった。
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その瞬間。
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都市モデルが“揺れた”。
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いや、違う。
揺れたのではない。
“侵入された”。
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警告音が鳴る。
教師の声が変わる。
「シミュレーションを一時中断──」
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だが遅い。
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都市の一部が黒く塗りつぶされていく。
まるで何かに“食われる”ように。
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隼人が立ち上がる。
「おいこれ訓練じゃないのかよ!」
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玲司は立ち上がらない。
ただ見ている。
情報を整理している。
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(訓練にしてはリアルすぎる)
(バグにしては規模が大きい)
(意図的だとしたら──)
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そこまで考えた時だった。
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アリスが小さく言った。
「これ、違う」
玲司は視線を向ける。
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「何がだ」
アリスは一瞬だけ迷うように沈黙してから言う。
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「“訓練じゃない”」
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その言葉と同時に。
都市が完全に沈黙した。
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そして。
教室の照明が一瞬だけ落ちた。
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次に灯りが戻った時。
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生徒の一部がいなかった。
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誰もそれにすぐ気付けなかった。
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玲司だけが、違和感としてそれを認識していた。
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(消えた?)
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隼人が叫ぶ。
「おい!今誰かいなくなって──」
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教師の声が途切れる。
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そして、静寂。
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アリスが玲司を見た。
初めて“揺れた目”だった。
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「理解不能」
その言葉はいつもと同じなのに、重さが違った。
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玲司は小さく息を吐く。
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(これは面倒だな)
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だが同時に。
ほんの少しだけ。
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気になっていた。




