01話 島流し生活初日
「ぼくは無実なんです!」
とてつもない暴風雨に見舞われて、大雨が降りしきる中、船は島に到着。
ぼくたち10人の男は船から岸へとおろされた。
嵐のせいで船はぐわんぐわん揺れて、気分は最悪なんだけど、今は弱音を吐いてる場合じゃない。
どうにかして、ぼくの無実を信じてもらわなくちゃ。
「お願いします。ぼくをここへ置いてかないでください!」
「うるせえ、黙れ!」
屈強な警察官にどかんと蹴られて、ぼくは転がる。
あぶない、あぶない!
あとちょっとで海の中に落っこちちゃうところだったじゃん!
だけど警察官はぼくにあわれみなんて向けてくれないし、それどころか唾を吐いて、
「罪人がごちゃごちゃ喚いてんじゃねえ!」
「違う……ぼくは本当に罪を犯してなんて――」
「じゃあなんで有罪になったんだ?」
「裁判官がぼくの話をきちんと聞いてくれなくて、それで――」
「ふん。そんな怖がることはないだろ。なんたって、お前は……」
警察官は警棒でぼくの顔を撫でる。
「こんなかわいい顔してるんだからよ。この島には頼もしい罪人がいっぱいいるんだぜ。そいつらに体でご奉仕すりゃあ、悪いようにはされないだろう」
「ひいぃ」
「たっぷりかわいがってもらえよ」
にやりとわらって、警察官は船の扉を閉めた。
そして船はぽーっと大きな汽笛を鳴らして、島から遠ざかっていった。
岸に残された10人。
みんな、ぼくと同じように、
(悲しい想いに包まれてるのかな……)
と思ったら大間違い。
「脱走しようぜ」
島に到着して早々、もうこんな話を始めたやつがいる。
他の人たちは真面目に受け取らず、へらへらしてるだけ。
そのうち言い出しっぺはイライラしだした。
「どうした? 何をぐずぐずしてんだ? 行かねえのか?」
「行きたきゃ行けよ」
「俺は本気だぞ」
「ははは」
「意気地なしどもめ」
男の一人が海に飛びこんだ。
嵐で海は荒れている。
大丈夫かな?
大丈夫そうなら、ぼくも一緒に逃げちゃおうかな?
だけど、みんなげらげら笑ってる。
「バカだな。本当に飛びこむなんて」
何がそんなにおもしろいんだろ?
その謎は次の瞬間に解けた。
「あっ!」
泳いでる男の近くで、大きな生き物が海面から顔を出した。
クジラでもないしサメでもない。
形は細長くてアナゴっぽいんだけど、その大きさが尋常じゃない。
水の上に出ているだけでも10……いや20メートルはあるんじゃないかな。
そいつが、脱走中の男を一口で丸呑みしちゃった。
「生で見る魔物は迫力が違うな」
ぼく以外の犯罪者は口笛を吹いたり、大声をあげて笑ったり、目の前で人が食い殺されたにしてはやけに平気な様子。
ぼくなんて体が震えちゃってるよ。
言葉も出てこない。
(おしまいだ……)
絶望した。
あんな巨大な魔物がいるんじゃ、泳いで逃げるなんて絶対にできっこない。
ぼくはもう一生この島から出られないんだ。
人生終了。
ああ……。
「あー、おもしろかった」
ぼく以外のみんなは平然とした面持ちで、
「んな簡単に脱獄できりゃ島流しなんて成立しねえっつーの」
「あいつ、ここが異世界島だってこと忘れてたのかな?」
「なあ。いつまでもここで雨に打たれてたら風邪引いちまう。どっか雨宿りできるところ探そうぜ」
「だな」
「お前も来いよ、お嬢ちゃん」
犯罪者の一人がぼくの腕を引っ張った。
お嬢ちゃんじゃないんです、なんて訂正する気力も湧いてこない。
ぼくたちは移動を始めた。
海岸のすぐ近くは森になってて木がいっぱい生えてる。
とりあえず木の下に行くと、葉っぱが屋根の代わりになってくれて、少なくともさっきよりはましになった。
だけど……
「不気味だな……」
9人全員が同じことを思ってるみたい。
そうだよね。
薄暗いし、変な鳴き声とか聞こえてくるし、見たこともない植物が生い茂ってるし。
「てか、やろうぜ」
「え?」
ぼくをここまで引っ張ってくれた男がズボンを下ろし始めた。
な、何?
何がおこなわれようとしてるの!?
「さっき、おまわりも言ってたろ? 頼もしいおじさんにご奉仕しろってさ」
「あ……」
そういうことか。
もちろん、
「嫌です……」
「じゃあお前今日からここで一人で生きていけんのかよ?」
「う……」
「自業自得なんだよ。罪を犯したから島流しにされたし、これからめちゃくちゃにされるんだよ」
ズボンの次にパンツが下ろされ、モノがあらわになる。
ヤバイ。
ものすごい状態になってる。
これ絶対ぼくを壊す気満々じゃん。
(考えてみれば……)
この人たちは犯罪者なんだ。
どんな罪かは知らないけど、とにかく危険なやつらなのは間違いない。
いたいけな中学生をオモチャにしちゃうくらい朝飯前なんだろう。
でも、ぼくは違う。
「無実なんです!」
「よく言うぜ」
別の男が言った。
この人は地べたに座りこんでいて、ズボンを下ろしてはいない。
ぼくを見つめて、
「ニュースで見たぞ。あんただろ。元アイドルの殺人鬼ってのは」
途端に空気が一変する。
みんなのぼくを見る目が変わる。
「かわいい見た目と違って、えぐい罪状なんだな」
「そりゃ島流しにされるのも無理ないだろ。何が無実だ、バカが」
「俺なんてたかが窃盗で島流しなんだが? おかしくねーか?」
「初犯じゃねーからだろ」
「何でもいい。とにかく俺はやるぜ。島流しの判決が下った時は、もう二度と女にありつけないと思ってたが、ついてる」
「ああ。そいつ、ついてるよ」
「あ?」
「ちんぽ。そいつ男だから」
「!?」
またみんなの目の色が変わった。
大きく目を開いて、上から下までじろじろとぼくを見る。
ぼくが男だって信じられないみたい。
まあ、でも自分で言うのもなんだけど無理ないよね……。
髪は長いしセーラー服とスカート着用だし。
「マジかよ……女にしか見えねえ……」
もろ出しにしていた男のモノがみるみるうちに萎えていく。
「いくらかわいくっても男じゃなあ……」
バイじゃないんだ。
よかった~。
露出男は周囲から、
「その汚ねえモノをさっさとしまえ」
となじられる。
「いや、ついでだから小便するわ」
「離れたところでやれよ」
「ちっ。うっせーな。そんくらい言われなくてもわかるっつーの」
と、男はぶらぶらさせながら二、三歩あるいて立ち止まった。
当然、他の犯罪者連中からブーイング。
「おい。もっと向こうでやれよ」
「……」
「……おい?」
返事がない。
どうしたんだろ?
心配してたら、彼は後ろ向きに倒れた。
「なっ……!!」
ぼくも含めて8人全員が青ざめた。
「首から上がなくなってやがる……」
そして血がぴゅーぴゅー噴き出てる。
おしっこを垂れ流してる。
完全に死んでるんだけど……どうして?
誰かが気づいた。
「いるぞ……すぐそこに……何かが!」
はっとした。
本当だ。
ただでさえ曇り空で、しかも木々がたくさん生えてるせいで、ここはずいぶんと暗い。
見通しの悪さは闇の中にいるのと変わらないかもしれない。
だから、こんなに接近されるまで気づかなかったんだ。
でも今はわかる。
「はう……はう……」
濃厚な息づかいがすぐそこから聞こえてくる。
やがて闇の中から姿を現したのは3つの顔を持つ巨大な犬。
さすがにこれはぼくでも知ってる。
「ケルベロス……!」
普通なら、そんなの創作の中にしか存在しない。
でも、この島にならいてもおかしくない。
だって、ここは異世界島。
犯罪が多発して刑務所がパンクしてるからって理由で、政府が造り出した、犯罪者を収容するためのファンタジー空間なんだから。




