君が愛想を振り撒く悪夢。
郭の国を入れての税率の再計算、郭の国にあった優良な法の導入など、最近は非常に忙しい。さらに、連日他国の重臣たちがやって来る。当然、遷は接待をしなくてはいけないし、王の謁見の時も、傍に控えなくてはいけない。毎度毎度、王への助言もしなくてはいけない。
最後に寝たのはいつだろう、と考えたまま、未だに解けない緊張感と、疲労による脱力感を抱えながら執務室に戻ると、補佐の炎がお茶を入れて待っていた。いつものように、黙ったままだ。軽く礼を言い、深い味のするお茶を飲む。頭は重いが、湿った暖かい空気は心地良かったし、お茶も毎度の事ながら美味しかった。
しかし、いつもは自分の仕事に戻ってしまう炎が、今日はずっとこちらを見ている。何かあるのかな、と思って、口を開こうとすると、炎は私に尋ねた。
「疲れているのですか?」
お世辞にも、敏感だとは言えないような炎に、気付かれるとは、余程疲れた顔をしていたのだろう。炎の声は決して優しいものでは無かったが、いつものように、真剣な声だった。
「ありがとうございます」
思わず口元が緩む。私がそう言っても、炎はにこりとも笑わなかったが、私の顔を再び見て、口を開いた。
「何か甘い物でも持ってきましょう」
炎は、そう言って、すたすたと部屋を出て行こうとした。私はあまりの炎の気遣いに、開いた口が塞がらない。炎が私を気遣ってくれるなんて、どれだけ私は疲れた顔をしているのだろう。
「ある意味悪夢ですね」
あまりの思いに、思わずそう言ってしまうと、扉に手をかけていた炎は振り返った。
「何か言いましたか」
きょとんとした顔で、首を傾げる炎に、私は笑いをかみ殺すようにしながら、何でもないですよ、と答えた。