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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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焼きプリンが食べたい

今日、美智果が熱を出した。朝、いつも見てるアニメが始まる時間になったから起こしに行っても起きられないようだったから熱を測ったら三十九度あった。


美智果がこんな風に体調を崩すのは、最近では珍しいことだ。


小さい頃はよく熱を出して、しかも一週間くらい長引くなんてことも年に何度かあった。元気だけど一度体調を崩すと長引くというのが彼女の特徴だった。


だけど不思議なことに、母親が亡くなってからはそういうことが減っていた。単純に成長したことで免疫が高まったからかもしれないけれど。


その珍しいことが起こった。


日曜日だからかかりつけの医院は休診日だ。熱は高いけど様子を見る限りでは割と落ち着いてるからそんなに心配する必要もないかもしれない。


水だけは枕元に置いていつでも飲めるようにして、僕は寝ている美智果を背に仕事を始めた。うなされたりとかするでもなく、彼女は静かに寝てる。


ただ、トイレに起きる時は辛そうだ。食欲もなくて朝も昼も何も食べなかった。


『もし、この子がこのまま死んでしまったら……?』


そんな不安が頭をよぎるけど、取り乱したところで治る訳じゃない。僕はただ、彼女の様子に注意しながら傍にいてあげるだけだ。


こういう時、とても不安な気持ちになると思う。その時にすぐ傍にいてくれるだけでも安心するんじゃないかな。


僕が小さかった頃にこうやって熱を出した時、父親も母親も傍にいてくれた記憶がない。部屋で一人寝かされて、薬も枕元に置いてあっただけなのを思い出す。


もし、そこで父親や母親に対する信頼があればまだマシだったかもしれない。だけどその頃にはもう、そんなものは殆どなかった気がする。だから何とも思わなかった筈だ、何とも思わなかった筈なんだ。


だけど、たまらなく不安だったのだけは覚えてる。


僕は、美智果の不安を取り除けてるだろうか……?


熱が高いから昼前に市販の解熱剤を飲ませてあげたら、三時過ぎくらいに、


「パパ…焼きプリンが食べたい……」


って。


甘いものはあまり好きじゃない美智果だけど、焼きプリンだけは何故か好きだった。焼いたことで香ばしさが増してるからかもしれない。


「分かった。買ってくるから待っててね」


そう言って僕は、念の為に家の電話の子機を美智果の枕元に置いて何かあったら救急車を呼ぶように言って、家を出た。


『もし、僕が帰ったら美智果が死んでいたら……』


そんな不安も感じつつ、僕はスーパーで焼きプリンを買って家に帰った。


「ただいま」


「…おかえり…」


布団の中で赤い顔をして辛そうだけど、美智果がそう応えてくれたのだった。



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