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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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自分にできないことを

プライベートでだらしないのはいいんだ。公の場所でも別に完璧でなくてもいいんだ。僕だってプレイべートではだらしなく緩みきってしまいたいし、公の場だからって完璧でもない。礼儀作法も知らないし、マナーだって完璧じゃないと思う。


だから逆に、他人に対してもそういうのを求めないだけなんだ。自分にできないことを他人にも求めたくないだけなんだ。


そうしてれば何となく女性と付き合えて、妻と出逢えて、結婚して、美智果も生まれた。その中ではお互いに不平不満もなかった訳じゃないけど、お互い様だと思えば受け流すこともできた。


ただ、妻の場合は、自分の命の期限が切られたことで、<お互い様>とは思えなくなっちゃったみたいだけどさ。


『自分は死ぬのに、あんたは生きてられるのか!?』


ってことかな。これは、とても大きい不公平だ。僕もいずれは死ぬけど、少なくとも今はまだ『余命何ヶ月』とか言われてないし、この差は途方もなく大きいと思う。その現実の前に妻の心が壊れたとしても、僕はそれを責める気にはなれない。僕は妻の気持ちを本当に理解することはできないから。


自分の気持ちは他人には理解できない。他人の気持ちは自分には理解できない。この事実を受け入れられるようになると、すごく楽になると思う。


よく、死刑反対を唱えてる人に対して、『そんなこと言っててもお前らも家族を殺されたら手の平返すんだろ』とか言ってるのがいるけど、そんなの、当然だと僕は思ってる。むしろ逆に、自分の家族を殺されてもいないのに、遺族の気持ちが分かるとか遺族の気持ちを代弁してるとか思ってる人間の方が、遥かに気持ち悪い。嘘臭い。


だって、僕自身の事情から想像してみても分かる。


もし、美智果が殺されたりしたら、僕はその犯人を許さないだろう。死刑にしてほしいどころか、自分の手で殺すことを望むだろう。それは間違いないって感じる。


だけどその一方で、もし、父親が誰かに殺されたとしたら、たぶん僕は、何とも思わない。犯人を憎いとも、復讐したいとも、殺したいとも、死刑にしてほしいともきっと思わない。たとえ母親が殺されても、そこまで犯人を憎めないんじゃないかな。


それが答えだよ。


僕にとって父親は、いくら血が繋がっていても大切な存在じゃないから。『遺族』なのは間違いなくても、別に犯人が死刑になってもならなくても、きっとどっちでもいい。


でもきっと、世間の、正義を振りかざす人間は、そういう場合でも遺族である僕の気持ちを勝手に斟酌して『死刑にしろ!』って言うんだろうな。


ほら、これだけでも、『遺族の気持ちなんて分かってない』ってことが分かるじゃないか。


だってさ、遺族が損害賠償請求を起こしたら、今度は遺族を叩きだすんだよ? 気持ちが分かるなら、そんなことする筈ないのにさ。



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