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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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可愛げのない子供だったから

母も、母の内縁の夫である男性も、美智果のことが可愛くて仕方ないらしい。その気持ちは分かる。美智果はすごく可愛い子だから。むしろ当然って気もする。


それに加えて、母にとっては、自分が育てた僕との違いも実感するっていうのもあるんだろうな。何しろ僕はとにかく可愛げのない子供だったから。


当時の僕は、母の顔をまともに見た記憶がない。見るのが嫌だったんだろう。顔を合わせて話すということがなかった。そもそもまともに話し掛けもしなかった。母が僕を見なかったからだと思う。怒鳴られたり叩かれたりってことはなかったけど、いっつも忙しそうにして仏頂面で、それこそロクに笑顔を見た記憶がない。だからたぶん、僕の方もそういう母の表情を真似してたんだろうって気がする。


それに比べて、美智果はよく笑う。表情も明るく物腰も柔らかい。朗らかで、まるで彼女自身が光を発してるようにさえ見える。笑顔で話をしてくれる。僕が美智果の顔を見ながら笑いながら話し掛けてたのを真似してくれてるんだと思う。それだけで子供の頃の僕とはまるで違う。


「親の接し方が違うだけでこんなに違うもんなんだね…」


美智果の姿を見ながら、母がしみじみといった感じで言う。自分が僕に接してた時のそれと比べてるんだろう。


「もっとちゃんとあんたの顔を見てあげればよかったと思うよ」


申し訳なさそうにそう言う母だけど、そんな風に思えるその姿勢を、僕は母から学び取ったんだろうな。自分の接し方に祖語があったことを、母は認められる人だった。


「母さんがそうやって自分を省みることができる人だったから、僕はそれを活かせたんだよ。ちゃんと母さんのやってきたことが繋がってるんだ」


「そう言ってもらえるとホントにありがたい。自分が生まれたことが無駄じゃなかったって思えるから」


「無駄じゃないよ。僕が無駄にしない。母さんがいてくれたから美智果もいるんだからさ」


こうやって帰省する度に、そういう話をする。毎度毎度のことだけど、こうして言葉にするのが大事だと思うんだ。『言わなくても伝わる』なんて、感じ取ってる方が言うことだ。伝わってほしいと思ってる方が言うことじゃない。僕はそう思う。伝わってほしいと思ってる方がそれを言うのは、ただの怠慢だし甘えでしかない。だから僕は美智果にも伝える。伝わってほしいと思ってることはちゃんと伝える。


好きだ。


愛してる。


生まれてきてくれてありがとう。


僕と母は声を揃えていった。


「これからもよろしくね、美智果」



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