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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
180/201

大人としてわきまえている

「お祖母ちゃん! 来たよ~!」


僕の実家の玄関を開けて、美智果が元気よくそう挨拶した。


「あらあらいらっしゃ~い」


僕の母が、美智果のお祖母ちゃんが、相貌を崩して迎えてくれた。


「大変だったでしょ~? 疲れてない?」


「大丈夫だよ!」


まがうことなき<お祖母ちゃんと孫>のやり取りだった。美智果はお祖母ちゃんのことも好きだった。ママ、パパ、お祖母ちゃんの順で。


でもそれは仕方ないのかな。普段は傍にいないし。あと、僕が感じている母との溝を、美智果も何となく感じ取ってるのかもしれない。


でもそれは、面と向かって言い合いをしなくちゃならないほどのものでもない。たとえ実の親子であっても相手は自分とは違う人間。何もかもが自分の思い通りになる訳じゃないってことを、僕も母も分かってる。だから自分の都合ばかりを押し付け合うことはもうしない。


「お~、いらっしゃい」


「こんにちは、お世話になります!」


奥の部屋から出てきた七十くらいの男性にも、美智果は笑顔で挨拶をした。


実は、母が住んでるから体裁上は僕の<実家>ということになってるけど、本当は違う。実際にはこの男性の家だ。だけど、その男性と母は、<結婚>はしていない。<事実婚>というやつだ。


これまでいろいろと男に騙されてきた母は、敢えて法律婚を選ばずにこの男性と一緒に暮らしている。その関係はおおむね良好で、今までで一番、安定して関係が続いてるようだった。僕の実父とは十年足らず。他は数年だったにも拘わらず、この男性とは既に二十年ほどになる。だから僕も、敢えて何も言わない。


母とその男性は、ある意味ではお互いに<同居人>と割り切って一緒に暮らしてる。法律上の権利を敢えて求めず、お互いに相手が亡くなっても相続などは一切求めない、亡くなった時点で関係は終わるという形で合意した上での同居だった。


そうは言ってももう二十年も一緒にいれば事実婚として認められるだろうけど、それでも敢えてと決めているからこそ上手くいってるんだろうなと思ってる。


けれどその男性も、美智果のことを本当の孫のように可愛がってくれた。


「ゆっくりしていったらいいからな~。なんだったら、うちの子になっていいぞ」


柔和な笑顔でそう言ってくれる彼のことを、僕もさすがに今さら<父>とは呼べないけれど、でも彼の人となりを感じれば、無駄に反発する必要も感じてなかった。彼の方も、必要以上に踏み込んでは来ない。そういう部分でもすごく助かっていた。


ちゃんと、『大人としてわきまえている』っていう気がするんだ。



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