ぶちのめしてスカッとする
『ムカついた奴を半殺しにしてスカッとする』
フィクションでは往々にしてそういう演出を見かける。
例えば、『マナーの悪い喫煙者をぶちのめしてスカッとする』とか、
逆に、『喫煙者にしつこく難癖を付けた嫌煙者をぶちのめしてスカッとする』とか。
僕はそういうこと自体に嫌悪感を覚える。だって、それを見てスカッとしてる時点で人を半殺しにする行為に快感を覚えてるってことなんだよ?。
ムカつく相手は半殺しにしていいって思ってるってことなんだよ?。
思ってるだけならいいかもしれない。実行に移さないのなら。だけど、そういう願望を持ってて、それを『別にいいだろ』って思ってると、酒を飲んで理性が低下するとか、イライラが募って爆発した時に実行に移してしまうんじゃないのかな。それで自分の人生を滅茶苦茶にして、家族の人生も滅茶苦茶にして、どうするつもりなんだろう。
こう言うと必ず、『思ってる人間が皆そういうことする訳じゃないだろ』って言うのがいる。でもそれは、『飲酒運転する人間が皆、事故を起こす訳じゃないだろ』と言ってるのと変わらないんじゃないかな。
そう言うと今度は、『飲酒運転は違法でも、思ってるだけなら違法じゃないだろ』って言うと思う。確かに違法じゃないかもしれない。だけど取り返しのつかないことになる危険性を高めるという意味では同じだと僕は思ってる。
『思ってる』だけなんだ。『思ってるだけなら別にいいだろ、文句言うな』って言うんなら、他人が思ってるだけのことに文句を言うのもおかしくないかな?。
それに、僕が言いたいのはそういうことじゃない。先にも言ったように、思ってるだけなら確かにいいかもしれないんだ。それを『こうでなくちゃ』とか肯定するのが危険だっていうだけで。
自分が思ってることを自分で肯定することで、その人の中ではそれが<正義>になってしまうことがあると思う。世の中の殺人とか暴行傷害とかの事件の多くが、そういう自分勝手な正義を実行したことで起こってる筈なのに……。
『マナーの悪い喫煙者をぶちのめしてスカッとする』人間も、『喫煙者にしつこく難癖を付けた嫌煙者をぶちのめしてスカッとする』人間も、僕は同類だとしか思わない。
僕は煙草を吸わないし美智果も煙草を嫌ってる。でもだからって、マナーの悪い喫煙者をぶちのめしてスカッとしようとは思わない。
それはただの暴行傷害だから。
その事実を無視して事件を起こして逮捕されて『自分は悪くない!』とか言いたくないから。