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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
114/201

辛気臭い感じでいるのはやめた

僕は、妻の葬儀が終わったその日からもう、辛気臭い感じでいるのはやめた。妻がいた時と変わらない感じで、病院に行けばまだ妻に会える感じで振舞った。美智果もそうしてくれた。


彼女を膝に座らせてずっと一緒にいた。さすがにこの頃はまだ一般にも評価の高い、子供でも安心して見られるアニメを一緒に見て、笑ったりしてた。


ただ、人が亡くなるようなのは意識して避けてた。この子がどういう反応するのか慎重に見極めたかったから。結構きついネタに走ったアニメで笑えるようになるのはずっと後になってからだ。この頃は、僕もそういうのを見るとイラっとしていた気がする。


遺骨も位牌も親族の方に引き取られたから、この家には妻を祀るようなものは何もない。ただ笑顔の写真を飾ってあるだけだ。ドールを購入したのはまだしばらく後だったし。


そんな中で、妻がまだ生きてるように振る舞いながら僕と美智果の生活は始まった。


美智果も、表面的にはこれまでと変わらない様子だった。けれど、テレビを視たりしてて人が亡くなるような話が出ると、表情がなくなって呆然となることが何度もあった。


その時に僕が声を掛けると、まるで言葉が分からないようなきょとんとした顔をしたまま、何の前触れもなく嘔吐したりってこともある。


でも僕は、慎重に注意深く見守りながらも、なるべく普通を、それまでと変わらない振る舞いをとにかく心掛けた。ママがいなくなったことで何もかも変わってしまうんじゃなくて、そのままの日常がずっと続いてる感じになるように。


そのやり方が正しかったのかどうかは分からない。だけど美智果も、時折様子がおかしくなることはあっても、基本的には笑顔を見せてくれていた。一人でお風呂に入れなくなったり、一人になるのを怖がったり、おねしょがぶり返したり、夜中に突然泣き出したりっていうこともありつつも。


だけどそのくらい、甘えたい盛りに母親を喪った子供だったら別に何も珍しいことじゃないと考えて、僕は敢えてその状態を当たり前として受け入れた。


一緒にアニメを見て、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝た。美智果を一人にはしなかった。


この子は今、ものすごいストレスの中にいる。大好きなママが亡くなったっていう、受け入れたくない現実を突きつけられている。そこに僕が改めてストレスを与える必要なんて何もないと思う。今、この子が曝されているストレスをこの子自身が処理しきれるまで見守ればいい。支えてあげればいい。


たぶん、そうすることが、僕自身の癒しにもなってたと思う。妻が亡くなったことにくよくよする暇もないくらいに美智果のことだけを考えて、その姿を見て、触れてきたからね。



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