表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
108/201

正直、無駄な努力をしていると思う

正直、無駄な努力をしていると思う。アニメやドラマみたいな都合のいい奇跡が起こらない限り助かる見込みもないことに抗うなんてさ。


でも、最後まで抗う気持ちを持たなければ奇跡も起きないと思うんだ。


まあ、その奇跡はついに僕たちの前には現れなかったけどね。


それでも、ただ死に近付いて行ってるだけでも、その中で小さな幸せは掴みたかった。掴ませてあげたかった。美智果との時間は、そんな小さな幸せの一つだったんじゃないかな。


僕に向かっては険しい顔をする妻も、美智果に対しては穏やかだった。だからこそ、美智果にとっての母親の姿は優しくて穏やかで温かいもののままでいられたんだろうな。それを貫き通してくれたことにはいくら感謝してもし足りない。


通夜や葬儀の時には涙一つこぼれなかった僕も、今、こうしてそれを思うと込み上げてくるものがある。もしかしてそれは、ようやく泣けるだけの余裕が生まれたってことかもしれないけどさ。


美智果に対しては『泣きたい時には泣いていいよ』と言う僕だけど、妻のことではずっと泣くことができなかった。なじられたことで憤ってたのもあるかも知れないけど、悲しかったのは事実なのに……


妻の命日が近い。それは、彼女がもういないという事実に他ならない。


そうだ。彼女はいない。もういないんだ……


ちくしょう…なんでだよ……! 何で彼女が死ななきゃいけないんだよ……! 彼女が何したっていうんだよ……


バカヤロウ……!


家族を亡くしたくらいでいつまでも不幸面するなと言う人間がいる。でも僕は、そんな御託には共感できない。大切な人を喪った痛みと苦しみは、自分が死ぬまで完全には消えてしまうことはないと思う。そんなことができてしまう人間が語る綺麗事とか、僕には何の価値もない。


僕の中には今でも彼女がいる。彼女の顔も姿も声も振る舞いも、何もかもがはっきりと思いだせるしここにある。


だけど…だけどやっぱり彼女はいないんだ。


なじられてもいいから、もう一度彼女の声をこの耳で聞きたいよ。


ひっぱたかれてもいいから、もう一度彼女に触れたいよ。


でもそれは絶対に叶わない。それが、人間が死ぬということ。死んだ人間は還ってこない。それは絶対の真理。


だからこそ命は大切なんだって分かる。簡単に捨てたり消したりしちゃいけないんだって分かる。後でどんなに泣いても悔やんでも絶対に取り返せないものだから。


彼女は美智果にとってとてもいい母親だった。そして彼女の死は、美智果にとても大切なことを教えてくれたんだと思うんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ