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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
106/201

体が勝手にそんな風に動いて

相手が自分の思う通りに行動してくれないと途端に悪態を吐き始める人がいる。そんな人からすればこの時の妻はそれこそ論外だったと思う。些細なことで僕をなじって、罵って、八つ当たりした。僕が知ってる妻の姿はそこにはなかった。


ただ、妻にもそういう部分があることを、僕は結婚する前から分かってた。理性的でいられる時はそうじゃなくても、感情が昂った時には汚い言葉で人を罵ってしまうことがあるのは分かってた。


でも、そういうのは殆どの人にあることだと思う。だから妻に限ったことじゃない筈なんだ。そんなことでいちいち目くじらを立てたくなかった。事情が事情だから。


毎日大量に髪が抜け、妻はそれを自分で粘着ローラーで片付けてた。その時の気持ちがどういうものだったのか、僕には分からない。たとえ髪が抜けても助かるのならと思っていたのか、それとも自分がいよいよ壊れていってることを感じていたのか……。


そんな中でも、僕と美智果のお見舞いは続いた。そんな時だからこそ欠かさずお見舞いに行った。僕はこの時にはもう今の仕事だったから、美智果が学校に行ってる午前中にも病室に顔を出した。その僕に、妻は言った。


「あなたの顔なんて見たくもない! もう来ないで!!」


って。


それが本心だろうとただの八つ当たりだろうと僕には関係ない。まだ小学校にも通ってない美智果を一人で病院に通わせることはできないから、午後にも必ず一緒に行った。


妻は、自分の母親にも僕に対する不満を打ち明けてたらしい。だから妻の母親にも言われた。


「あなたの所為であの子は死ぬのよ!」


ってね。


もちろんそんなことを言われて納得できるはずがなかった。気分は最悪だった。でも僕はなるべく反論しないように心掛けた。妻も妻の母親もこのどうしようもない不幸の中で正気を失ってるんだから反論したって意味がないって分かってたから。


人間は弱い。自分のキャパシティーを超える事態を前にすると簡単に理性を保てなくなる。僕の母もそうだった。だから僕の父親のような男と安易に結婚してしまったんだ。逃避する為に。


そしてこの頃には、僕もたぶん、正気じゃなかったと思う。美智果が学校に行ってる間に一人で風呂掃除をしてて、何故か残り湯を、風呂掃除用の柄付スポンジで何度も叩いて叩いて叩いて叩いて、柄付スポンジを壊してしまったこともある。


別に、腹が立ってたとか苛々してたとかそんな自覚はなかったのに、体が勝手にそんな風に動いて止められなかったんだ。


それでもなお、美智果を見てる時には落ち着けてたんだ。



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