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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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毎日は淡々と過ぎていった

妻は、『私の気持ちがあなたに分かる!?』と僕に問い詰めたけど、同時に、僕の気持ちも妻には分からない。


そういうものなんだ。人間は、相手の気持ちを百パーセント理解できるわけじゃない。それは事実なんだ。そして僕は、その事実を受け入れた。


妻の抗がん剤治療は、投薬中は入院して、投薬の休養中は自宅に帰るというパターンだった。病室でも家でも、妻は美智果に対しては普通に振る舞ってくれてたと思う。だからその分を僕に当たるのは仕方ないと考えた。


腹が立たなかったかと言ったら嘘になる。いい気がしないのは当然だ。だけど、もう奇跡でも起こらない限りは無理という状況で平然としてられる人間なんて、滅多にいない。アニメやドラマでそんな時でも毅然としてる登場人物が出てきたりするけど、そういう人は普通はいないからキャラクターとして活きるんだ。誰でもそんな風にできるんなら、何も特別じゃないから。それが分かってるから、妻の心が壊れていくことも受け入れた。


受け入れるしかなかったんだ。


その分を、病院での家族向けのカウンセリングで吐き出した。感情的になって涙が止まらなくなったこともある。でもそれ以上に、僕を癒してくれるものがあった。


美智果だ。


自分の母親に起こってることをまだよく分かってなかった美智果は、


「ママのびょうき、はやくなおるといいね」


と屈託なく笑いながら僕に言った。その笑顔が僕にとっては救いだったと思う。母親に甘えられない分を補ってあげる為に、僕は美智果をずっと膝に抱き、お風呂も寝るのも一緒にした。それが僕にとっても癒しになったんだ。


今、美智果が使っている座椅子は、この時、妻が自宅で過ごす時に少しでも楽な体勢でいられるようにと思って買ったものだ。ある意味では形見になってしまった座椅子に、美智果は体を預けてる。もう六年も経ってしまったからかなり痛んできてるけど、捨てられない。


投薬の休養期間で妻が家にいる時も、妻の膝に座るのは負担になるからと思って、僕が美智果を膝に座らせてた。ただ、お風呂は妻が一緒に入った。少しでも長く触れ合う為に。


投薬の為に入院してる間も、美智果は寂しがったりしなかった。美智果が寂しがったりしないようにと、僕はとにかく一緒にいるようにした。


そうして毎日は淡々と過ぎていった。


最初の抗がん剤では進行さえ遅らせられなくなってきたのが分かって、次の薬に切り替わることになった。


その薬はさらにきついもので、よく言われる副反応が出始めた。眩暈がして吐き気が止まらず、髪も抜け始めた。


すると一層、妻の心は壊れていったんだ。



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