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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
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あなたにこの気持ちが分かる!?

抗がん剤治療をするときは、妻は病院に入院していた。僕は美智果を連れて毎日お見舞いに行った。妻は僕と美智果がいる時は明るい感じだったけど、夜とかは一人で泣いてると看護師さんから聞いた。


「励ましてあげてくださいね。ご主人さん」


言われるまでもなかった。でも、どうするのが妻を励ますことになるのか分からなかった。


抗がん剤治療とかは、よく、副反応が強くて大変だって聞いてたのに、妻のそれは思ったほどじゃないらしかった。だけどそれは、決していいことじゃなかったらしい。実際には殆ど効果が出てないっていう意味でもあったらしいから。


多少、進行は遅らせられてたらしいけど、気休め程度にしかならないのも分かってた。同じ抗がん剤をいつまでも投与はできない。時期が来れば別のものに変えるしかない。


腫瘍マーカーの数値に一喜一憂しながら、妻は頑張った。でもだんだんとやつれていくのははっきりと分かった。


それは自分でも分かってたんだと思う。不安と恐怖で正気を失っていくのをまざまざと見せ付けられた。


「私は死ぬんだよ!? あなたにこの気持ちが分かる!?」


美智果がまだ学校に行ってる間の午前中に、担当の医師からの説明を受ける為に病院に行った時に、妻が僕に向かって言ったことだ。


僕は、何も答えられなかった。


別の日には、こんなことも言われた。


「どうして私なの!? どうしてあなたじゃないの!?」


どうしてガンになったのが僕じゃなくて自分なのかってことだった。


これにも僕は答えられなかった。


僕は妻を愛してるし、妻も僕を愛してくれてたと思う。でも、自分が死ななきゃいけないかもしれないという理不尽さの前では、理性なんて藁の家みたいなものだったんだろうな。


それでも、美智果の前では母親の姿を保とうとはしてくれてたんだ。その分、僕に当たったんだろうけどさ。


『病気だからってワガママになるのは許せない』とか言う人がいる。


だけどそれは、自分の目の前で大切な人が死んでいくのを見届けなきゃならなかったっていう経験をしたことのない人間だから言えることのような気がする。


一日一日、自分の体が壊れていくのを感じながら過ごさなきゃいけないことの恐ろしさを実感できてたら言えないことなんじゃないかな。


人によっては、そういうのを乗り越えられるのもいるかもしれない。だけどそういう人はそんなにいない気もする。


妻は、そういうのができる可能性を持った人だったと思うけど、なにぶん、時間がなさ過ぎたんだろうな。それを乗り越える前に、タイムリミットが来てしまったんだと思うんだ。



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