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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
102/201

それでもいいけどさ

「よっしゃ~、ちゃんと用意できたかな~?」


「うん! 大丈夫~!」


今日から三日間。美智果は修学旅行に行く。行先は広島。となれば当然、平和記念公園だよね。


それが行先になってることについて僕は別に難しく考えていない。


原爆資料館の展示について、


『子供がショックを受けるんじゃないか?』


みたいなことも言われるらしいけど、僕はそれほど気にしてない。


子供にストレスをかけることを目的にやってるんなら反対でも、あくまでそういう過去を知るというだけなら必要だと思うし。たとえショックを受けたとしても、僕がフォローする。


日常の中で受けるストレスは、避けようがないものだ。大事なのはそれをどう受け止めるかだと思うし。何かでショックを受けた時にそれをどうやって受け止めるかを、僕は美智果に教えていきたい。


だから後は、ただただ無事に帰ってきてくれればそれでいいんだ。


「いってきま~す!」


体のほとんどが隠れてしまうような大きなリュックを背負って元気に出掛ける美智果を見送ると、途端に部屋の中が静まり返った。


臨海学校の時もそうだったけど、美智果がいないこの家は、本当に静かだ。


あまり近所付き合いもしない、美智果の友達以外の人が訪ねてくることもない。そういう意味じゃ、僕は本当にダメな人間だ。妻と結婚して美智果が来てくれてなかったら、それこそ孤独死一直線だっただろうな。


正直、それでもいいと思ってたりもするけどね。


僕には相応しい最後だと思うし。




昼間は普通に学校がある日も静かなものだからいつも通りでも、夜になっても美智果が帰ってこないのは、何とも言えない虚しさがある。


寂しい、というのとはちょっと違うのかな。単純にとにかく空虚な感じなんだ。自分の存在そのものがどうでもいいものになったみたいで、ただ時間だけが過ぎていく。


美智果と一緒じゃなきゃ、アニメも見る気がしない。ゲームにも今は興味がない。ただただ、ずっと仕事をするだけ。遅めの昼食の後、気付けば翌日の明け方になるまで食事もしなかった。時間の感覚がない。


自分が生きてる実感もない。


なんとなく時間だけが過ぎていく。


本当に僕には、美智果しかないんだなあ。


だけどそれでいい。


将来、あの子が家を出ていって、結婚して、家庭を持って、うちに帰ってこなくなったらとも思うけど、まあたぶん、子供ができれば何だかんだと頼ってくれる予感はある。


美智果と結婚してくれた旦那さんが、僕と同じように子供と接するようにでもならない限り。


もしそうなったら、僕は別に必要なくなるな……


まあ、それでもいいけどさ。



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