14 夢みたいな目標があるなら過激なことをしてはダメ
「そうか……そうですよ! 支部長、黒部さんにヒーロー認定免許を出して協力してもらいましょう!」
かがみは晃司の提案を受けるや否や、無事な方の手を上司の机に乗せるほど前のめりになる。
「リュミナイスで、大型怪獣を単独撃破できたこと。いま当たっている組織と戦って生き残ったこと。これらから充分な戦力になるということは証明済みです! それにリュミナイスなんですよ!」
晃司の出身種族をただ重ねて主張するほどに逸って、かがみはこの協力を受け入れることを勧める。
しかし対する朝比奈支部長は、無精ひげを弄んでうなるばかり。
「ここで協力を申し出てくれたことからもお分かりでしょうが、彼は私たちに協力的です。理が通っていれば、厳しい処遇も納得して受け入れてくれますし……」
上司が難色を示しているのをまずいと見たか、かがみはさらに重ねて晃司を良き味方になると売り込む。
しかし勢い込んで唾まで飛びかねない部下に、支部長は平手を前に待ったをかける。
「……いや。そこは分かってるんだよ。黒部君が味方となってくれれば、これは頼もしい。第一いまは一人でも手が欲しい状態だしね」
「でしたら、今すぐに彼に公認のヒーローとしての登録と証明証を! 協力してくれるのですからせめて動きやすく!」
「でもダメだね。公認免許は出せないよ」
ならばとさらに勢い込むかがみに対して、支部長からは否の言葉が返される。
自分で免許発行までしかねないほどに逸っていたかがみは、冷や水を浴びせられるような上司の言葉にしばし沈黙。ぱちくりと瞬きを繰り返しながら首をひねる。
そんな「何言ってんだこの人は」と理解に苦しむ仕種で固まってしばらく。
「なぜ、です、かッ!?」
頭が回り出して正気を取り戻したかがみは、上司の机を左手で叩きつつ詰問する。
「我々の戦力はガタガタで、増員が派遣されるのを待ってる時間もない! その上で能力人格共に信用できる人が協力してくれるっていうのに!?」
「はーいはいはい。その辺りは分かってるから落ち着きなさいな。キミらしくもない」
「これでどう落ち着けと!? 分かってらっしゃるならなぜ許可が出せないのか説明してください!」
「そうだね。じゃ、まず黒部君、うちらの公認ヒーロー免許、今すぐ必要かな?」
朝比奈は完全に頭に血が上ってるかがみを避けて、それまで静かに話の流れを見ていた当事者に水を向ける。
「いえ。俺としてもその辺りはまだ早いかなって。とりあえずは仮免の見習いか、監視付きの懲役扱いでも参戦させてもらおうって思ってたんで……」
「そんな!? 本当にそれでいいの!? そんな扱いで!?」
支部長に賛成する晃司の意見に、かがみは嘘だと言ってよとばかりに問いを重ねる。
「いやだって、Gコスモスの規定で認定試験を受ける資格なしってされてるヤツを、特例で一足飛びに即認定免許発行ってマズイっすよね?」
「あ」
冷静に理を説いてみれば、熱くなっていたかがみの頭が冷える。
今回晃司を特例として扱ってしまえばどうなるか。
確かにいまぶつかっている難事には対応できるし、晃司も公認の権限でこれから先も協力しやすくなる。
晃司が普通の、単純に免許未取得のリュミナイス人であればそれで良かっただろう。
たがしかし、晃司――オルフェインは生来抱えた危険な障害のために、受験申し込みの段階で門前払いを食らっている身である。
ここで原則を越えて認定する前例を作ってしまえば、我も我もと認められざる者たちが認定を求めて訴えてくることだろう。
それ自体はいい。
暴発制御能力すら見ずに受験資格無し。このように扱われる現状には、晃司自身、少なくない不満を抱えてはいるのだから。後続のための針の一穴となるのは望むところである。
だがかがみが求めた一足飛びの公認は、その望みからしてもやり過ぎだ。
与えては行けないレベルの暴発持ちや、見境ない殺戮狂になる暴走性持ち。そうした連中にまで、これまでの詫びとしての認定証発行まであり得る。
そうした連中が事故を起こせば、特例を認めさせた者たちは間違い無く責を問われる。
それどころか、これから正しく認められる可能性のあった者たちの道を、完全に断ちきることになる。
これでは三歩進んで二歩下がるどころか、ふりだしに戻されて賽を取り上げられるようなモノだ。
「不満があるから現状打破。大いに結構。ただ過激な革命ってものには、内から外からと反発がつきものだからね」
そう朝比奈支部長が締めくくれば、かがみも悔しげにしながらも、うなづき理解を示す。
「勢い大きな変化が必要な時ってのはあるよ? そうしなきゃ何も変わらないことだってね。でも、これはそうじゃない。大抵のことはじっくり地ならしするところから始めた方がいいのさ」
急がば回れ。と、そう言いながら朝比奈支部長はまた不精ひげを引き抜く。
「……分かり……ました」
そうしてかがみが渋々と、不本意であると全身で主張しながらも引き下がる。
「そんじゃ、ま、実際問題質も数も人材はまるで足りてないわけだしね。監督役付きの半分モグリ扱いにはなるけど、やってくれるかな?」
「はい。その辺りから実績を作って受験資格をもぎ取ってやろうと思ってたんで」
構わないかと確認を取る朝比奈支部長に、晃司は笑みを浮かべて首を縦に振る。
「これは若いのに堅実なこったね」
「拳一発で砕けないのなら百殴れ。一撃で破ることにこだわるな。師匠の教えです」
「そうそう。そういうことだね。焦って頼った大技に限って外れるか通じないかなんだから」
晃司が口に出した恩師からの薫陶。それに続く形で朝比奈が言った言葉に、晃司は目を見開く。
いま朝比奈が口にした文句は、多少くだけてこそいるが、晃司が師から受けた言葉の続きなのである。
「その言葉は……!?」
「そんじゃ戦闘承認を出す監督役は不破に任せるから」
その言葉をどこで誰からと尋ねかける晃司を遮って、支部長は部下に新しい仕事を申し渡す。
「了解で……」
「ちょっと待って下さい。不破さんもケガをしてるのに?」
かがみが新たに任された務めを請け負うのに割り込んで、晃司が疑問の声を上げる。
晃司はこれから、犯罪組織との戦いの矢面に立つことになる。
その相方ともなれば、荒事の現場に居合わせることも少なくないだろう。そんな役にケガ人を当てるというこの判断には、誰だって疑問を持たずにはいられないだろう。
対して朝比奈支部長はもっともな疑問だとうなづく。
「こちらとしてもいたずらに人材を消耗したくはないし、負傷したのならきっちり治してから復帰してもらいたいよ」
「……他に任せられるのがいるならそちらにしている、ってワケすか?」
「そういうこと。動けはする程度で、権限を持たせられるのが不破ぐらいしか残ってないんだよねぇ……ああ、ヤダヤダ」
晃司が不本意な人事なのかと尋ねれば、朝比奈支部長はケガ人を休ませることすらできない自分たちの人材の貧しさを嘆く。
「それに、戦うのは黒部君に担当してもらえたなら、不破が怪我してるっていっても何とかなるでしょう。分担だね、分担」
朝比奈が言うにはかがみがケガして戦えない分を晃司が補えと。つまりは足して一人前として働けと、そういうことらしい。
「しかし、それでも……流れ弾に当たりそうなのは……」
話は分かるが、と晃司は朝比奈の人事に難色を示す。
しかしそんな晃司の肩にかがみの手が乗る。
「私なら大丈夫。一緒にやらせて」
「そうは言いますけど……」
やれると言うかがみへ振り返った晃司は、そこで思わず言葉を詰まらせる。
「……あんなヒトを売り飛ばしてるような連中は、私がなんとしてでも壊滅させてやりますから……!」
そう語るかがみの目が、親の仇を逃すまいとするかのように鋭かったからだ。
「危ないっていうのはそうだけどさ。無茶しないように、っていうのもあるから。心配かもしれないけど、これで頼むよ」
剣呑な光を灯したかがみの目。そしてこの支部長の言葉を受けて、晃司はコンビを編成させた朝比奈の真意にたどり着く。
晃司からもかがみの動きに目配りすることを求めている。
かがみは今回当たった人さらい組織に対して、強く入れ込んでいる。どうしてかの理由を晃司は知らないが、それは間違いない。
自分が壊滅に関わるためならば、ケガをおして前に出ようとするだろう。
たとえ止めても聞かないだろうから、せめてブレーキ役を付けて目的を遂げさせてやる方がいい。少なくとも、ひそかに刺し違えてでもと特攻をされるよりはマシ。
これが朝比奈支部長が、二人を組ませた理由だろう。
「お任せください。これから共に戦う同志である黒部さんに、捨て身の戦いなんてさせません」
しかしかがみはそんな上司の腹に気づいた様子もなく。胸を張って敬礼を返す。
これはもうどうしようもない。
前のめりなかがみを見てそう悟った晃司は、降参だと両手を上げる。
「分かりました。無茶しないようにしっかり見張ってて下さいよ」
晃司は暗に、かがみが突っ込むのも無しだとの意味も添えて了解の返事をする。
「もちろんです。一緒に連中を叩きつぶしてやりましょう」
これはダメだ。
鼻息荒く、コンビ結成の握手を求めるかがみに応じながら、晃司は相方が自分自身の危うさにまるで気づいていないことを察する。
ともあれ、晃司に対しても責任を負う状況それだけでも、かがみに軽々しい選択を避けさせる命綱にはなるだろう。
たぶん。きっと。おそらく。
そんな晃司の胸のうちをよそに、朝比奈は机の通信機を操作している。
「……それじゃ制御装置は頼むよ、ドクター」
『もう、修さんったらリュミナイスに対するリミッターだなんて、無茶言ってくれるじゃないのよ。燃えてきちゃうじゃない!』
「とまあそういうわけで、後で装備の受け取りにドクターのところに寄っていっておいてね」
机の上でクネクネと身もだえする、ドクター・ルルイエの立体映像。
これの本体とまたすぐに顔を会わせなくてはならない状況に、晃司は肩がズシリと重くなるのを感じていた。




