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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
34/45

初レースに奮戦するものの、そうそう主人公のように目立てるわけもないと思ったら、なんか別の形で目立ってしまうことになってしまった件

 カウントダウンが進む。

 目の前に浮かんだ数字が一秒ごとに減っていく。そして、カウントが0になると同時に、一斉にイルカたちが飛び出す。

 僕のイルカもまた、勢いよく飛び出したのだが、いきなり僕のイルカの癖が発動する。つまりは……


「うわっぷっ!」


 ジャンプからの潜水である。もちろん、水の中に入ったからと言って本当に息苦しさを感じるわけではないのだけれど、こればかりは反射的なもので、身がすくんでしまう。水を飲んだわけでもないし、そもそも飲んでしまうわけではないのだけれど。


 とは言え、一瞬出遅れたかと思ったのだが、案外そうでもなかったのには少々驚いた。

 プレイヤーキャラクターはステータス的な差はあっても、移動速度などには差がないようにできている。スキルによって多少の変化はあるとはいえ、それが大原則だ。

 だが、ペットの性能には案外差があるようだ。いや、ひょっとしたらパラメータの合計的には平等なのかもしれないが、個々の能力に関しては癖が強い感じがする。

 例えば、今並走しているNPCのイルカには癖がない。癖がないことが癖なのだろう。案外こういうのが強敵だったりすることもあるのだろうが、NPCのためか、ひどく堅実なレースをする。

 逆に、僕のイルカは、瞬発力特化ともいえる。スタートと同時に海上へジャンプするなどという離れ業を見せてくれるほどに。

 ただ、着水と同時に潜水するため、あまりスピードが乗らないのが欠点か。あと、癖を抑えるのが難しいことも問題点だ。


 レースの初チャレンジのコースは、なんの飾りっ気もないトラック2周ってやつなのだが、これが意外に難しい。

 癖を強く抑えると、反発心からか、命令不服従が増える。スピードも乗らない。

 が、癖を抑えずにやりたいようにやらせると、ジャンプと潜水を繰り返し、やはりスピードが乗らないのだ。

 ライバルの三人の様子をうかがうと、僕と同じように苦戦している人が一人、大人しめな癖のため、安定したレース運びの人が一人、そして僕以上にひどい癖……ジャンプをするのは同じなのだけれど、ひねりが加わっている……を見事に制しているプレイヤーが一人。

 あのひと、先輩より上手くね?


 あっという間にレースは終わり、僕は残念ながら4位でポイントを得ることは出来なかった。


「すごいね、君」


 同じレースに出ていたプレイヤーが、その上手なプレイヤーに声をかけていた。すぐに人だかりができて、彼女を取り囲んでいた。


「あー、ごめんなぁ。うち、ノーマルの〈騎獣〉持ちやから」


 彼女は頭を掻きながらそう答えてくれた。〈調教〉持ちはそこそこの人数がいるようだけれど。〈騎獣〉持ちは珍しいな。〈騎獣〉は、乗ることが可能なペットをもって初めて使えるスキルだ。レンタルできる馬もあるんだけれど、こちらはスキルなしでも問題なく乗れる。かわりに、騎乗戦闘などは出来ないのだけれど。


「このイベント自体、〈調教〉と〈騎獣〉のコンボを広めることが目的なのかもしれないね」


 誰かのセリフに、僕はなるほどと頷いた。確かに、その通りだろう。このイベントではペット化した動物に乗ることが出来ること、そしてそれを補佐するスキルがあることを堂々と示している。

 これは、考えさせられるなぁ。正直スキルポイントはあまり無駄にできない。偶然的にラーニングが起こることはあるが、〈回避〉のように戦闘をしているうちに覚える可能性のあるスキルは少ない。スキルなしの武器を振り回してもマイナス補正が強くて命中すらしないからだ。そう言った面では、ハーフダイブよりフルダイブの方が有利ではある。

 スキルを一定値まで上げることでスキルポイントを得ることはできるものの、派生スキルを取るべきかという問題にぶつかってしまう。


「まあ、今考えなくてもいいか」


 結局は、そこへ落ち着いてしまうのであった。


 っと、よく見たら、いちごさんもレースに出てるな。応援をしなくては。



 いちごさんの相手は、僕の時のようなハイレベルなひとがいなかったこともあるのか、2位に食い込んでいた。

 実際、いい感じでBPが溜まっていくので、そろそろ次のスキルか装備品をもらいにいくのもいいかもしれない。

 そう思って、僕は海から上がった。

 ポイント交換所で交換できるアイテムやスキルを確認すると、〈潜水〉や〈釣り〉〈調理〉などが並んでいる。ちなみに〈潜水〉は水中眼鏡に、〈釣り〉は釣り竿に付与されている。

 ポイントは足りているようなので、水中眼鏡と釣り竿を交換しておく。

 と、その時、個別チャットが届いた。ウッディからだ。


『よう、ちょっといいか』


『大丈夫だよ。何か用かな』


『悪いが、お前さんのいるエリアに行きたいんで、パーティに誘ってもらえるか? 何、そっちのエリアに入ったら抜けるからよ』


 ふむ、なんだろう? まあそのくらいなら問題ないだろう。今ならパーティにも空きがあることだし。

 念のため、いちごさんや先輩にも了承を取っておく。二人とも、問題なく受け入れてくれた。


『おっけー、じゃあ誘うよ』


 目の前にいるわけではないので、これはコマンド入力をしなければならないのだが、実際にはそこまで面倒なことではない。

 パーティ申請のコマンドを呼び出し、フレンドリストからウッディを選択する。それだけのことだ。逆に言えば、フレンドでなければ面倒なのだけれど。特に今回のイベントでは全ワールドのキャラクターが入り混じっているため、同名のキャラクターが存在したりするのでますます面倒ではある。


 ややあって、パーティ欄にウッディの名前が載る。エリアが違うので、HPなどの代わりに、彼が今いるエリアが記載されている。しばらくするとエリア移動中に変わり、直ぐにHPに切り替わる。どうやらこのイベントエリアへと到着したようだ。


『助かったぜ。じゃあ、ギルドの仲間たちをこっちに連れてくるから、ちっとだけ待っててくれや』


 そういうと、ウッディはパーティから離脱した。なんだったんだろうね、まったく。




「おぅ、いたな。最近殆ど出会わんが、元気にしてたみたいだな」


「ウッディの方こそ、活躍は聞いてるよ。なかなか派手にやってるらしいじゃないか」


 ウッディ率いるギルド〈ピカレスク・ロマン〉は決して大手とは言えないグループだ。10人前後というギルドとしてはどちらかというと弱小に分類される。どちらかというとロールプレイヤー主体のギルドで、悪役ロールなプレイヤーが集まっている。もちろん、悪役と言っても他のプレイヤーが嫌がるようなことをするわけではない。あくまで、悪役を演じることを楽しむプレイヤーたちの集団だ。

 だが、ロールプレイヤーで構成された少人数ギルドだからと言って甘く見てはいけない。ウッディをはじめとする創立メンバーのプレイヤースキルは大手攻略ギルドに一目置かれているとの噂である。また、悪役を演じるうえで必要あるという理由で、対人戦闘もハイレベルにこなすというから驚きだ。


「何言ってやがる。お前さんの方がなかなか面白いスタイルらしいじゃねぇか」


 そうかな? 僕のスタイルはそんなに面白いとは思わないんだけれど。


「お前、結構噂にはなってるぜ。神出鬼没の錬金術師。決して街に姿を見せず、どのギルドにも属さない謎の男としてな。かーっ、そういうおいしいロールプレイやるならそうと言ってくれればよかったのによ」


「なにその中二的カッコイイ設定」


 なんか恥ずかしくなる。僕としてはそんなつもりはないのだけれど。


「あらあら? リュートくんはそんないた……いえ楽しいプレイスタイルだったわけね」


「今、イタイって言おうとしたでしょ」


 僕は頭を右手で押さえながら言う。こういう時。フルダイブだともろに動作に出てしまうのが難点だ。


「あらあら、アンナマリーちゃん。少年はそのくらい夢見がちな方が可愛らしいと思うわ」


 むしろやめてください、いちごさん。いちごさんはいい人だと思うけれど、友達以上にはぜってぇなりたくありません。特に、先輩と意気投合できるあなたとは。


「ま、ちょっとこっち来いよ。お前さんも当事者だからな」


 ウッディはぐいっと僕の肩に腕を回す。もちろんそれは規定されたエモーション動作なのだけれど、なんども思うのだけれど、彼はそう言った動作の使い方が上手い。

 身長差があるため、僕は思わず前のめりになる。抵抗することもできるのだけれど、それは無粋というものだろう。

 それに、ちょっぴりだけ、そういう関係にあこがれてたっていうのもある。

 友達がいないわけではないし、僕の一方的なものかもしれないけれど、親友と呼べるような友達もいる。だが、リアルではやはりこういったスキンシップは慣れていない。


 僕は、ウッディに引かれるまま、島の中央付近にある広場に連れてこられた。

 おそらくは、今回のイベント中になにかが催されるのであろうが、今は使われてはいない場所でもある。僕は、ウッディに導かれるまま、そのステージ部分に立った。そこには、以前ボス戦で共に戦ったみんなをはじめとするギルド〈ピカレスク・ロマン〉のメンバーたちが既に揃っていた。まあ、この時の僕は彼らのメンバーの半数とは初対面だったのだけれど。


「なんなんだ、いったい。さすがにそろそろ説明が欲しいところだよ」


「ま、すぐにわかるって」


 ウッディはそういうと、どこかシニカルな、だがそれ故にとても彼によく似合う笑みを見せた。ちなみに、おそらくそれは、「嘲笑う」というエモーションコマンドだと思われるのだが、あまりに似合いすぎていて、逆に魅力的にも見えるというのは、なかなか凝ったフェイスメイクだと思ってしまう。

 ちなみに先輩たちはというと、客席に当たるのだろう丸太を並べた長椅子にとても仲のよさそうな感じで並んで座ってこちらを見ていた。どうやら、この現状をこの上なく楽しんでいるようだ。


「〈ピカレスク・ロマン〉の方々、準備はよろしいですか。取材陣が到着したようですので、そろそろインタビューを始めようと思います」


 マイクのようなものを片手に、フェアリー男性のアバターがそう告げた。


 インタビューってなに?

 僕はどうやら、混乱しているようだ。そんなの、聞いてないよ?


「いや、言うと逃げるだろ、お前」


 ウッディの言葉に、返す言葉もない僕であった。

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