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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
32/45

いちごさんとバトった勇士たちの冥福を祈った件

 さてさて、実はGMって暇なのか、と思うほど彼はあまり時間を置かずやってきた。


 ポーン・オラトリオと名乗ったGMは、通報者……コーエンという名の男性プレイヤーとしばらく個別チャットで話を聞いていたが、一通りの聴取を終えると僕に向き直った。


「さて、質問いいかな」


「どうぞ」


 僕は答える。多少そっけなくなるが、仕方ないだろう。


「まず、ログから君の命中率を確認させてもらった。確かに、非常に高いね。どのようにしてその命中率を維持したのか聞かせてほしい。ここでの発言のログはこちらで管理させてもらうが、外部には聞こえないようにしてあるので、率直に聞かせてほしい」


「単純に、方向と距離を記憶していただけですよ。僕はそういうの、得意なんです」


「簡単なことではないと思いますが? 事前に数回転させられますが、回転数及び角度はランダム要素が高いよう設定されています」


「でも、回転数を覚えられないように、体感できる回転数と実際の回転数がずれたりはしてないですよね」


 しばらく彼は考え込んだ後、誰かと個別チャットを開いたようだった。


「では、実際に試してもらえますか。不正がないように、リュートさんのアクセスデータは記録を取らせていただきます」




「回転数、さっきの試行より多くないですか?」


 僕はそう言いながら、向きを微調整する。距離も問題ない。矢を放つと、小気味のよい命中音がして的に中ったことを知らせてくれる。


「回転数は、今回ランダムではなくて、検証班による手動できめてますからね。しかしすごいですね。6回転以上回してもほぼ正確に向きを把握できているなんて。あまりに正確過ぎて不正を疑われるのも無理はないかもしれませんね」


 そういうものか。


「もう少しだけ検証に付き合ってください」


 また回転が始まる。1、2、3、4……と120度。

 僕は向きを調整して、的の座標位置を思い出す。その位置へ向けて矢を放つ。


 あれ? 中ると思ったんだけど。

 命中音はしなかった。


「もう一度お願いします」


 GMの指示に従い、もう一度試行する。

 今度も外れた。おかしいなぁ。イメージ的には当たってておかしくはないのだけれど。


「ひょっとして、的の方動かしました?」


 まさかとは思ったが、僕は尋ねてみた。


「正解。本当に見えてなかったんだねぇ。何らかの手段で視覚で捉えている可能性を考えて回転中に的の位置を変えてみたんだけどね」


 やっぱりかー。


「コーエンさんも、納得いただけましたか」


「さすがに、納得をせざるを得ないな。そう言う風に言うということは、不正なアクセスやツールの使用は確認されなかったということなんだろ」


「はい。その通りですよ」


「ならば、謝罪しよう。疑って悪かった」


「いえ、僕も紛らわしいことを言ったのでお互い様です」


「お互い、納得されたようですので、私は失礼させていただきます。それでは、良き冒険ライフを」




「さすがに、一つのミニゲームで稼げるポイントには上限があるか」


 僕らは、その後もう二回スイカ割りをやったが、四回目をやろうとしたら、店主からやんわりとほかのイベントも回ってやってくれと言われて、その後、チャレンジするという選択肢が消えた。


「でも、あたしたちにも300BP以上流れてきたわ。ほとんど何もしていないのに、やっぱり悪いわねぇ」


 いちごさんが申し訳なさそうに言う。そう言いながらも、ちゃっかりBPを水着と交換しているのはいい神経をしているというべきだろうか。

 水着と言っても、実際にはあまりきわどいものはない。当たり前のことだが、基本FFOは全年齢対応型である。あまり過激な露出はできないし、お酒やたばこの類のアイテムもない(例外的にイベントアイテムはあるようで、ヤマト方面のボス弱体アイテムとしてお神酒が用意されている。当然、プレイヤーが飲むことはできない)


 僕は、一般的なボクサーパンツタイプの水着を選び、先輩はビキニタイプを選んでいる。ビキニとは言え、露出は出来るだけ控えたタイプのものだ。タンキニっていうのか? 女性用の水着などよくわからん。

 問題はいちごさんなのだが、無難にロングスパッツタイプの男性用水着を着用している。リアルならボディビルダーと言っても過言ではない見事なまでの逆三角形のマッチョボディで恥じらう乙女のごとき仕草は僕らの正気度をガリガリと削っているのだが。


「あんまり見つめないで。恥ずかしくなっちゃう」


 !!!!


 はっ、いかん。一瞬石化していたようだ。


「仲良しさんですね。ちょっと妬けちゃうかしら」


 先輩、冗談でも言っていいことと悪いことがあるのですよ。と口に出せたらきっと僕と先輩の力関係も変わるのだろうなと思いつつも、額を押さえて首を横に振った。フルダイブだとこういった動作も出てしまうので、案外誰がフルダイブでログインしているかは判別しているらしい。中にはウッディのように、いくつものエモーションコマンドを的確に発動させ事でまるでフルダイブプレイヤーのような動きをする上級者もいるのだが。


「先輩、勘弁してください」


「ゲーム内では、リアル持ち込まない。アンナマリーってネームがちゃんとあるのですから、そちらで呼んでほしいな」


「あらぁ。やっぱりリアフレ? んもう、リュートくんも隅に置けないわね」


 こいつらは……わかっていじってるな。

 表情に出てしまったようで、二人とも困ったような仕草を見せた。


「ちょっとからかいすぎたわね。……んー、そうねぇ。……そうだわ、あたしもリュートくんにポイントでお返ししましょうか」


 いちごさんは目ざとく自分の得意なミニゲームを見つけたようだった。


 いちごさんに導かれるまま、ミニゲーム屋台へと向かう。そこは、なんというか、うん、いちごさんにぴったりと言えるかもしれない屋台だった。


 その競技は…………尻相撲。


 対戦相手に同情するよ。


 今回のイベントでの尻相撲は、簡単に言うとフェイント、回避、攻撃の三種類のアクションを使い分けて海上に浮かんだ足場から相手を落とした方が勝ちになる。普段のゲームシステムから考えれば、体重のあるオーガなどが有利と思われがちだが、今回のイベントに於いては種族の差はない。そのため、今行われている対決の中には、大柄なオーガを体重で言えば1割ほどでしかないだろうフェアリーが弾き飛ばすような光景が見られたりしている。


 さて、実際のいちごさんの成績であるが……圧倒的であった。

 基本、お尻同士をぶつけあう競技であるからして、セクハラ防止のため、同性同士での対決となるのだが、果たしていちごさんに積極的に攻撃できる男がいるだろうか。

 どうしても、初手で攻撃より回避、フェイントを選びがちになる。

 一応ルールを説明しておく必要があるだろう。

 まずは攻撃。これは相手を押し出すためのアクションで、これが成功すれば、相手の体勢を大きく崩すことが出来る。ただし、次の行動に移るまでにやや時間がかかる。基本的にはこのアクションで決めることが多いのだが、相手がタイミングよく回避アクションを取った場合、大きくバランスを崩すため、あっさり負けたりするようだ。逆に、フェイントアクションに対しては有利に働き、一発KOもあり得る。

 次いで、回避。これは純粋に相手の攻撃アクションを回避するものだ。相手の攻撃アクションに合わせてこれを行えば、カウンターでほぼKOできる。逆にフェイントアクションを合わせられると体勢が崩れてしまう。

 最後にフェイント。これは、相手の回避アクションと合わせることで相手の体勢を崩すことが目的である。その分直接的な攻撃アクションには弱い。

 そうやって三つのアクションをタイミングよく使いながら、崩れた体勢をハーフダイブならば、コントローラーのキーを連打することで、フルダイブなら自らのバランス感覚で、立て直す時間を短縮できるシステムだ。


 いちごさんと対戦する相手はどうしても、本能的なのか、初手をフェイントか回避で狙ってくる。そのことをいちごさん自身がよく理解しているようで、あっさりと相手のアクションに合わせて撃破を続けた。

 プレイヤー同士の対決ではあるが、負けてもポイントを失うわけではないので、少々八百長が流行っているようではあったが、組み合わせは基本的に登録純なため、不幸にもいちごさんと対戦することになった者たちは絶望の表情を見せながら散っていった。


「うふふふ、あたしもある意味、ずるかしら?」


 規定回数の勝利をあっさりともぎ取ったいちごさんは愛らしい仕草で笑った。というか、彼……いやさ、いちごさんのそんな仕草が気にならなくなってきている自分が少しやばい気がしているが。


「これは、わたくしも何か芸をしなくちゃいけない流れかしら」


 先輩が、そんないちごさんを見ながら、呟いた。

 勘弁してください。これ以上目立ちたくないのです。


 僕は、信じたこともない神様や仏様にそう祈りをささげた。まあ、無神論者の僕のそんな図々しいお願いをきいてくれるほど神様は暇ではないのだろうけど。

    

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